070 宿場町 メルキダ
「我々はこの賠償金を渡しに戻るので失礼いたします。」
兵士達は、俺達とは逆方向に進むようだ。
「ええ、本当に申し訳なかったと、伝えてください。」
「ええと・・・、無知とは言え、大変なことを仕出かしまして本当に申し訳ありませんでした。」
アーチャも申し訳ない事をしたと判ったのだろう。
真剣に謝っているように見える。
「ああ、串焼き屋にもそう言う事だったと伝えておこう。
少年よ、間違いなくその少女に一般常識を叩き込んでおいてくれ。」
「ええ、間違いなく。」
良い笑顔を残して隊長さんは去っていった。
さて・・・と、
後ろには服の端をつまんだアーチャと、寝っぱなしの兵士や侍女達。
「アーチャ、荷物は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です♪」
「ちゃんと先にスロウス領に行っている事を書き置きしてきたか?」
「もちろんです♪」
「最後に確認だ、俺についてくることで、今まで侍女がやっていたことを全て自分でやらないといけないんだぞ?」
「判ってます!!」
・・・本当に判っているのか不安だなぁ。
(アリシア、大丈夫だと思うか?)
(本人がああ言って居るのだ、問題なかろう。)
「じゃ、行くか。」
「はい!!」
と言ってアーチャは馬車に乗り込んでいく。
「アーチャ、何してるの?」
「出発するのではありませんか?なので馬車に乗り込もうと。」
「いやいや、その馬車は従者さんと侍女さんの馬車だから。
歩きで次の町に向かうんだよ。」
「歩くのですか!?」
相当以外だったようだ、かなり驚いている。
「次の街まで歩きなど、何日かかるか判らないではありませんか?
この方達には歩いていってもらいましょう。
そうすれば私達が馬車を使えます。」
「いや、それだとこの人たちが困るんじゃないのか?」
「大丈夫です!!
元々この馬車は我が家の物です。
つまり、主人であるアーチャのお父様の物なのですから、娘であるアーチャが使うべきではないですか?」
言われてみれば確かにそうだ。
従者の方々が大変かと思って置いて行こうと思ったが、持ち主はアーチャの物なんだよな。
「馬車を使うのは良いが、操縦できるのか?」
アリシアに言われて気がついた。
ラース領を出るときに一通り習ったが、実際に操縦した事はないな。
「ヒロ様、お願いしますね。」
「いや、やり方は判るけど、やった事はないから・・・」
「大丈夫です。
ヒロ様なら出来ます!!」
いや、その根拠のない自信はどこから・・・
「まぁ、何事も初めてだ。
やってみると良いのではないか?」
「それじゃ、まぁ。」
そう言って御者席に座る。
馬車はそれなりの大きさで、中には10人ぐらいが悠々と休める大きさ。
さらに馬は2頭で引っ張るタイプのようだ。
確か・・・こうだったよな?
馬へ鞭を入れると、馬が嘶き走り始める。
・・・ただし、物凄いスピードを出して・・・である。
「うわぁぁぁぁぁーーー」
「きゃぁぁぁぁぁぁーーー」
―3時間後
「町が見えてきたな。」
「あそこが地図にあった最初の宿場町じゃ。
思ったより早く着いたの。」
「さすがヒロ様。
馬車の操縦もバッチリですね。」
いや、最初の30分ほど暴走していたからだと思うのですが・・・
まぁ、運よく暴走が進路方向に向かってだったので、思ったより早く町へ着く事ができたんだが。
「まぁ、早く入ろうか。」
町の入り口には警備兵が立っていた。
装備を見ると、先ほど分かれた隊長さんと同じ鎧を着ている。
第3部隊と言う事だろうか。
馬車で入り口前まで進むと、兵士さんが門の前で仁王立ちしている。
身長190cmはありそうなムキムキマッチョな兵士だ。
エルフにしては珍しいな?目も糸目だし、美形・・・とはお世辞にもいえないな。
「こんにちは。」
「うむ。」
「中へ入りたいのですがよろしいでしょうか?」
「うむ。」
「・・・・・・あの、中へ入りたいのですが?」
「うむ。」
返事はすれども退いてはくれず・・・
「あの・・・」
「うむ。」
「話、聞いてます?」
「うむ。」
この状態どうしよう・・・
「いつまで寝とんじゃい、ワレッ!!」
スパァンッ
後ろの方からもう1人の兵士が走ってきて剣の鞘で糸目の兵士を殴りつける。
「んあ・・・あぁ、悪い寝てた。」
「お前なぁ、いくら町の警備が暇やからて、仁王立ちして寝るなや!!」
「悪い悪い」
「まったくぅ・・・旅人さん悪いな、コイツこんなんやけれどあまり言いふらさんでや。」
「こんなんって、酷いな。」
「せやかて、お前いっつもここで寝とるやないかい!!」
「だって、昨日も鏡の前でポージングの練習してたら、いつの間にか朝になってて・・・」
「それがあかんっちゅ~ねん。
趣味もええけど、仕事はきちっとこなさなあかんで?」
「大丈夫だよ。
ここに旅人なんてめったに来ないんだから。」
「来とるから問題やっちゅ~ねん。
それで何回隊長から怒られてとると思ってんねん。」
「えっと・・・たった28回ぐらいだよ。」
「どこがたったっちゅ~ねん。」
「でも、クラウスは50回以上怒られてるよ?」
「そうそう、クラウスはほんにしゃぁないのぅ。
って、そうじゃなく、50回以上も28回も大差ないっちゅねん。」
「でも~。」
「デモもストも無い!!
怒られるような事すなっちゅ~ねん。」
「まぁ、気をつけるよ。」
「うむ、次は無いようにな。」
「それで、この人たちは誰?」
「あんな~、お前が通せんぼしていて町に入れない冒険者やろが。」
「そうだったんだ~?」
「せや!!
ほら、きちんと謝っておき。」
「ごめんね~、アス。」
「うんうん、ええねんええねん、判ってくれればいいねん。
って、誰に向かってあやまっとんねん。」
「え?でもアスが謝れって・・・」
「謝るのはわしや無いわい。
旅人さんにあやまれっちゅ~ねん。」
「旅人さんって?」
「目の前におるやないかい。」
「あぁ、この人達が旅人さんなんだ~?」
「せや、きちんと謝っとき。」
「うん、ごめんね~アス。」
「せやから何でわしに謝るねん。」
「た・び・び・とさんに謝れっちゅ~ねん。」
「おっと、旅人さんまたせてごめんね~。」
「それでええんや、それで。
やりゃ~出来るやないかい。」
「えへへ、褒められちゃった。」
「褒めて無いわい。」
・・・・・・なんだろうこの面白い2人は・・・
「あはははは、あはっ・・・あはっ・・・面白いです~。」
「ぷはっ・・・わはははははは、なんじゃこの2人組みはっ!!
面白すぎるぞヒロっ、この本なんかよりも更に面白い。」
アリシアもアーチャも大爆笑している。
「すまんのぅ、兄ちゃん。
こいつこんな奴やねんけど、許したってや~。」
「いや、連れは2人とも大爆笑してるので気にしないでくれていいです。」
「そら良かった。
この町は『メルキダ』の町や。
宿場町として栄えた町やさかい。面白い所も結構あるで~。
楽しんでいってや。」
俺達は兵士に手を振って町の中に入っていく。
「ほら、何も言われんかったでは無いか。」
「うん、何も言われず普通に通れたねぇ?」
アーチャと出合ったときの兵士が俺の素顔を見て、手配書に関連付けられなかった為、アリシアが
「この領では手配書が回らない事もあるのじゃ。
もしかするとヒロの手配書も回っておらぬかも知れん。
試しに次の宿場町では変装(吸血鬼化)無しで入ってみよ。」
と言われていて、変装(吸血鬼化)無しで行ってみたのだが、結果はあの通りだ。
どうやらこの町では手配書が回っていないようだな。
スロウス公が何か考えた上でそのように手配したのか、ただ忘れられているのかは判らない。
だが、この領では動きやすいという事が判っただけでも良い。
お読み頂きありがとうございました。




