069 様々な誤解
「それはそれとして、結局この族の集団は何だったんだ?」
結構時間は経ったと思うが、未だに目を覚ましているのは先ほど起こした侍女さんとアーチャの2人だけだ。
「片方だけの意見で動くのは危ないからの、もう片方の事情もきちんと聞いた方が良いぞ?」
確かにその通りだ。
片側の意見だけで全てを判断すると言うのは、早計だろう。
「アーチャ、この集団に関して何か判る事は無いか?」
アーチャは小首をかしげる仕草をして、
「耳が長く、陶磁器のような白い肌。
この特徴はエルフ族と思っていいのですが・・・
森の中で出会ったときは、護衛になにやら怒鳴っていたのです。
それがいつの間にか襲い掛かってきて・・・
きっと追手を差し向けられたか、族の類とは思うのですが?」
どうやらいきなり襲ってきたのではなく、何か勧告なりを行ったうえで襲ったのか。
細かいところは違うが、大体は先ほどの女性がアリシアに言った事と変わらないと言う事か。
「じゃぁ、1回話を聞いてみるか。
アーチャと侍女さんは後ろの方で大人しくしておいて。」
集団を見ると、統一の装備をしている。
剣は取り上げて一箇所にまとめている為、危険はないだろう。
一番身なりのよさそうなものを選び、体を揺する。
「・・・・ん・・・はっ、これは一体!?」
男性は起きると、自分の身体を見て絶句する。
「あんたら何者だ?」
悪党が相手だ、多少は脅した方がいいだろう。
首筋に刀を押し付け、ドスを聞かせて尋ねる。
「犯罪者に答える口は持たぬなっ!!」
・・・・・・あっ!?
ヤバい・・・変装するのを忘れていた・・・
いつもは人前に出るとき、『吸血鬼化』を使って見た目を変えていたのだが、今回は不意だったので素のままだった・・・
普段ならイケメンヴァンパイアとして、決まったセリフを言っていてもこの顔じゃ・・・ねぇ?
どうしようか悩んでいると、男性が更に言ってくる。
「だが、報告にあったのはドワーフのみと成っている・・・
貴様達こそ何者だ?
我らをスロウス領第3部隊と知っての狼藉かっ!!」
・・・・・・・・・えっ!?
念のため刀はそのままにしてアリシアへ振り返る。
「ふむ?・・・我の知っているスロウス領における統一装備とは違うようだが・・・?」
その言葉を聞いて納得したのか?態度を軟化させる。
「ふん、戦闘音に引かれてやってきた冒険者の類か・・・」
えっと・・・つまり、犯罪者はアーチャ達で、俺のことは広まっていないと考えていいのか?
というか、アーチャたちが犯罪者ってどういう事だろう?
確認しておいた方が良さそうだな。
「悪いけど、両方の意見が食い違っているみたいだ。
何故彼女達が犯罪者なのか教えて貰えないか?」
すると、兵士はアーチャを顎で指し、
「あの娘は付近の村で食い逃げを働いてな。
さらに、代金を払うよう問い詰めた店主を半殺しにした。
我ら第3部隊は地域巡回部隊。
そのような蛮行を許す事はできまい。
ここで奴らを見つけてな、問い詰めたところ剣を振るってきた。
やむを得ず反撃していた所におぬしの魔法が飛んできた。
見たところ、戦場にいた者全てを眠らせたという所か。
相当な実力を持った冒険者と受け取って良いところか?」
その言葉に俺はアーチャに振り向く。
「食い逃げなんてしてないです!!
確かにこの前の村で、屋台のおじさんから串焼きを目の前に出されて「食ってくかい?」と言われたので美味しくいただきましたが・・・」
・・・うん、それで間違いないだろうな。
間違いなく、彼女は世間知らずと証明された。
恐らく屋台の人は「食っていくかい?」=買って行かないか?に対し、
彼女は「食っていくかい?」=どうぞお食べください。
と変換したのだろう。
彼女は串焼きを食べて立ち去ろうとしたが、店主がお金を貰おうと言い募ろうとした。
だが、彼女の護衛が彼女に害しようとしていると勘違いし、半殺しにした。
良くはないが、自領であれば色々とごまかすことが出来ていたのだろう。
だが、それを行ったのは他領であるスロウス領だったので問題が起こった。
巡回兵がそれを見咎め、尋問しようとしたところ、逃亡生活で殺気だった従者がいきり立った。
と言う事だろうか?
これはなんと言うべきだろうか・・・
アーチャの顔を見ると、何も悪いことなどしていないという顔だしなぁ・・・
これは護衛の人たちの問題じゃないんだろうか?
(なぁ、アリシア)
(どうした?)
(今の話って、従者の人たちの所為だと思うんだけど?)
(よく気がついたの。
我もそう思っていたところだ。)
(一緒に行動したら、更に不味いことになりかねなくないか?)
(・・・・・・)
(ちょっと一緒にスロウス公の所に行くの怖くなってきたんだけど・・・)
(・・・・・・)
(アリシアはどう思う?)
(うむぅ・・・あの娘は悪くない、侍女も話の中では問題なさそうなのじゃがなぁ・・・
おそらく、従者の方が問題なのだろう。
何とかする方法はないかの?)
(いっそ、従者はこのままにしてアーチャだけ連れて行く?)
(・・・・・・その方がいいかも知れぬの。
ついでに色々と教育してやった方が将来的にも安心できそうじゃ。)
(じゃ、そう言う事で?)
(うむ。)
「ここで通りがかったのも何かの縁です・・・
隊長さん、これをお受け取りいただけないですか?」
こっそりと隊長さんに金貨2枚を渡す。
「これは・・・?」
「屋台のおじさんに迷惑領として渡しておいていただけないでしょうか?」
「ふむ・・・」
隊長さんは何か考え込んでいる。
「それとこれを。」
更に1枚の金貨を手渡す。
「俺も今回迷惑をかけてしまいました。
そのお詫びとして受け取ってください。
それと、彼女は俺が責任を持って色々と教えていきます。
従者達は害になりそうなので、ここに置いて行きますので許して貰えませんか?」
そこまで聞いて、隊長さんはやっと諦めた顔をする。
「うむ・・・、まぁ、これだけあれば、あの親父も納得するだろう。
それにまた通る機会があれば、きちんと謝りに行くよう伝えておくのだぞ?」
「はい、そのようにしっかり教えておきます。」
「なら良い・・・所で、縄を解いてくれないだろうか。」
「判りました。」
俺は隊長さんの縄を解くと、隊長さんに頼まれて他の兵士を起こして縄を解いていってやる。
「――――と言う事で、この件はこの方が預かることとなった。
今日の所は村へ戻り、串焼き屋へ見舞金を渡し、解散する事とする。」
その言葉に残った兵士達は微妙そうな顔をしたが、仕方ないかと諦めて引き上げてる事となった。
俺はアーチャの方へ振り向くと、
「どうやらアーチャ、君は世間の事を知らな過ぎるようだ。
これからスロウス公の元へ着くまで、色々と学びながら移動することを薦めたいんだ。」
アーチャは頷いて、
「はい、よろしくお願いします。」
と素直に言ってくる。
後は侍女さんだけだな・・・
侍女さんのほうを見ると、すでに姿はない・・・
あれ?
「なぁアーチャ、侍女さんがいないようだがどうしたんだ?」
「あら?・・・
確かヒロ様が兵士さんと話していた時は居たと思ったのですが・・・
いつの間にかいなくなっていましたね。どうしたことでしょうか?」
「あぁ、あの女ならヒロが食い逃げについて聞いている間に逃げたぞ。」
「「・・・・・・・・・・・」」
おっちゃん・・・、従者にまともな奴が居ないんだが・・・
「ま・・・まぁ、早速出かけるとするか。」
「え・・っと、従者の皆様はいかが致しましょう?」
「置いて行きたいんだが・・・アーチャは嫌か?」
「いえ、ヒロ様がそうしたいのなら私は従うだけです!!」
アーチャは腕にひっしとしがみ付いて見上げてくる。
うんうん、妹みたいで可愛いねぇ。
「じゃ、行こうか。」
「はい!!」
「さて、やっと出発できるかの。」
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