084 お出かけ② 精霊の湖
ここまで集まったのだから、と
アリシアとアーチャ、マーシャルさんも誘う運びとなった。
アリシアとアーチャは勉強の最中。
「アリシア様、私もお外でかけたいですー!!」
「せめてテーブルマナーぐらい判って無い以上、外に出す事はできぬっ!!」
「大丈夫です!!フォークやナイフは外側から使っていって・・・」
「このボウルの水は判るな?」
「もちろん、飲み水ですよね?」
「違うわ、アホ娘がー!!」
というやり取りが有ったり無かったり・・・
マーシャルさんは仕事中と言われた。
総隊長が門番で良いのだろうか・・・?
とも思ったが、この街では人の出入りこそ重要で、地位の高いものほど門を警備する仕事に就くそうだ。
偉い人=領主の側でふんぞり返っているってイメージだったが、この領ではまったく違う。
本当に予想外のことが多い街だ。
と言う事もあり、結局、俺とスロウス公、リアーサとルーアという奇妙な組み合わせで出かける事になった。
「お父さん、買い食いは銀貨1枚までですからね?
それと、知らない幼女についていってもいけませんからね?」
「はいはい、判ってるよルーア。」
色々と突っ込みどころがあるが、敢えて無視しよう・・・
「ヒロ様、今日は申し訳ありません・・・」
リアーサは申し訳なさそうに隣を歩いている。
「大丈夫、リアーサが気にする必要は無いよ。」
こっちはこっちで、恐縮しているリアーサの頭を撫でてあげる。
ちょうど良い位置に頭があって撫でやすいんだよな。
「えっ・・・あのっ・・・うぅ・・・」
黒姫モードじゃないリアーサは、こういったことですぐに顔を赤くしてうつむいてしまう。
そこがまた可愛くて、ついつい撫で続けてしまう。
「あ~、ヒロ君ばかりずるいっ!!
僕も黒姫様を撫でるっ!!」
「公様はなんか嫌です。」
「ぐっ・・・ならばルーアで我慢を・・・」
「お父さん、私も嫌。」
幼女2人に拒否られ、うなだれるスロウス公。
これで領主なんだから、リアーサがどれだけ苦労しているかが判るものだ・・・
「ところでヒロ様、何所に行きたいんですか?」
リアーサが聞いてくるが、返答の仕様が無い。
単にエルフの街並みを見たかっただけなのだから。
「ん~、そうだね。
この街の良い所とか見てみたいかな?」
「なら、"ドドラの店"でしょうか?。
あそこのオムレツは絶品なんですよ?」
「この世界樹の麓に湧く"精霊の泉"はどうかな?凄く綺麗な所なんだよ?」
「ヒロ君、もっと早く言ってくれれば良いのに!!
幼児教育施設かい?運動訓練場かい?」
食べ物と美しい景色か、凄く良さそうだ。
「じゃ、リアーサとルーアのお勧めで行こうか。」
「何故だい!?
どちらも素晴らしい施設だと言うのに!!」
敢えて無視したが、駄目だったか・・・
「名前だけでなんとなく判りましたから・・・」
「さすが同好の士。
名称だけで判るとは素晴らしい!!」
「いや・・・元の世界にも似たようなものがありましたので・・・」
「さぁ、ヒロ君!!
今から向かおうではないか!!」
ラリーが俺の手をとっていこうとするが、ルーアがその手をチョップで叩き落す。
「はいはい・・・、お父さん・・・
まずは一番近い"精霊の泉"に行くよ~。」
ラリーはルーアに襟首を掴まれると、ずるずると引っ張って連れて行かれた。
ルーア、意外と力持ち?
・・・じゃなかった。
「ルーア、置いてかないでくれ。
リアーサが困っているぞ。」
急いで、リアーサを連れてルーアの後についていった。
「すごい・・・」
口から出るのはそんな言葉と、ため息だけだった。
この光景は本当に絶景だ。。
巨大な木の根から、アメジストのように澄んだ紫色の水が湧き出した湖。
その湖に浮かぶタイサンボクのような大きく真っ白な花。
その美しさが織り成すコントラストに、語彙の少ない俺に言えるのは、ただその一言だけだった。
「ここが"精霊の泉"と言われる場所で、スロウス領・・・いえ、シン国においても最高に美しい場所のひとつだと思います。」
リアーサが珍しく自慢げに話す。
「久しぶりに来たけど・・・やはり綺麗だねぇ。」
ラリーは遠い目をしながら泉を見つめている。
「うん、お父さんにとっても思い出の場だもんね。」
へぇ?
でも、あまり詮索しすぎるのも良くないから、聞かないで置こう。
「ルーアも懐かしいだろう?
"レティ"との数少ない思い出の場所だからね。」
「うん・・・」
2人はそれだけ言うと、遠い目をしてこの湖を眺めている。
「(ぼそ)レティ様というのは、スロウス公様の亡くなった奥様なのです。」
「(ぼそ)えっ!?
スロウス公って幼女以外にも興味持てたんだ?」
「(ぼそ)驚くポイントが違っているような・・・
まぁ、スロウス公様の幼女好きは、ルーア様を溺愛しすぎで後天的に備わった物かと・・・」
「(ぼそ)なるほど・・・納得したよ。」
なんだかんだでルーアと話をしているスロウス公は、かなり楽しそうだ。
娘に色々言われても、相当愛しているんだろうな。
「レティ、見てくれているかい?
この少年がルーアの旦那となる、ヒロ君だ。
見守ってくれよ。」
「お父さん、諦めてなかったの!?」
「ラリー、何言ってるの!?」
本当にこの人はもう・・・
だが、その目は本当に穏やかで深い寂しさを湛えていた。
一体・・・彼はどの顔が本当の顔なんだろう?
その隣で座っているルーアも「しょうがないなぁ」といいつつ、とても穏やかな笑みを湛えている。
家族・・・か。
俺にも家族はいたし・・・思いでも残っている。
多分、2人の今の気持ちは判る・・・気がする。
しばらくはそっと湖を眺めていよう。
そんな事を考え、そのまま暫くの間、4人で精霊の湖を眺め続けた。
「さて、次に行こうか。」
「はい、次は"ドドラの店"に向かいましょう。
少々お腹お空いてきましたしね。」
リアーサが恥ずかしさにもじもじしながら、声をかけてくる。
「おっとそうだった。ゴメンね?
行こうかルーア。」
「あっ、はいお父さん。」
「僕もお腹が空いてきた、行こうか。」
俺たちは精霊の泉に背を向け、歩き出す。
「(ぼそ)また来るな。レティ。」
「ん?お父さん何か言った?」
「いや、何も?」
こっそりと奥さんの名前を言ったのが聞こえた。
スロウス公は奥さんを本当に愛していたんだろうな・・・俺は・・・そこまで人を愛する事が出来るのだろうか・・・




