092 覚醒①
パチパチパチパチパチ
「ヒロ君、流石だった。
あれが魔法剣という物だね?」
ラリーが体を抑えつつ、近づいてくる。
やはり先程のダメージは結構大きかったのだろう。
というか、やはり魔法剣の事も知っているのか・・・
「さすがにお見通しなんですね・・・
ええ、そうですよ。
実践で使うのは初めてでしたが・・・なかなかに手ごわい相手で思うように行きませんでしたね。」
「そうかい?
身体能力・反応速度が上がっていた用に見えたよ。
僕では太刀打ちできなかった鬼に一太刀浴びせる事も出来た。
あれは間違いなく・・・強いよ?」
ラリーが強いと言うのであれば、かなり強いのだろう。
今回は相手が悪かったと言う事か?
「そう言っていただけると・・・
それより皆は?」
「あぁ、君のお陰で大丈夫だ。
ちょっと・・・休ませてもらいたいけど。ね?」
そう言ってその場に座る。
後ろから足音が聞こえる。おそらくアーチャとリアーサ、それにアリシアだろう。
振り返ると、無傷のアーチャと切り傷だらけになっているリアーサが居た。
「私はリアーサちゃんのお陰で・・・でもリアーサちゃんが・・・」
「深い傷は有りませんので問題ないです。それよりアーチャちゃんが無事でヒロ様危ないっ!!」
話している最中、何を見つけたのか、必死の表情でリアーサが俺を突き飛ばす。
「え?」
何事かと、リアーサのほうを見る。
見えたのは、微笑んだリアーサの顔。
そして・・・右拳を振り下ろす首の無い死体・・・
ゴッ
まるでスローモーションのようだ。
ゆっくりとリアーサの体へと吸い込まれてゆく拳。
リアーサは笑顔のまま、拳を受け、くの字に体が折れ、そのまま壁に吹き飛ぶ。
グシャッ
ぼろぞうきんのように、リアーサの体は壁に張り付くと、そこを中心に赤い花が咲く。
そして、ずるずると地面に崩れ落ちる小さな体・・・
何が起こったのか、脳が理解しようとしない。
感情が暴風のように、体の中に吹き荒れる。
「うっ・・・・」
何が起こったのか・・・
リアーサに助けられた。
誰がやったのか・・・
グリトニー公、ロック。
リアーサがどうなったのか・・・
血の海に沈んだ。
理解したくない・・・だが・・・理解するんだ。
俺は・・・
「うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐはははは、凄い、この体は素晴らしい!!
まさか、首を落とされてなお死なないとはな。
先程は意識を持っていかれたが、首が1度離れたお陰で冷静に戻れた。
お礼に全員血祭りにあげてくれるわ!!」
油断した・・・首を落とせば死んだものと決め付けてしまった・・・
ロックから目を離してしまった。
その結果がこれだ・・・
俺の・・・俺のせいでリアーサが・・・
「うおっ・・・うおっ・・・・・うおぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁわぁぁぁぁ!!」
「ふん、聞こえておらぬか。
ならば良い。
さっさと叩き潰すのみだ。」
目の前が赤く染まる。
心の奥底で蠢いていた何者かが這い上がってくる。
そう・・・これは抑えていた感情だ・・・
憎い・・・この男が憎い・・・
殺せ・・・この男を殺せ・・・
奪え・・・この男の命を奪え・・・
喰らえ・・・この男の全てを喰らえ・・・
嫉め・・・この男の力を嫉め・・・
抑えていた感情が囁いてくる。
俺は今まで周りには流されていたが、感情に流される事はなかった・・・
だが・・・
初めて感情に流される・・・・
いや、違う!!俺はこの感情を支配する!!
[条件達成を確認しました。
『竜化』スキルの熟練度が10になりました。
『狂化』スキルの熟練度が10になりました。
『吸血鬼化』スキルの熟練度が10になりました。
『硬化』スキルの熟練度が10になりました。
『人魚化』スキルの熟練度が10になりました。
『竜化』スキルの進化を開始・・・『傲慢』を得ました。
『狂化』スキルの進化を開始・・・『憤怒』を得ました。
『吸血鬼化』スキルの進化を開始・・・『強欲』を得ました。
『硬化』スキルの進化を開始・・・『暴食』を得ました。
『人魚化』スキルの進化を開始・・・『嫉妬』を得ました。
『????』スキルからの影響を確認・・・『傲慢』、『憤怒』、『強欲』、『暴食』、『嫉妬』が統合されます・・・
『堕天』を得ました。
統合に伴い、スキルの再編が行われます。]
俺は心の命じるままに『堕天』を行使する。
体の中に力が駆け巡る。
筋力、魔力、思考・・・全てが強化される。
だが、力はまだ治まらない。
行き場を失った力が背中から噴出されるのが判る。
「なっ・・・貴様、一体何を!?
ええいっ、潰してくれるわっ!!」
「ヒロ君、危ないっ!!」
後ろから誰かの叫びが聞こえてくる。
だが、不思議と気にはならない。
今、俺の目に入るのは、敵とリアーサだけだ・・・
目の前の敵はゆっくりと・・・スローモーションのように俺に向けて手を振り下ろしてくる。
軽く手を受け止め、そのままリアーサとは反対の壁まで投げつける。
「なっ!?・・・・ぐおっ!?」
今は敵に構っている暇は無い。
すぐにリアーサの元へ飛ぶ。
「ひ・・・ろさ・・・ま?」
「しゃべるなっ・・・良かった・・・命があった・・・」
口からは血を吐き、腕や足からは骨が飛び出している。
後数分・・・もしくは目覚めるのが遅ければ、絶対に助ける事はできなかった・・・
ドラゴさんの時には間に合わなかった・・・力が足りなかった・・・
だが、今の状態・・・この場ならできる。
あの時は不完全だった魔法を完全に執行できる。
・・・あの時の感覚を蘇らせる。
右手あらほとばしる魔力を1カ所に留める。
イメージは、リアーサを内包する生命の樹。
そして、力ある言葉を呟く。
『生命の樹』
ごっそりと魔力が抜け落ちるのが判る。
そう・・・これだけの魔力が必要だったのだ。
ドラゴさん・・・アクアさん・・・本当に申し訳ありません・・・
・・・本当に、今の力があるからこそ成功した奇跡・・・
「これ・・・は?」
リアーサが呟く。
その声にはさっきまでの苦しさなど、微塵も見えない。
「そのまま動かずにじっとしているんだ。いいね?」
リアーサを怖がらせないよう、最大限の笑顔で話しかけ、ロックを投げ飛ばした方へ向き直る。
次は・・・こいつの始末だ。




