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死ねない男

作者: とろろ昆布2

いつの頃からであろうか、もうかなり時間が経っていると思われるがワタシはここで仕事をしている。毎朝決まった時間になるとアラームが鳴り、それに従い1日のルーチンがのろのろと始まる。

私の仕事は単調なもの。センサーから送られてくる信号をチェックし、対処するもの。しかし大概のものは自動的にマシンの方でデータを調整し、事後報告で終わる。

酸素濃度、温度や湿度の環境調整、放射線への防護、震動波への軸受け調整などなど…、本来ならば製品管理には神経を尖らすものだろうが、ここではホストコンピュータが優秀すぎるのでワタシの仕事はただモニターに映る数字を眺めるだけ…。

時々なんの為にこの仕事があるのか疑問に思う事もあるが、「緊急時の最終判断は人の手で」という倫理的な問題で、今のワタシの職種ができたと聞いている。

確かに誰かが責任を取らなけれならない状況が、来る事は想定できる。まあそんな状況にならない事がワタシらにとっては幸福なのだが、意外とそういう機会はそおっと訪れるモノなのかもしれない…。


日常の気怠さは、モニターに映る見慣れない表示で破られた。

管理区の酸素濃度が低下しているアラートサインが…。

「コンピュータ!概要を説明!」

「0824、西管理区3b隔壁から毎秒30トンの大気流失。気圧計が反応しません。」

製品を保管している西管理区の外壁が破壊されてしまったようだ、ワタシはマニュアル通りの操作を命じる。

「南北の管理区との隔壁閉鎖の確認。確認後各管理区の状況報告を。」

大規模の大気漏洩は今回が初めてではないが、一つの管理区全体が殺られるのは未だかつてない被害だ。モニターに映し出される各データを見つめながら、西管理区に格納されている人工冬眠中の移民団がほぼ全滅した事を認めざるを得なかった。

「隔壁の作動確認、西区以外の管理区は全て正常。」

「西区は高速移動物体により、外部から破壊された模様。」

「西区格納人工睡眠カプセルへの酸素供給路は絶望。移民団は全滅です。」

淡々とホストコンピュータが事後報告をあげてくる…。

「了解、西区へのエネルギー供給停止。残り3区の保全に全力を。」

ワタシはこの一言で数億人の同胞を切り捨てた。

残念だとか、無念だとかなどというセンチメンタルな感情は湧きはしなかったが、この仕事について始めて後悔をした。マニュアル通りとはいえ、大陸レベルの人命をこうも容易く切り捨てねばならない事態になるとは…。

「今の命令は、人類史上最大の殺人命令になるのか…。」

モニターは既に正常値を表示し、ワタシの発した懺悔などなかったかのように冷たく沈黙したいた。


人類にとって、絶望的な距離である恒星間の海を渡るためには人工冬眠が不可欠である。移民団はカプセルに収まり、新天地での活躍を夢見ていれば良いのだが、彼らを見守るニンゲンが不可欠になる。肉体を捨て、脳髄のみとなり死ぬ事も許されない存在が…。


終わり






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