【SF】わたしは、信長
私の心が時空を超えて、ドッカーンと、信長のなかに入った。
拙著『とうふあたま ショートショート』所収の一編。
目覚めると信長になっていた。
あかるい。
朝か。
昨日までの信長の記憶と、平成の世のいちサラリーマン杉岡俊夫としての記憶が、あたまのなかで錯綜していた。
まるでSFじゃないか。
こんなこと、ありえない。あっていいはずがない。いったいどうしたというのだ。
わっ、わっわっわっわあああ!
ガバっと寝床から跳ね起きる。
ひょ、ひょっとして……。
月代をべべんと叩く。
いまは、いつだ。
確か──、
──天正十年五月二十八日。
そして、ここは──、
──本能寺。
本能寺の変だ!
ええと、いつだったっけ、やつが攻めてくるのは……ええとええと……。
ああ、こんなことになるなら、山岡荘八や吉川英治や司馬遼太郎をしっかり読んでおくべきだった。
えええい。とにかく逃げよう。ここは危ない。
「おい、蘭丸。馬じゃ。馬をひけぃ!」
「と、殿ぉ。いかがなされました?」
「馬じゃ、馬をひけと言っておるのじゃ。一刻の猶予もならん!」
「殿、殿ぉー。お待ちをー」
ふ~っ。なんとか脱出した。
森蘭丸、坊丸兄弟が左右を走っている。他のものたちも続々と合流している。
まずは、ひと安心。
さて、どこへ行こうか。
こうしていると、桶狭間を思いだすなあ……。うふ。あの奇襲。うまいことやったなあ。
そうだ! このまま光秀のいる亀山城を攻めてやろうか。やつはまだ気づいてはおるまい。先手必勝! 獅子身中の虫は、即刻退治すべし!
決まりだ。
「蘭丸。亀山城にむかうぞ」
「ええっ! と、殿。いま、なんと?」
「亀山城じゃ。それ、急げ」
「亀山城は確か、明智殿が……」
「そうじゃ、あのハゲねずみに一泡吹かせてやるのじゃ。ダハハハハハハハハハハハ」
われながらグッドアイデア。これで織田家は安泰。秀吉や家康の出る幕なし。
「みなのものおー、よーく聞けえええぃ! 敵は亀山城にあり!」
途中、兵馬を休ませるために集落に立ち寄った。
村おさにふろを借り、いい気分で湯に浸かっていると、とろりとろりと眠くなった。
ふろのなかで目覚めると、処刑中の石川五右衛門になっていた。