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公園の二人


僕たちは、いつの頃からか泣かなくなった。


それはもう、随分と昔のことで僕の祖父の世代には泣くことは、日常だったそうだ。

だから僕たちは、泣くことや涙を知らない。かつて人は産まれた時の第一声に始まり、病気や怪我による苦痛、あるいは出会いと別れ、悲しみや喜びに涙して泣いた。


古い映画で人生の悲喜こもごもに涙する俳優達の姿は僕たちにとって異邦人なのだ。

今を生きる僕たちは、常に笑っている。誕生のその瞬間から、笑い声を世界に響かせ、悲しいときも苦しいときも笑顔を絶やさない。それが普通なのだ。


涙(なみだ、淚、涕、泪)は目の涙腺から分泌される体液のことである。眼球の保護が主要な役割であるが、ヒト特有の現象として感情の発現として涙を流すことがある。


それはもう、昔の話。

悲しくても哀しくても、苦しくても愛おしくても、恨もうが怒ろうが、僕らは唯、笑う。


「そうね。何故そうなったの?」


僕の座った公園の白いベンチに、

同じく座った彼女が、こちらを見ずにそう言った。

その言葉が僕への質問なのか、独白なのか解らず、僕は黙って彼女の横顔を見つめた。

艶やかな黒髪が、ひとすじだけ乱れて頬に流れていた。

そのひとすじを、しなやかで長い指が(改めて気付くのだけれど、彼女の人差し指は中指と同じくらいに長い)撫でつけ整える。


彼女はベンチの端に座った僕の、反対側の端に座っている。

ちょうど一人分のスペースが空いていた。

その近くも遠くもない距離が、

僕たちの関係を端的に表していた。

僕と彼女、互いに名前も知らない二人。ただ互いに顔だけは知っている。友人とも知人とも言えない、曖昧な顔見知りというだけの関係。


そんな僕たちが、今日、この場所、この時間に出会い、立ち止まり、どちらからとも言わず、白いベンチに座っていた。

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