074 スロウス領門前
世界を割るほどの大樹を中心として、その裾野へ広がる広大な都市。
それがスロウス領首都である。
領主であるスロウス公はその大樹のうろに住んでいるそうだ。
「うわぁ、大きいですね~。」
「うん・・・俺もここまでの大樹は始めてみた・・・」
上を見ていると、首が疲れてくる。
さすがに遠くから樹を見る事が出来ていただけの事はある。
御者席から覗き見る大樹は、天辺の先がどこまで続いているのか計り知れない。
「ふむ、ヒロはともかくアーチャも初めてなのか。」
「はい!!すごいですね!!
これが世界樹なんですね!!」
「へぇ、世界樹なんだ?」
マンガや小説ではよく題材として取り上げられる世界樹だが、異世界となるとあるものなんだな・・・
「といっても、万能薬や蘇生薬になる訳では無いからの。」
「えっ!?そうだったんですかっ!!」
アーチャよ、何故マンガや小説の知識の無い君がそんなに驚くんだ・・・
「アーチャよ・・・今のはヒロに対しての冗談だったのだが、何故お主が驚く・・・」
アリシアも同じことを思ったって事は、実際にこの世界に似たような薬が有ると言う訳でも無いんだな?
「いえ、ここは驚く所かな~?と思いましたので!!」
えっへんと胸を張っていってくるが、アリシアと2人で頭を抱えてしまう。
「どうしたんですか?
アリシア様の教えどおりに空気って物を読んでみたんですよ♪」
この2日間、常識を叩き込んだはずなのだが・・・
天然・・・と言うのだろうか、彼女はやはり彼女だった・・・
ノリと勢いで発言する。
マンガや小説ではほほえましく見ていた物だが、
実際相手にするとここまで疲れるものだったとは・・・
「とりあえず、列に並ぼうか・・・」
「そうだな、早い所スロウス公へ面会の申込みを行っておいた方が良いしの。」
話しながら馬車を進めると、門の前に繋がっている行列に並ぶよう馬車を移動する。
「そう言えば、スロウス公ってどういう人なんだ?
ある程度心構えをしておかないとボロが出そうだし、知ってる事があれば教えてくれないかな?」
「う~む・・・
なんと言えば良いか・・・
・・・そうじゃな、おぬしの知識にある"スロウス"の名に相応しい男。
とだけ言っておこうかの。」
「ふむ?」
スロウス・・・確か怠惰の罪だったよな。
と言う事は・・・あ~・・うん、なんとなく判った。
「お父様のお話では、かなりぐうたらで自堕落で、なんであれで領主で居られるのか不思議な男。
と言っておりましたわ♪」
アーチャの言葉に、門番の視線を感じる。
「ぼやかして言うとったのに・・・このアホ娘が!!」
うん・・・他人の悪口、しかも門前で領主の悪口を言う人が居ますかと俺も怒りたい・・・
「お聞きされたので、私の知っている事をお話しただけですのにっ・・・
アホ娘なんてアリシア様ひどいですぅ~。」
「じゃからのぅ、時と場合を考えろと言うておろうが!!
先ほどと言い、今と言い全然空気を読んでおらんわ!!
・・・まったく、例え本当にぐーたらで自堕落で、会議なんてサボり放題。
与えた仕事は全て部下に放り投げて、自分は煎餅食いながら茶を飲んでる始末。
参謀が素晴らしいから、何とか体裁を保っていられる低脳領主と判っていても、いたずらに口にしてはならんのだぞ!!」
アリシアの言葉が最終通告だったのか、途端に兵士がこっちに向かってくる。
「ちょっ!?アリシア、ストップ!!」
周りに並んでいる人達は、いつの間にか遠巻きに俺たちの事を見ている。
アリシアも状況に気付いたのだろう。
「すまぬ・・・このアホ娘に引っ張られて、つい口が滑ってもうた・・・」
アリシアには珍しく、素直に反省しているが、既に後の祭りだ・・・
殺気は感じないが、どう来られるのやら・・・
先頭にいた、壮年の兵士が俺の肩を掴む。
瞬間払いのけようとしてしまうが、ここでそれを行っては火に油を注ぐだけだ。
空気の読める男である俺は、さすがに自制する。
「そこの旅人よ!!良くぞ言ってくれた!!」
・・・・・・・・・え?
「うんうん、お主は分かっているな。
我々も領主様には苦労しておるのだ。
補佐をしている黒姫様がおらぬば、このスロウス領はとてもとても・・・」
「黒姫様ですかっ♪判ります!!
グリトニー領にもその素晴らしさは伝わってるんですよ♪
強くて、聡明でカッコ良いのに、ぐうたらでだらしない領主様を立派に支え、それは見事に領を統治していると♪」
「おぉ、お主まだ小さいのに判るか!!」
「はい!!」
おい・・・兵士さん、それで良いのか?
その後もアーチャに、どんなにこの領の兵士が苦労しているか。
補佐の黒姫さんが、どんなに素晴らしくて頼りになるかを力説してくれた。
他の兵士が元の役割に戻り、門の前に並んでいた行列がなくなる頃になって、
「親方、そろそろ閉門の時間ですよ。
彼らを解放してやってはどうですか?」
年下の兵士さんが間を取り持ってくれた。
アーチャは壮年の兵士さんと仲良くなっているし、アリシアはスマホの中で本を読み出してるし・・・
年下の兵士さんのお陰で、このいったたまれない感じからやっと開放された。
だが、あのアーチャですら覚えている人物となると、その名声は凄い物なんだろうな・・・
「ヒロ様、何か失礼な事を考えて無いですか?」
「いや、何も?」
考えてはいましたが・・・
「いやしかし、中々見所のある少女じゃないかっ!!
見た所ドワーフ族でグリトニー領から来たと言っていたが、今日は観光か何かだったのかい?」
「はい♪
今日は亡命に来ました♪」
ピシッ
その一言で周囲の空気は完全に固まった。
「あれ?皆さんどうされたのですか?」
ここ2日間のアリシアによる教育で常識を・・・
常識・・・・・・
ふふ、常識ってなんだろうなぁ・・・あはは・・・
「このアホ娘!!
真実でも言って良い場所と割る居場所があると何度も言ったであろうがっ!!」
「う~、アリシア様、またアホ娘って言ったぁ。」
「アホ娘が嫌なら、ボケ娘だ!!
こういうときは観光と言っておいて、後から領主館へ亡命と駆け込むよう教えたではないかっ!!」
「う~、ボケ娘も嫌ですよぅ。
お父様が嘘をついちゃいけませんって言ったんですもの。
嘘をついては駄目なんですよ?」
アリシアが頭を押さえて座り込んでしまった。
「このボケ娘は・・・
時には嘘をついても生き延びぬば、死ぬのは自分を含めた周りだと教えたろうが!!」
「それでも嘘をついちゃいけないって習いましたもの!!」
「まったく・・・
頑固な所だけはあの男に似おってからに・・・」
アリシアはがっくりと頭をうなだれため息をついている。
正直に生き、理想に生きる。
確かに誰もが思う最高の行き方と思うかもしれないが、その通りに生きるというのは、周囲との軋轢を生むだけなのだ・・・
時には嘘をついたり、時には不義に手を染めなければならないと俺は思っている。
アリシアも大小あれど、その事を教えたいのだろう。
アーチャはまったく頑固で、聞き入れるつもりは無さそうだが・・・
確かにおっちゃんもそうだった。
周りが俺を認めないと出て行く中。
自分の目で確かめなければ気がすまないと、俺の実力を見ようとしてくれた。
あの人が子供を甘やかして育てると、こんな娘のよになるのか・・・
子育てって難しいんだな。としみじみ思ってしまった。
「とりあえず、我々に付いて来て貰えるだろうか?」
壮年の兵士さんは俺達に従うよう要請してくる。
下手に断るより、しっかり聞いてもらったほうが良いだろう。
俺達は兵士さんに従って詰め所へと歩いていった。
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