091 対決 オーガ
「ぐるるるるあぁぁぁぁああ」
部屋の中に咆哮が響き渡る。
「これは・・・一体何だ?
くっ・・・ヒロ君、アーチャ君、逃げたまえ。」
ラリーの切羽詰った声が聞こえる。
ロックだった鬼に駆け寄る。
「ラリー、俺も戦います!!
アーチャ、アリシアを頼む!!」
「はいっ!!
アリシアさんは絶対に守りますね。」
アーチャはスマートフォンを胸にしっかりと抱くと、ソファから立ち上がる。
「ヒロ君・・・
では、アーチャ君、リアーサを守ってくれ。
3人が安全な所まで行ってから加勢を頼む。」
「いえ、私も戦います。」
「リアーサ、君はもう召喚の魔力が残っていない。
ならば、心配を掛けないよう退くのも大事だ。」
「・・・・・・判りました。
後武運を。」
リアーサは観念したように頷くと、俺達の方へ駆け出してくる。
「ざぜるがぁぁぁぁ」
ブチブチブチッ
鬼は濁った声を上げると、力任せにロープを引きちぎる。
恐ろしい膂力だ・・・
「させないっ!!」
ロープをちぎる為に渾身の力を込めたのだろう。
体が硬直しているところを狙って、ラリーの持つ投げナイフが鬼の眉間に向かう。
眉間にナイフの刺さった鬼は後ろに崩れて・・・・いかない。
「ぐはははは、甘いなぁ。
全く効かん。
今のは何を放ったんだ?」
突き刺さったと思われたナイフは、そのまま地面に落ちていった。
「この体・・・最高だなぁ。
1度変化したら2度と戻れなくなると聞いていたからな。
どんなおぞましいものになるか心配だったが、ここまで最高の存在になれるとはなぁ。
この体の硬さ・・・『硬化』を使ったとき以上だ。
体の奥底から力がわいてくるのが判る。
これならテメエらなぞ一捻りで倒せる!!」
この手のお約束でおなじみの、意識が吹き飛ぶとかもなさそうだ。
「ヒロ君・・・何か心当たりがありそうだったが、この存在について知っているのかい?」
ラリーがロックをかく乱しつつ、俺に問いかけてくる。
「ええ、俺の世界に有った伝承や創作物の中に、似たような表記がたくさんありました。
鬼と呼ばれる個体で、不死身に近い生命力。
頑強な身体と底なしの体力。
その通りなら、かなり面倒な存在のはず・・・です。」
「ふっ、ぐふっ。ぐはははははは」
オーガは愉快そうに笑う。
「わざわざ教えてくれて悪いな。
そうか、種族名は鬼か。
しかもそこまでの力を秘めているとはな。
力がわいてくる。
お礼に地獄に送ってやるわぁ!!」
どうやら意識を保ったままの強化スキルのようだ。
デメリットは元に戻れなくなるだけ・・・
・・・厄介だ。
ロックは右手を振りかぶり、ラリーへと振り下ろす。
スピードはあまり速くない。
あれなら余裕で避けられそうだ。
ドゴォォォォ
なっ!?
振り下ろした右手はそのまま地面に到達するが、そのまま床に穴を穿つ。
吹き飛んだ破片、一つ一つが凶器となって周辺に襲い掛かる。
ロックは破片で傷一つつかないが、こっちはそう行かない。
後ろにいるアーチャ達に当たらないよう、破片を叩き落す。
「くっ、アーチャ、リアーサ大丈夫か?」
「ヒロ様っ!!「はい、ヒロ様が弾いてくださるので大丈夫です。」・・・でもっ・・・」
後ろを見る余裕は無い・・・
アーチャが気になるが、リアーサの返事を信じるしかない・・・
破片ですら、こちらには脅威になると判ったからだろう。
床や壁、調度品を滅多やたらに破壊し、飛ばしてくる。
大きい破片は叩き落す事ができるが、細かい破片までは手が回らない・・・
手や足には、細かい破片で出来た傷が少しづつ増えていく。
「ラリー、大丈夫か?」
「僕はっ・・・大丈夫っ・・・・
もう少しすればっ・・・調度品がつきるはずだっ!!」
ラリーの体には傷がついていない。
だが、雨あられと降り注ぐ破片を避けるので精一杯だ。
「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
前方から飛んで来る破片を残らず切り落とす。
次第に飛んでくるものがなくなってきた。
やっとで弾切れか?
「ちっ、飛ばせるものがなくなったか。
仕方ねぇ・・・いくぞっ!!」
長く続いた破片の雨が止むと、部屋の中は凄い事になっていた。
この辺はあまり気にしない・・・
ロックはラリーへと殴りかかるが、避けるのは容易い。
振り下ろした右手をかいくぐり、ラリーは右脇腹を駆け抜けざまに切り上げる。
ガキィッ
「なっ!?」
だが、ラリーの刃はロックの皮膚を切ることはできなかった。
「ぐはははは、効かぬなぁ。」
ラリーの動きが止まった所へ、ロックの左手が襲い掛かる。
「くっ」
体勢が崩れていたからか、完全に避け切れていない。
ドゴッ
「カハッ!?」
かすっただけの筈・・・なのにラリーは壁まで吹っ飛ばされた。
一体どれだけの威力なんだ・・・
「ラリー、大丈夫か?」
「くっ・・・大丈夫・・・と言いたいところなんだけど・・・」
床に片膝で何とか立っている状態か。
これは・・・まずいな。
おそらく普通に切りかかっても通じない。
ならば・・・
体に魔力付与。更に雷属性を付与する。
ロックは動けないラリーを放置し、俺に標的を定めたようだ。
付与が終ると、すでに目の前には左腕を振りあげたロックがいた。
「ぐるあぁぁぁ!!」
振り下ろす攻撃は遅い。
左腕の下を駆け抜けざま、雷付与した刀で切りつける。
ザクッ
・・・硬いっ。そして浅いか。
「ぐっ・・・この体に傷をつけるとは・・・ならばっ『硬化』!!」
「なっ!?」
あの硬さから更に硬化の重ね掛けだって!?
「ふんっ、堅いだけではいつまでも捉えることができんな・・・
ならば、もう1つのスキルも使うとするか。」
さらに肉体強化のスキル!?
「行くぞっ!!
『狂化』!!」
・・・・・・・・え?
「来たぞっ!!
来たぞっ!!
力だっ、力がみなぎるっ!!
・・・・・・・・・・なんだ?・・・これは・・・来るなっ・・・くるなぁぁぁぁぁ!!」
目は血走り、口から牙が生える。
筋肉は更に盛り上がり、内側からはち切れそうだ・・・
「ぐるっ・・・ぐるぁぁぁぁぁぁ!!」
この状態は判る・・・『狂化』にて自我を失った存在、バーサーカーだ。
口からは涎を流し、その目に移る全てを破壊する本能・・・
間違いない。
ラース公の仕業だ。
だが、チャンスだ。
バーサーカーは本能のままに力を振るうだけ。
判っていれば、反撃は容易い。
「ぐるるるるるるるぅっ。
がぁぁっ!!」
さっきまでと比べると段違いに速い。
だが、直線的な攻撃で簡単に読める。
まずは・・・攻撃をすり抜けざまに斬りつける。
ギィンッ!!
硬い・・・
雷付与した刀でも通らないか・・・
ん?まてよ・・・
『硬化』は俺もアーチャから取得している。
属性剣の要領で、刀にも『硬化』を掛けられないだろうか?
右から来る拳を左へかわす。
上から来る拳を右へかわす。
攻撃は完全にパターン化しているな。
攻撃の隙を見て・・・
『硬化』発動。
行けるっ!!
魔力付与+属性付与+硬化の乗った刀でロックを切りつける。
ザギィンッ
僅かだが・・・切れた。
ならばっ!!
右から来る拳を避け、首筋に一撃。
左から来る拳を避け、首筋に一撃・・・・
延々と避けては斬る。避けては斬る。を繰り返す。
何度繰り返しただろうか。
魔力は切れる心配は無い・・・だが、無性に飢餓感に襲われる。
これが『硬化』のリバウンドか?
「っていうか、いい加減斬れろっ!!」
ザギュィンッ
その一撃でロックの首が胴体から離れる。
視線の中、空を飛ぶロックの首。
そして地面に倒れ付す体・・・・
やっと・・・やっとで倒す事ができた。




