087 お出かけ⑤ 大事なお話
「ごめん、ちょっと取り乱した・・・」
あの後、暫く泣いてしまった・・・
頭を包む柔らかい物体に気付き、頭を上げると、困った顔で赤くなっていたエーラが居た。
慌てて飛び離れたが、そこにはニヤニヤした顔のラリーとボロ、困った顔のラース、不機嫌そうな顔のルーアとリアーサが居た。
「ええと・・・その・・・」
エーラは赤い顔で左右の指を、体の前でつんつんしている。
「いやぁ、ヒロ君役得だったね。
羨ましいなぁ~。」
ラリーの声にエーラは更に顔を赤くする。
「ヒロ様、エーラは私の大事な人なので、これ以上は駄目です。」
静かにラースが言ってくるが、エーラは更に赤くなる。
というかゆでダコ状態?
「ヒロ様、次は私に来てくださいね。」
「ルーアちゃん、もっと成長しないと色々と足りませんよ。
・・・私もですけど・・・」
ルーアとリアーサは2人で胸元を見てはため息をつく。
ボロはそんな光景をただ笑顔で見守っていた。
単純にそんな光景が嬉しい。
それもこれもラリーのお陰なんだろうか?
「ヒロ君、驚かせすぎたみたいですまなかったね。」
落ち着いた頃、ラリーが話しかけて来た。
「一体・・・何故?」
「僕は先ほど言ったよ?
先の先まで読んでいるってね。
それにエルフ族は『精霊化』の他に『幻惑魔法』という特殊な魔法を使える者が居る。
つ・ま・り♪
そう言う事さ。」
ラリーがドヤ顔で言ってくるが、まるっきり判らない。
「そう言う事って言われても・・・」
「ふむ・・・、じゃぁ改めて説明しようかな。
君の知っているミモザ村の惨劇。あれは全て幻惑魔法によって、その場にいた全員に見せた夢のようなものさ。」
「夢?」
「そう。
白昼夢。と言えば判って貰えるかな?」
「なんとなくは・・・」
「例えば、君・村長の娘さん・エル君の3人には共通の幻惑魔法。
影で殺しまわろうとしていた皆さんには、皆殺し達成の幻惑。
他の村人はこっそりと起こして事情を説明し、脱出させた。っていう訳さ。」
そんな凄い事ができるのか・・・でも・・・
「・・・それだと・・・今の状況が幻惑魔法の中・・・という可能性も?」
「もちろんあるね。
でも、嘘をつくつもりは無い。
幻惑魔法はちょっとした傷で直ぐに解ける。試しにナイフで指を刺してみるといいよ。」
本当に夢って感じだな・・・
ラリーには悪いけど、念のため・・・
プチッ
っ痛・・・・
何もかわら・・・
「うわっ!?」
「あ、驚いた?」
たいした事ではなかったんだが・・・何故かラリーが全裸だった。
「ラリーなんてカッコを・・・」
「いやぁ、これで何も変わらなかったらヒロ君が信じてくれないかもしれないから、ちょっと細工をね。」
「細工って・・・」
「簡単な事さ、僕が服を着ているって幻惑を常時発動させていただけさ。」
その声に一堂の視線がラリーに向く。
「お父さん・・・また(・・)?」
「スロウス公様・・・・また(・・)ですか・・・」
「エーラ、君は見ちゃいけないよ・・・」
「はい、ラース様・・・」
「ありゃ、気付かなかった。
スロウス公、あんま変な事ばっかしちゃいけねぇぜ?」
またって、良くやる事なのか・・・
「これで、信じてもらえたかな?」
「・・・はい。疑ってすみませんでした。」
「いやいや、疑うのは悪い事じゃない。いい事だよ。」
「そう言ってもらえると、助かります。」
「だが、そのまま生活させる訳には行かなかったからね。
ここに結界を張って、そこで生活をして貰っているって訳だ。」
「すると、門を通った時の重い空気って・・・」
「お、気付いていたかね。
あれが結界だよ。
気付ける者って中々居ないんだけど・・・さすがはヒロ君だねぇ。」
「はぁ・・・恐縮で。」
「しかし、いい物を見せてもらった。
ヒロ君、君は本当に優しいね。
・・・・・・でも、非常な決断というのは必ず必要になる。
その時は・・・判ってるね?」
ラリーは真剣な眼差しだ。
その眼差しと物言いに身が引き締まる。
「はい。」
「なら、うすうすと気付いているとは思うけど敢えて言おう。
全ての黒幕はラース公だ。」
深く、深呼吸をする。
深く、目を閉じて、再度深呼吸。
・・・・・・・・・・・・・・
「はい。
もう・・・迷いません。
でもラース、君はそれでいいのか?」
一つだけ心配なことがある。
それはラース公の弟である、彼の事だ。
「ヒロ様、私の事はケインと呼んでください。
ケイン・フォルティシア・ラース
それが私の名です。
・・・・・・姉は変わってしまいました。
昔の姉に戻って貰う為、色々しましたが、最後には村ごと始末される結果に・・・
ヒロ様!!
もう、あのような姉を見ることは出来ません!!
どうか・・・どうかお願いします!!」
ケインの握り締めた拳から血が滴り落ちる。
きっとケインにとっても苦渋の決断だったのだろう。
「判った。
ケイン、俺に力を貸して欲しい。」
「はい。」
俺とケイン、そしてエーラとボロは硬く握手を交わした。
ちなみに後でこっそりとエーラとボロもフルネームを教えてくれた。
「うんうん、皆良かったね。」
ラリーは後ろからしきりに頷いている。
そして、彼を見ていて思った。
彼ならずっと思っていた疑問に答えてくれるんじゃないか?・・・と。
「ラリー、君は俺を信じて色々と話してくれた。
だから、俺も包み隠さず本当の事を言おうと思う。」
俺の言葉に真剣さを感じとったのか、皆が一歩引き、俺とラリーのみが向かい合う形になった。
「これは、言っていいものかずっと悩んでいた。
そしてそれに答えられる人もいるかどうか・・・と。」
「僕に答えられる範囲で良ければ答えさせてもらうよ。」
「じゃぁ、聞かせてもらいたい。
"この世界に、魔王は本当に必要なのか?"」
この問いにラリー以外の全員が固まる。
やはり聞いてはいけない質問だったのだろうか。
「面白い事を言うね。
確かにこれは誰にでも聞ける問題じゃない。
僕にも本当の所は判らない。
でもヒロ君は僕を信じて聞いてくれた。
ならば答えよう。
"国としては必要ない。だが、概念として必要不可欠な存在"だ。」
この返答に俺も固まる。
「概念・・・として?」
「ああ、アリシア様の統治の元、7公で話し合い運営している。
魔王がいなくとも、国を動かすのは全然問題ないのだよ。
だが、魔王と勇者は世界の均衡を保つ為に存在し続けなくては成らない。
何故か?と聞かれると、"そう創られた世界だから"としか答えようが無いかな。」
なるほど、国は民主主義?いや、違うな、共和国政策をとっているのだろうか。
魔王は日本で言う天皇陛下のような存在ともいえよう。
確かに国を運営する上では必要ないな。
だが、概念とそう創られた世界・・か。
「ちなみに存在しないとどうなるんだ?」
「これはあくまで伝承だが、勇者が存在しなければ、魔物が凶暴化する。。
魔王が存在しなければ、天使の降臨が起こる。とも言われている。」
「天使・・・って?」
「天使はその名のとおり、天から使わされたものさ。
魔を滅すといわれているが、それが魔族を指しているのか、心に救巣食うう魔を持つ者を指しているか判らないが。
これはすべて伝承でしかないから、これ以上は判らないんだ。
すまないね。」
「いえ、ありがとうございます。
でも、もう1ついいですか?」
「なんだい?」
「今の説明では魔王と勇者が戦う必要って無いように思えるんですが・・・
何故、戦い合わないといけないのですか?」
「簡単さ、人族が魔王様のお命を狙ってくるから、迎撃する。
人族は常に魔物の居ない世界、新しい土地を求めている。
我らも死にたくない以上、応戦するしかなくなる。
魔王が居なくなれば、天使が降臨し、シン国に生きるもの全てを浄化してくれるとか思っているんだろうな・・・」
「そっか・・・ありがとう。
・・・・・・・・・でも、ラリー、君は一体何者なんだい?」
「僕はただのエルフさ。
それ以上でも、それ以下でもない。
それにヒロ君、君も思ってた以上に頭が切れると思う。
こっそりと色々試させて貰ったが、ここまで出来るとはね・・・
少々見くびっていたよ。許して欲しい。」
ラリーに頭を下げられてしまう。
「僕はね、この領で出来る限りずっとぐうたらしていたんだ。
自分がぐうたらするのに何をすればいいか。
その先の先まで読む見識が、人以上とでも思ってもらえばいいよ。」
「そうですか・・・ありがとうございます。」
なにか肩透かしを食らったような気もするが、おそらく言っている事は本当なのだろう。
元の世界でもこういった人が1人や2人はいた。
楽をする為にと、他の人の2倍も3倍も仕事をしていたが、その人が楽になったと言ううわさを聞いたことはなかった。
「さて、僕はカードを全て明かしたつもりだ。
君の持っているカードも見せてもらえないだろうか?」
ふぅ・・・
ため息が出る。
今日は気楽な感じで出てきたのだが、最後の最後に大どんでん返しが来るとは・・・
だが、少しだけ目の前が明るくなった気がする。




