094 堕天
うん・・・?
良い香りが鼻腔を刺激する・・・
草原のような香り・・・
何だろう?
閉じていた目を開く。
そうか、この香りはアロマキャンドルか。
明るい室内で一本の蝋燭に火が灯っている。
そしてその蝋燭から良い香りが・・・
これはラベンダーだろうか?
爽やかな良い香りだ・・・
蝋燭の隣にはスマートフォンが立てかけてあり、中に居るアリシアと目が合う。
「おはよう、アリシア。」
「ああ、おはよう。
身体の調子はどうだ?」
幾分か心配そうに返事が来る。
身体の調子・・・?
そういえば、昨日はロックと戦って・・・あっ!!
「そうだっ!!リアーサはっ!?
リアーサは大丈夫!?」
「リアーサは何も問題ない。
それよりもあの魔法はなんだ?
『生命の樹』と言ったか。
まるで治癒魔法の上、再生魔法のようだったが、リアーサは痛みなど全く無く、ただ優しい暖かさだけを感じたと言っていた。」
その言葉に安堵する。
「そっか、リアーサは大丈夫だったか・・・良かった。」
「そう、その回復力だ。
正直、リアーサはもう駄目と思っておったぞ?
それが、後遺症どころか傷一つ残っておらぬ。
しかも一日で完治するとは・・・
我でもそのような芸当、到底出来ぬぞ?」
「え~・・・っと。」
言葉に詰まってしまう。
ただ、救いたい、今度こそ守りたい。と心で願った時、ゲームや小説にある、ここではない世界樹が思い浮かんだのだ。
後は思い浮かんだ言葉が『生命の樹』だった。
それだけの事だ。
「う・・・ん、なんと言えば良いか?」
「ならば、魔法をイメージした時、何を考えたかだけでも良い。」
「あぁ、それなら。
"救いたい"と"今度こそ守りたい"・・・かな。」
「ふむ・・・その2つの思いと樹木のようなオーラ・・・」
アリシアは深く考え込んでいる。
コンコンコン
「声が聞こえるけど、入って大丈夫です?」
この声はルーアか。
アリシアはまだ悩んでいるみたいだな。
心配させていただろうし、元気な姿を見せてあげよう。
「ああ、今起きた所。入っていいよ。」
「はい、失礼します。」
ドアが開くと、メイド姿のルーアとその後ろに隠れるリアーサが居た。
「ヒロ様、お体は大丈夫でしょうか?」
開口一番、リアーサは俺のことを心配してくれた。
自分の方が大変な事になっていたのに、ええ子や。
ルーアはなんか、入り口で固まったまま、ポカーンと俺を見ている。
はっ・・・まさかっ!?
・・・ほっ、まさか全裸で寝ているというお約束は無い様だ。
昨日の服のままだ。
だとするとなんでだ?
ともかく、リアーサに返事しておかないと。
「リアーサのお陰で大丈夫だった。
それより、リアーサこそ・・・アリシアからは問題ないって聞いたけど・・・
その・・・大丈夫なのかい?」
リアーサはにっこりと微笑むと、
「はい。
ヒロ様のお陰でなんともありません。
それに・・・昔の事故でズタズタに傷痕の残っていた足が・・・」
・・・ゴクリ
「足が?」
どうしたのだろうか?
「綺麗さっぱり傷痕が消えてしまったのです。
なので・・・このようにスカートも穿けるようになりまして・・・」
そう言って、全身が見えるようルーアの後ろから姿を現す。
良かった・・・良い方向だったみたいだ。
改めてリアーサを見る。
今までの軍服ルックも良かったけど、フレアスカートに赤いチュニックでとても可愛らしい。
おとなしい性格や仕草とあいまって深窓の令嬢という感じだ。
今まで穿いた事が無いからだろうか、じっと見ていると、どんどん顔が真っ赤になっていく。
「あのっ・・・そのっ・・・そんなにじっと見つめられると・・・」
そう言えば、最初もすぐ赤面してうつむいてしまうような娘だったな。
ここ最近の、りりしい姿ばかり見ていたから忘れる所だった。
「うん、可愛い。良く似合うよ。」
「あ・・・あのっ、ありがとうございますっ!!」
と、違和感を感じる。
いつもならここでルーアが張り合って来るんだが・・・
今日はどうしたんだろう?
見てみると、まだ固まっている。
さすがに長いので、声を掛けてみるか。
「ルーア、どうしたんだ?」
「あっ・・・いえ・・・その・・・あの・・・
え~っと、ステキな翼だなと思って・・・」
つばさ?
ルーアは何を言っているのだろう?
視線を追って後ろを見てみる。
・・・・・・・・・何も無い。
「いえ、後ろではなく、ヒロ様の背に。」
背中?
何を言っているのだろう?
背中を見てみる。
・・・・・・・・・黒い羽が見えた。
こうもりのような羽じゃなく、カラスのような羽。
・・・・・・・・・
目をこすってもう一度良く見る。
・・・うん、羽だ。
・・・・・・・・
「って、ええええええええええ~~~~~~!!??」
改めてみてみる。
カラスのような羽が3対6枚、背中から生えている。
「あの・・・もしかして気付いていなかったのですか?」
リアーサの問いに困ってしまう。
こんなに目立つのに何で気付かなかったんだろう?
寝苦しさとかも全然無かったし・・・
「なんじゃ、気付いておらぬかったのか?
まぁ、無理もあるまい。
魔力の翼では重さも感触も無いからな。」
俺の絶叫にアリシアは考えを中断し、状況を把握したようだ。
おれは改めてみてみる。
つばさだ・・・
手を伸ばしてみる。
ふかっ
結構ふわふわのもこもこで暖かい。
あれ?
「触れるんだけど・・・」
「それは意識しておるからだな。
意識せんでおれば物に触れる事はできない。
たとえばさっきからルーアがもふろうとしているが、何度もスカっておるじゃろ?」
そういえば、ルーアがいつの間にか居ないな。
後ろを見てみると、ルーアが俺の羽根にうっとりとうずもれていた。
「幸せそうにうずもれているんだが?」
「それは羽根とルーアを意識したからだ。
まぁ、最初は慣れが必要だからの。
少しづつなれるとよかろう。
まずは動かす練習から・・・かのう。」
「ふむふむ・・・」
背中のあたりに集中して、感覚を確かめてみる。
あ、確かに何かがうずもれている感触が伝わってくる。
手の延長みたいな感じだな。
少し、広げてみよう。
バサッ
「わっぷっ」
「綺麗・・・」
「ほお・・・」
ルーアはちょっと押してしまったかな?押し出されたようだ。
リアーサは見とれるように、アリシアは寒心するように見ている。
「思ったよりスムーズに動かすのぅ。
そのまま飛ぶ事もできるぞ。
羽ばたく必要は無い。
魔力で飛ぶイメージをするのだ。」
なるほど。
ルナが空を飛んでいたときのイメージだな。
・・・・・・
う~ん・・・
むむむ・・・
ううむ・・・イメージ・・・だよな?
って、そもそも吸血鬼化の時も飛べなかったんじゃないか?
駄目じゃん!?
えっと・・・逆に考えてみようか。
羽根があれば飛べるはずだ・・・
鳥の飛び方は・・・こう、羽根をばたばたと動かして・・・
バサッ・・・バサッ・・・
「わっ。」
「きゃっ。」
ん~・・・
ふわっ
お?
「あっ!!」
「わぁ・・・」
「ふむ。」
さらに羽ばたかせる。
バサッバサッ
「おお~。」
「ヒロ様・・・いいなぁ。」
「ふむ、羽ばたきする方がイメージしやすいようだな。
初めてにしては見事なホバリングだ。」
足元を見てみると、大体50cmぐらい浮いているのが判る。
暫く浮いているけど、疲れる感じもしないな。
これなら外も飛べるか?
・・・うん、わくわくしてきた。
以前はルナに宙吊りにされて飛んだからな。
試してみるかっ!!
「あのさっ、外、飛んできていいかな?」
「いいなぁ・・・」
「あ・・・はい。
いや、待ってください!!」
出て行こうとする俺をリアーサは慌てて止める。
「そうじゃ、病み上がりだからな。
外はやめておけ。
いきなり高高度は危険だ。
低高度で慣れ、その後負荷をかけて飛ぶ。
それにも慣れたら高高度にチャレンジするが良い。
いきなりはやめておくが良い。」
確かにその通りだ。
舞い上がって、基本を忘れる所だった。
「ありがとう、リアーサ、アリシア。」
「それと、ヒロ。
聞きたい事があるが良いか?」
アリシアが真面目な表情で問いかけてくる。
「お主は・・・『堕天』したのか?」
次話へは少々間が開くと思われます。




