079 黒姫との会談2
「保留・・・ですか?」
「ええ、元々スロウス領はラース公側です。
なのでプライド公からの要請に従う義務は有りません。
・・・ですが、ここ最近の情勢は無視できません。
ヒロ様・アリシア様としては協力出来ない事に不振をもたれるかもしれませんが、我々としてもかなり譲歩した結果なのです。」
「いや、保留という結論ですら、かなり驚きだ・・・
我らとしては嬉しい誤算ではあるの。」
アリシアは保留ですら良い結果と捕らえているようだ。
(アリシア、どう言う事?)
(元々スロウス領はラース公の子飼いなのだよ。
本来なら領に入った時点で捕えられてもおかしくなかったはずなのじゃが、手配書1つ無かった事で何かあるとにらんでおったのだ・・・)
(スロウス領主もラース公に疑問を持った・・・とか?)
(うむ、今のお主と同じ状況・・・と考えれば一番判りやすいかの?)
(そっか。
なら、芽はあるわけだ?)
(ほう?
以前のようにラース公がまさか?とは思わないのか?)
(あぁ、さすがにあれだけの証拠が揃っていれば・・・ね。
今でも何故?とは思ってるけど。)
(何故・・・か。
確かに昔のラース公を知っておる者からすれば、何故と言えるほど変わってしまったな。)
(変わった?)
(うむ、我はラース公が小さい頃から知っておったが、彼女が小さい頃はとても優しい子でな。)
アリシアの年齢が気になったが、突っ込んではいけない気がする・・・
(自然を愛し、平和を愛し・・・何よりも人を愛していた。)
でもこの国を創ったって言ってたしな・・・
(ん?どうした難しい顔をして?)
うおっ、やばっ・・・さすがにアリシアの年の事考えてたとは言えないな。
確かラース公が優しいって言ってたよな。
(いや、今の状況からそんなラース公を想像する事ができなくて・・・)
(うむ、ある時期からじゃ、彼女が豹変したのは。)
アリシアは懐かしむように振り返って語っている。
どうやら誤魔化せたようだ。
(神子となるべく儀式に向かってから彼女は変わった。
それまでは見向きもしなかった内政に力を入れ始め、魔国が1つにまとまるように動き始めたのだ。)
(でもそれって良い事じゃないの?)
(確かにまとまるのは良いことじゃが、国が1つにまとまると言う事は、軍備を整える事が出来る。と言う事だ。
軍備が整えられる=戦争が出来る。と言う事じゃな。)
戦争か・・・確かに国がまとまってなく、小さな集落の紛争程度なら酷い事にならずにすむ事は多そうだ。
だが、ひとつの国として機能していれば、種火は例え小さなものでも大規模な戦争へと繋がっていく。
(最初は国のことを想って奮起したのかと思ったが、実際には違った訳だな。)
(大規模な戦争を起こそうとしていた・・・と言う事?)
(さすがに判ったか。
その通りだ。
結局、魔国の軍勢と、人族の軍勢が争う戦争が起こるようになっていったからな。
今考えれば不自然な事も多い。
もしかすると、ラース公が裏で手を引いていたのでは?と勘ぐる者も多い。)
(うん・・・そう思われても不思議は無いだろうね。)
(その通りじゃ。だからこそ、それまでは子飼いであったスロウス領やグリード領が揺れ動く結果となっておる。
地盤が緩み始めていると言っても過言では無いな。)
(参ったな・・・今までの話で、ラース公が余計判らなくなった。)
(ふふ、やはりお主は面白い。選んで正解だったぞ?)
(えっ!?あ~・・・えっと、ありがとう。)
(ここからスロウス領とグリード領をどうまとめるかは、お主次第・・・と思っておる。)
(判った・・・
アリシア、ありがとう。)
(ふふふ、頑張るのだぞ、婿殿よ。)
「判りました。
リアーサ、ありがとうございます。」
「いえ・・・
良い返事が出来ず申し訳ありません。ヒロ様。」
リアーサは申し訳なさげに顔を伏せる。
力になりたい・・・そう言いたいオーラが伝わってくる。
彼女としても、誰に付くべきか悩んでいるんだろう。
個人としてではなく、領主補佐として・・・民を預かる者として・・・
俺が持ってきた書状の意味は、それほど重大なものだったのだ。
流されるままに動いている俺が・・・
魔王になる事を拒んでいる俺が・・・
動き出した事で国が2つに割れようとしている・・・
このまま戦争という事態になった場合、俺が動いた事で大多数の人間が殺しあう事になる。
俺は本当に今のままで良いんだろうか?
俺が動いた事の責任・・・それは・・・
(妙な考えは起こさぬ方が良いぞ?)
(・・・!?)
(体がこわばったか、ふふふ、やはりお主は隠し事ができんの。)
参ったな・・・アリシアは本当に鋭いや。
(ふぅ~・・・やっぱりアリシアには頭があがらなそうだな。)
(出会ってからの日数は少なくとも、密度は濃いと思っておるからの?)
(そうだね・・・確かにこの世界に来てからずっと一緒だったんだね。)
(うむ、心の中は判らずとも、ずっと同じものを見て、おぬしの行動を見てきた。
少なくとも今のお主は我が一番知っておると熟知しておるぞ。)
(それは叶わない訳だ・・・)
(だからこそ、お主が何故拒んでいるか判っておるつもりだ。
誰かのために信念を曲げるくらいなら、我はお主を選んだりしなかったぞ?)
(耳が痛いね。
俺はそこまで立派な人間じゃないんだが・・・)
(ふふふ、お主は我が認めた男じゃ。
もっと自信を持って行動するが良い。)
(その結果、全てから逃げる事になっても?)
(それでも・・・だな。
そんな度胸が無いことは判っておるがな。)
(あはは・・・ほんとアリシアには叶わないや。)
(我を馬鹿にするな。これでも元魔王なのだぞ。
・・・もっと我に頼って生きて良い。)
(ありがとう・・・
参ったな、本気で惚れてしまいそうだ。)
(ふはははは、我は既に惚れておるからな。
両想いという奴だ。)
(ちょっ!?アリシアさん!?)
(はっはっは、半分冗談だ。)
(参ったなぁもう・・・)
「ヒロ様・・・大丈夫でしょうか?」
気が付くと、リアーサが心配そうに俺を見つめていた。
「ヒロ様、急に黙り込んだと思ったら、お顔が百面相してましたよ?
お腹痛いならトイレはあっちですよ?」
アーチャも俺のことを心配していた。
心配の内容は斜め上を行っていたが・・・
「ん・・・ごめん、ちょっと色々と考え込んでいたものだから。」
「そうですか、本当に力になれず申し訳ありません。」
力になれない事で俺が悩んでいると思ったのだろう、リアーサが本当にすまなそうな顔をして頭を下げる。
「いやいや、リアーサのせいじゃないからっ!!
これは本当に俺自身のことだから、気にしないで。」
「と言う事はリアーサを妾にする事で、真剣に悩んでいたんだね?
うん、ヒロ様が身内になればきっとスロウス公も考えが変わると思うよ。」
リアーサが黒姫モードになってから、ずっと黙っていたマーシャルさんがここぞとばかりに乗り出してきた。
「いえ、それは考えてませんから。」
下手に答えるとこじれそうだったのでさくっと却下しておく。
「・・・そうか。」
相当残念そうに下がっていくが、ここで甘くするとまた流されるので気持ちをキッと締める。
今度はリアーサが口を開く。
「・・・そうですね・・・
私の権限では"保留"止まりですが、スロウス公に見初められたならば可能性は有ります。
・・・ですが・・・」
言いずらそうに口を閉ざしてしまう。
「ですが?」
「スロウス公が他人に会うかどうか・・・」
「失礼ですが、スロウス公についてお聞きしてもよろしいですか?」
リアーサは困ったように悩んだ後、
「何所から話せば良いでしょうか・・・」
「大体の噂は聞いています。」
「そうですか、噂を・・・
ではお話しましょう。
ヒロ様は異世界からこの世界にいらっしゃったのですよね?」
「ええ、アリシアから聞いたのですか?」
「そのような所です。
半分以上は推理でしたけどね。
なので、噂通りと思ってしまっては困ります。
・・・実際にその目でご覧ください。」
リアーサの声にスロウス公が来るか?と身構える・・・が来ない。
「えっと・・・
見えないと思いますが、そこの端でスロウス公は寝た振りをしております。」
その手の指す先は、先ほど突き飛ばしてついでに意識も吹き飛ばした男性エルフが居る場所だった。




