080 スロウス公
「ええと・・・」
しまった・・・あの人がスロウス公だったのか・・・
ただの変態かと思っていた・・・
「壁の隅を指差していると思いでしょうが、エルフの結界によって他人には見えないのです。
そこに今スロウス公様がおりまして・・・
スロウス公様、お客様にご挨拶を!!
・・・スロウス公様?」
すいません・・・気絶しています。
「あの・・・」
「いえ大丈夫です、私がおかしくなってる訳じゃないですよ?」
「そうじゃなく、」
「スロウス公様!!聞こえているんでしょう?スロウス公様!!」
さっきのことを話そうとするが、リアーサは急いでスロウス公の近くに行って声をかける。
「んぅ・・・後5分・・・」
「すっ・・・スロウス公様!!魔王候補様ですよっ!?
寝てる振りはもう良いですからっ!!」
リアーサは近くで何度も言っているが、スロウス公は起き様としない。
「えっと・・・」
見かねた俺は、スロウス公の近くまでいくと、肩を揺さぶって、
「スロウス公、リアーサも困ってるみたいですし、起きて下さい。」
声を掛けてみるが、それを見ていたリアーサとマーシャルさんは固まっている。
「どうしました?」
「ヒロ様・・・何故?」
リアーサは搾り出すように言ったが、何を指して何故なんだろう?
「あ、ごめん触っちゃいけなかった?」
そういえばリアーサは一生懸命外から声をかけていたな。
もしかして、勝手に他人に触ってはいけないとかそういう教えでもあったのか?
「いえ、触ってはいけないというか、触れられるはずが無いと言うか・・・」
あぁ、やっぱり駄目だったのか。
「あぁ・・・それはまた・・・
知らなかったとは言え、ごめん!!」
「知らなかったのに、居るのが判ったのですか!?」
リアーサとマーシャルさんが目を見開く。
何か以前も似たようなことをした気がする・・・
そこで学んだのは、勘違いは感染するってことだ。
「・・・えぇと、ゴメン色々詳しく聞かせてもらって良いかな?
勘違いが勘違いを生んでいるかもしれない。」
その言葉を聞いた2人は、頷き合うと、
「そうですね、1度整理させていただいてよろしいでしょうか?」
と言って席に座る。
俺も席に座ると、リアーサから話しだした。
「ヒロ様、大変恐縮ですが、この部屋にスロウス公がいると何時から気が着かれておりましたか?」
「入ってすぐにそこで本を読んでた・・・よな?」
アーチャとアリシアに確認すると、
「私はヒロ様が挨拶をされた際に気付きました。
最初は、壁に向かって何を言っているのかと思いましたが・・・」
「我も同じじゃな。
ヒロが壁に向かって挨拶した時は、とうとうロリをこじらせたかと思っておったが、まさか人が居ったとはな・・・」
俺たちの答えを聞くと、リアーサは深く頷き、
「その時は今と同じように寝ておりましたか?」
くっ・・・ここはきちんと言わないとな・・・
「いいえ、いきなり幼女だ~って抱きしめてきたので、つい力いっぱい張り飛ばしてしまいました。
ドーンっってぶつかってドサッとなって、眠かったのでしょうか?そのまま眠っちゃったみたいです。」
俺の決意もなんのその。
相変わらずアーチャが空気も読まず、全てを話してくれた。
「そう・・・ですか。
ヒロ様は入って直ぐに気づいたのですね?」
改めて確認してくる。
「色々あって最初ボーっとしてたから、どのぐらい時間が経っていたのか判らないけどね。」
「マーシャルが出てからそれほど時間は経っておらぬぞ?
せいぜい20秒程度かの。」
「そうですか・・・えいっ!!」
それだけ言うとリアーサはスロウス公へ向かって靴を投げつける。
ぽこんっ
見事に当たった!!
「ふがっ!?・・・・うぅん・・・」
大きないびきを立てて起きたようだ。
「ん・・ううん・・・」
「スロウス公様、おはようございます。」
「あぁ、黒姫様おはよう。」
ん?今、様といわなかったか?
「おはようございます。
こっそりと結界の中から、ヒロ様の人となりを見るんじゃなかったのですか?」
「すまん、眠かった。」
「そうですか・・・
それはそれとして一目でヒロ様に結界を見破られたそうですね。」
「明日から本気出す!!」
「つまり、本気を出していなかったと?」
「本気を出したら世界が壊れるではないか!!」
「明日、世界を壊すつもりなのですか?」
「良し!!本気を出すのはやめておこう!!」
「もっとやる気を出してください!!」
「やる気は、やれる人が出すものだ!!」
「貴方という人は・・・仕事ぐらいきちんとやってください!!」
「黒姫様・・・」
「はい。」
「働いたらさ・・・負けだと思うんだよね。」
「働いてくださいっ!!」
「酷いっ、俺に働けというのかっ!?」
「その通りですっ!!」
「なら踏んでください!!思いっきり踏んでください!!」
これは・・・なんなんだろう?
リアーサはため息を吐くと・・・靴下をはいた右足でスロウス公の・・・股間をけったぁ!?
「おふぅぅぅぅぅ、黒姫様ぁぁぁぁぁ、ありがとうございますぅぅぅぅ。」
「・・・・・・・・・」
俺達は唖然とした目でリアーサを見つめる。
マーシャルさんはため息を付いている。
「ふぅ、君たち待たせたね。
僕がスロウス領領主だ。
気軽にマスターニートと呼んでくれ。」
いろいろな意味で駄目な気がするっ!?
「あの・・・普段はあんな事しないですからね?」
リアーサは耳まで真っ赤にして、スロウス公の隣に座った。
「マスターニート様、どうか私の父をお救いください。」
「もちろんだとも幼女様!!」
アーチャよ・・・その名で呼ぶか?
そして即決だな・・・。
「俺も手を貸して欲しい。
お願いします。」
「え、やだよ。面倒・・・」
こ・・・この野郎・・・
「まぁ、まてヒロよ。
スロウス公、我は前魔王アリシア。
プライド公暗殺犯へ報復する為に力を貸すのだ!!」
確かにぽっと出の俺が頼むより、前魔王のアリシアに頼んだ方が良いか。
「やですよ。
ラース公おっかないじゃないですか。
誰がおばはんのお願いなんて聞きますか。」
あ、アリシアが切れた。
スマホ画面が真っ赤になってる・・・
「スロウス公様・・・もう少し言い方をお考えください。」
リアーサも焦っている。
ん?何かちらちらと俺とアーチャを交互に見ている・・・
なるほど!!
後でお礼を言っておこう。
「(こそこそ)アーチャ、アーチャからも頼んでくれ。」
「あ、はい。
マスターニート様、ヒロ様のこともお願いできないでしょうか?」
「もちろんオッケイさ!!
ヒロ君、我がスロウス領はプライド公の下に君達を支援する事にするよ!!」
それで良いのか・・・
「それでアーチャ君・・・ちょっと踏んでくれないかね?」
「はい?」
残念だ・・・すごく残念すぎるよこの領主・・・
アリシアもこの豹変っぷりには怒りが吹き飛んでるし・・・
あぁ、でもスキルはコピーさせて貰っておかないとだ・・・
アリシアにも言われてたっけ・・・
「スロウス公、ちょっと額を・・・」
なんかだらっとした雰囲気になってしまったので、特に何も考えず額を触ろうとする。
シュッ
「何をする?魔王候補?」
見えなかった・・・
今、俺の首筋には短剣が突きつけられている。
突きつけている相手はスロウス公だ・・・
この目・・・本当にさっきまでふざけていた男の目なのか?
プライド公よりも鋭い・・・
ゴクリ・・・
「私に男色の気は無い。
私が愛するのは幼女のみ!!
アイラブ幼女!!
幼女フォーーーーーエヴァーーーーー!!」
スロウス公は短剣を自分の腰に差すと、いきなり踊り始まってしまった・・・
(なぁ、アリシア・・・)
(なんじゃ、ヒロよ?)
(この人・・・疲れる。)
(奇遇じゃな・・・我もだ・・・)
(まぁ、アーチャのおかげとは言え、手を貸してくれることになったし良かった良かった。)
(じゃがヒロよ、先ほどの一瞬、忘れるでないぞ?
あれも間違いなくスロウス公だ。)
アリシアが忠告してくるが、どう考えても駄目人間だし、毒にも薬にもならなければそれで良いかと思う。
こうして俺とスロウス公の会談は終った。
後は何度か会って詳細を練るだけだ。
館に部屋を用意して貰い、しばらくはスロウス公の家でお世話になりそうだ。
お読み頂きありがとうございます。




