7、7ミリ口径、全長125ミリ
短めです。
それから瞬く間にひと月が過ぎた。
この頃になると、ティーゼもすっかりこの生活に溶け込み、アジトの盗賊たちもこの変わった客人のことを鷹揚に受け入れていた。
ティーゼがこのアジトに来てからは、ノマ盗賊団は大きな依頼を受けることもなく、モルザック男爵からの報酬を存分に使って毎日のように宴を開いていた。
実に穏やかな時間を、ティーゼはこの場所で過ごしていたのである。
ティーゼは今、山麓の村まで下りて、女盗賊たちが洗濯をするのを手伝っていた。ジジたちのアジトは陰った立地にあるため、日の当たるところまで下りないと洗濯物が乾かせないのである。村人とジジたちはもう長い付き合いらしく、ジジたちが村の有事には駆けつける代わりに、村はいくらかの物資を盗賊団に献上するという協力関係が成り立っていた。
「姫様、随分と手慣れてきましたねえ」
「本当に、お客さんにこんなことさせて申し訳ないわ」
アジトの盗賊たちはティーゼのことを「姫様」と呼んでいた。ユーリィに倣ったのである。ジジの「ガキ」という呼び方は論外として切り捨てられた。
「はい。少しでもお役にたてれば嬉しいですから、お気になさらず」
美少女の淡々とした丁寧な受け答えに、その場が和む。相変わらずにこりともしないティーゼであったが、言葉には愛想がある上、容姿が抜群に優れているため、彼らは始終和やかな目でティーゼを見た。ユーリィの外見と中身の裏切りっぷりに比べれば、断然マシという意見に一同同意していたのである。
洗濯物を干してアジトに帰ろうとしたところで、珍しいことにジジ直々の出迎えがあった。
「お前ら、このガキちょっと借りてくな」
返事を聞く前に、ひょいと少女の体を担ぎ上げた。この俵担ぎの光景も見慣れたものとなっていた。
女盗賊たちに見送られ、ジジはアジトへ帰る道とは真逆の方向へ歩き出した。
着いたのは、森をぽっかり切り取ったような丸い空き地である。
奥に丸太が五本立ててあって、それぞれの中心に大雑把な丸が描かれていた。
「ほい」
と気軽に渡されたものを何気なく受け取ったティーゼはわが目を疑った。
「今日から俺と銃の使い方の練習だ」
「はい」
理由は分からなかったが、ジジが言うならば必要なのだろうと、ティーゼはグリップを握り、金属の塊をしげしげと見つめた。
銃は全身を金色に包まれていた。銃口は六角形で、口径は小さい。グリップの下部分は丸みを帯び、蔦に絡めとられた薔薇と小鳥の彫刻が施されている。三日月型の引き金が弾倉の下から伸びていた。
「口径七ミリ、全長は一二五ミリの小型のカメレット・リボルバーだ。どうだ、趣味の悪い銃だろ、金ぴかだぜ。これを貸してやる」
「はい。ありがとうございます」
「てめえみてえなガキには単発銃で十分だと思ったんだけどよ、生憎ちょうど良いのがなくてな。ちょっと重いだろうが、六つ分の命の重さと思って持っとけ」
「はい」
「ところでガキ、銃を使うところは見たことねえよな」
「はい」
これは本当であった。男爵邸でジジが拳銃を使っている時は、背中に隠れていたためよく見えなかったのである。たとえ見えていたとしても、動作が速すぎて目が追い付かなかったであろう。
ジジは懐から愛用の銃を取り出した。
口径八五ミリ、全長三百ミリの真鍮製大型リボルバーである。
グリップの部分は木製で、ニスによって光沢を放っていた。銃身はくすんだ黄色に光り、銃身の根元部分から弾倉、グリップの上部にかけて複雑に絡まった紋様が彫られていた。
弾薬を装填したジジは、丸太に向かって銃を構え、前触れもなく引き金を引いた。撃鉄が起き上がり、僅かな溜めの後、空き地に銃声が鳴り響いた。
右端の丸太のど真ん中を撃ち抜く腕前を目撃して、顔には現れずともティーゼは素直に感心していた。
「どうだ簡単だろ?」
難しそうだ、と思ったけれど、そこはティーゼらしく、
「はい」
「自分にもできそうだと思ったろ?」
「はい」
「俺のこと舐めてんのか?」
「はい」
ティーゼは内心とは真逆のことを答えさせられる羽目になり、報復に片頬をつねられた。ひどい、今のはジジが悪いのに。
この男は毎度のように、こうやってティーゼをからかうのである。
王宮の人々は皆ティーゼとの手ごたえのない会話に疲弊するようであったので、以前ジジにも聞いたみたことがある。「お前との会話に飽きないのかって? 慣れると結構楽しんもんだぜ。ユーリィたちと軽口叩き合うのと同じようなこった。無愛想な肯定主義がてめえのてめえらしさってんなら、俺がどうこう言うべきことじゃねえしな」裏のない明快な答えに、ティーゼは心底安堵したのであった。
「じゃあ、早速練習開始だ。まあいきなりっつーのも何だから、まずは手順を覚えろよ」
「はい。頑張ります」
「聞き分けが良くてよろしい」
ジジはティーゼと向き合うようにしゃがみ込むと、銃の部品についてひとつひとつ教えた。銃のグリップと銃身との接続部(直角に曲がった部分)から飛び出た角のような部品を指した。
「これが撃鉄。これが上がってる時は弾を撃つ準備ができるってことだ。弾を撃つと元の位置に戻る。俺の愛銃はダブルアクションっていう引き金を引くだけで次弾が装填される代物だが、てめえの銃はシングルアクションだ。いちいち撃鉄を引き起こさなきゃらなねえのが面倒だが、その分引き金を引く力が軽くて済む。非力なガキにはこっちの方が向いてるだろう」
ジジは銃口を丸太に向けさせ、手順を説明した。
「まずは弾薬を六つ装填しろ」
「はい」
手間取りながら、実践してみる。
「で、撃鉄を指で起こす」
「はい」
親指で起こしてみた。
弾倉が回転し固定され、発射準備が整った。
「そして標的を見定めろ。いいか、実際に銃を使わなければならない場面では、こんな風にのんびりしてらんねえからな。標的から目を離すなよ、隙を見逃すな」
「はい」
ティーゼは、瞬きもせずに丸太に描かれた円の中心を見据えた。
「静かに息をしろ。気配を消せ。標的を油断させろ」
不意に視界の端で何かが動いた。薄茶色が草むらをごそごそと動いている。野兎である。
「緊張と不安で早まるな、その時が訪れるまで耐え続けろ」
二本の長い耳がピンと立った。何かを感じ取ったように、僅かに後ろ足で立ち上がる。
野兎のつぶらな瞳と、ティーゼの目が合った。
野兎は逃げ出そうとしたが、草の根につまづいらしく、まごついた。
「一瞬の隙が生まれたら躊躇いなく引き金を引け」
ティーゼは指先に力を込めた。
返事の代わりに、ジジの言葉を忠実に実行した。
自分の体が銃身に吸い込まれ、弾丸となって野兎に襲い掛かる、そんな感覚にとらわれる。
確かに、手ごたえがあった。
そう感じた時には、野兎は首を撃ち抜かれて物言わぬ死体と化していた。
知らず知らずのうちに詰めていた息を吐く。
振り返るとジジが棒を飲んだように突っ立っていた。
出会った時のように、珍獣を見るような雰囲気でティーゼを凝視している。
「…………」
「…………」
「………お前さ」
「はい」
「多分心臓の内側まで毛が生えてるぜ……」
げっそりとした顔でジジは項垂れ、ずきずきと痛むこめかみをもみほぐした。
ティーゼから銃を回収すると、倒れた兎のところまで歩いて行き、仕留めた得物の足を掴む。
「帰るぞ。今日は兎鍋だ」
「はい。楽しみです」
「てめえの初狩り記念だ。宴にするから、たらふく食えよ」
盗賊のボスと小さな客人は、早くも頭の中を夕飯の内容に切り替えて、腹をすかせながらアジトへの帰り道についた。
間違っていたらこっそり教えてください...




