077 リアーサ
「あの・・・ここは?」
馬車に揺られて20分。
目の前には大樹の幹が広がっている。
首都スロウスの中心部、世界樹の幹にしてスロウス大公の住宅だ。
「あぁ、娘がここで働いているんでな。
・・・よぅ、ご苦労さん。」
マーシャルさんが門番に手をあげると、兵士が姿勢を正し
「マーシャル様、お疲れ様です!!」
と返してくる。
マーシャルさんのおかげか、俺達もすんなりと中に入る事ができた。
中に入る為、行列をなしている人たちには申し訳ないけど、ラッキーと思っておこう。
中に入って直ぐに馬車の置き場があり、そこで馬車から降りると、迷路のようなうろを通り応接室へ案内された。
「今呼んでくるからちっと待っててくれ。」
マーシャルさんはそれだけ言うと、俺達を残して出て行ってしまった。
余りの出来事にぼーぜんとしていたが、部屋の隅に先客がいるのに気付いた。
「あっと、すみません気付かずに・・・ヒロと言います。
マーシャルさんに案内されてここに通されました。」
余りに予想外の事が続いた為、しどろもどろな挨拶になってしまう。
先にいたのは俺と同じか、少し上ぐらいのエルフの男性。
ぼさぼさの長髪とだぼだぼのジャージ姿で、部屋の端にある本棚の前に転がって本を読んでいた。
「始めまして、私はアーチャと申します。」
「このようななりで失礼する。
我はアリシアと申すものだ。」
2人も気付いたようで直ぐに挨拶をする。
男性は2人の声を聞いて、やっと気付いたように立ち上がるとこっちの方を向いた。
切れ長の目、すっと通った鼻筋。
線は細いが間違いなく美形だ・・・
「お・・・おぉ・・・」
男性は何事か呟きながら近づいてくる。
「幼女だ!!幼女がいる~♪」
そしてアーチャに抱きついた。
「「「・・・・・・・・・」」」
「えへへぇ~、幼女だぁ、ドワーフの幼女だぁ~♪」
俺達が固まった中、男性はアーチャを抱きしめたり撫で回したり続けている。
「アー・・・チャ・・・?」
俺が呟くと、金縛りにあっていたアーチャが顔を真っ赤にし、
「きゃ・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!!」
男性を思いっきり突き飛ばす。
男性の線の細さが原因か、アーチャのスキル『剛力』が原因か、突き飛ばされた男性は壁にめり込むほどの勢いでぶつかり、ずるずると崩れ落ちる。
「きゅう・・・」
我に返ったアーチャが男性の安否を確認しようと走り寄ると、男性はすでに白目をむいて意識を失っていた。
「ひ・・・ヒロ様、どうしましょう!?」
男性には悪いが、俺の頭の中には元の世界の言葉が頭の中を駆け巡っていた。
【痴漢には死を!!】
穏やかで誰よりも優しかった母さん。
彼女が唯一怒った時に言っていた言葉がそれだった。
「うん、見なかったと言う事で・・・」
アーチャににっこりと笑って白目を向いていた男性を受け取り、本棚の横に寝そべらせ、顔に本を開いてかぶせてやる。
「これでよし♪」
やり遂げた男の顔でアーチャとアリシアに向き直る。
「え・・・っと?」
「アーチャ、気にするでない。
我らは何も見なかった、そうじゃなヒロよ。」
「ハッハッハ、もちろんだよ。」
アーチャに笑いかけてやると、
「そ・・・そうですね?」
疑問系ながらも納得してくれたようだ。
そのまま2分ほど椅子にかけて待っていると、マーシャルさんが戻ってきた。
「ヒロ様、大変お待たせしました。」
その横には12歳ぐらいの黒髪、黒目のダークエルフの少女が立っていた。
見た目は可愛いというより美人と表現するのが適切な大人びた少女。
カラスの濡れ羽色を思わせるつややかな髪を腰の辺りまで伸ばし、後ろで1つに縛っているだけ。
間違いなく将来が楽しみな少女だ。
「ほれ、リアーサ、挨拶なさい。
この方がお前を貰ってくれるヒロ様だよ。」
「いやいやいや、貰うとか決めて無いですから?
会うだけですよ!?」
「始めまして、リアーサと申します。
本日はお父様の暴走に付き合っていただいて、何と言えば良いのか・・・」
リアーサちゃんは困った顔で挨拶を返してくる。
"暴走"と言う事は同じような事を難度も繰り返しているのだろう。
リアーサちゃんに同情的な視線を送ってしまう。
リアーサちゃんは俺の視線に気付いたのだろう、顔を赤くすると下を向いてしまった。
うんうん、可愛いねぇ。
「え・・・っと、アーチャちゃん遊びに来てくれたんですね。
楽しみにお待ちしておりました。」
俺の隣にアーチャとアリシアもいることに気付くと、バラが咲き誇るような笑みを浮かべる。
やはりああ言う事を言われるよりも、友達と遊ぶ方が嬉しいのだろう。
「いかがですか、ヒロ様?
これこのように、今はまだ幼いが、将来が楽しみな美少女だと思っているのですよ。」
マーシャルさんの言葉にまた顔を赤くしてしまうリアーサちゃん。
ここまで可愛いとつい悪戯をしたくなってしまう。
「そうですね。
彼女のように綺麗な子なら将来は絶対に美人になるんじゃ無いでしょうか?」
「えっ・・・あっ・・・うぅ・・・」
トマトのように顔が真っ赤になっていく。
そういった趣味は持っていないのだが・・・
この子ならいいかも?と思ってしまったのは内緒だ。
「おぉ、ヒロ様もそう思いますか!!
親として鼻が高いです。」
リアーサちゃんを褒めた事でかなりご満悦のようだ。
「ヒロ様っ、私はどうですか?」
対抗してアーチャも俺に向かってポーズを決める。
「ははは、アーチャももちろん可愛いよ。」
「えへへ~。」
アーチャも女の子、褒めると頬を赤くしてニコニコしだした。
「では、この子を妾にすると言う事で?」
「いやいやいや、確かに美人ですが、そういうつもりで言ったんじゃないですから。」
「大丈夫です。
この国はロリも多いのでカミングアウトしても白い目で見られませんから!!」
「いや、だからそもそもロリじゃないんで・・・」
「ヒロよ、我も自分を偽るのは感心せぬぞ?」
「だから違うって・・・」
この人達は俺をどうしたいのだろう・・・
恥ずかしい暴露までしたのに・・・
誰も・・・信じてくれない・・・
「お父様、アリシア様、ヒロ様が本気で落ち込んでおられますから、悪ふざけもその辺で。」
リアーサちゃんが2人をたしなめてくれる。
「おっと、からかい甲斐があってついな。」
アリシアがリアーサちゃんに向かって頭を下げる。
「いや、俺は本気で気に入ったからお前を貰って欲しいのだがな。」
「お父様!!」
「うむ・・・むぅ・・・ヒロ様申し訳ございません・・・。」
しぶしぶながらマーシャルさんも引き下がってくれる。
「さて、落ち着いたところでマーシャルさん。」
「なんだい?」
「そろそろ黒姫様との面会をお願いしたいのですが・・・」
「あぁ、その事か。
大丈夫、目の前にいるよ。」
目の前・・・リアーサちゃんと部屋の隅で気絶しているエルフの男性・・・
黒姫様の特徴は黒目黒髪の美女・・・
「もしかして!?」
「ええ、私が世間から黒姫と呼ばれるスロウス領領主秘書となります。」
「「「えええええええっ!?」」」
見事に俺、アリシア、アーチャの声がハモッた。
お読み頂きありがとうございました。




