しょしょしょ
ぼくは確信した!
・・・のはいいものの、驚いたり感慨がわいたりは一瞬だけのことで、ぼくはすぐに現実に引き戻された。急を要する難題が目の前に迫っていたのだ。
(で、これからどうしよう・・・)
ぼくはこれからの身の振り方に、ものすごく困っていた。
もともと遠路はるばるやってきたのは女を買うのが目的なのだが、その女というのがかつての同級生で、さらには自分の元「思い人」だとは思ってもみなかった。こんな偶然、予測しろというほうが無理な話だ。
・・・どうしよう。
ぼくは完全に硬直してしまった。一応思考はめまぐるしく動き回っているが、なんの解決も出ない。こういうとき、いったいどういうリアクションをとればいいんだ・・・
もしこれが道ばたや公園とかでの再会だったら、「おー久しぶりじゃ〜ん☆」などと言って屈託もなく再会することができるのだろうが、場所が場所で、状況が状況だ。
フーゾクで再会?
ははは、どうすればいいんだ。だれか助けてくれ・・・
一方、彼女の方も一目見るなりぼくと分かったらしく、同じく身の振り方にものすごく困っているようだ。ベットに腰掛けたまま、口をまぬけに半開きにして、目の動きがとまっている。
他の部屋からギシギシバタバタとなにやら不穏な音が聞こえる中で、ぼくたちは二人呆然と見つめ合っていた。
石のような沈黙が刻々と続き、ぼくは例にない量の冷や汗をかいていた。
そしてこの虫も殺しかねない沈黙に耐え切れなくなったぼくは気がつくと、あー、と声を伸ばしていた。とりあえず沈黙はなくなったが、自分がとことんマヌケに思えた。
すると彼女も同じように、あー、と声を伸ばしだした。見るも無残、ものすごいマヌケな顔をしている。
「あー」
「あー」
初めは音程の異なっていた二人の「あー」も、いつしかきれいにユニゾンして部屋を満たした。
そして思った。
・・・いったいぼくたちは二人してなにをやってるんだろう。
「ひ、ひさしぶりぃ」
あー、と伸ばすのが苦しくなってきたころ強ばった笑顔で彼女がびしっと手を上げた。
「お、おー久しぶりじゃ、じゃ〜ん」
負けじと強ばった笑顔でぼくはびしっと手を上げた。
「げ、元気してた?」
「と、とりあえず。そっちは?」
「ぼ、ぼちぼちです」
「そ、そうかあ」
「そ、そうだあ」
沈黙。
「ど、どうしたのこんなところに?」
「い、いや・・・み、道に迷って、気がついたらなんか変な店に紛れ込んでて、男の人にお金を渡したら、この部屋に案内された、うん、そう」
「し、しらじらしいウソは別に、言わなくてもいいんだよ」
あ、あははは、とぎこちなくぼくたちは笑いあった。