068 アーチャ・グリトニー
少女が逃げた跡はすぐに見つかった。
茂みを掻き分けていったのだろう。
追手の存在を忘れているぞ?痕跡が丸判りだ・・・
痕跡をたどって走って10分ほど走っただろうか、
「キャーーーー!!」
悲鳴が聞こえる。
間違いなくドワーフ娘の悲鳴だろう。
この先だ!!
「い・・いやっ・・・こなっ・・・こないでっ」
身長は140cmぐらいか?
ワンピースドレスを着た少女が大きな蜘蛛の巣に引っかかっている。
隣では人の2倍近い大きさの蜘蛛がギチギチと口を鳴らし、少女に食らいつこうとしていた。
間に合った。
イフリートを引き抜くと、蜘蛛に向かって一刀を放つ。
・・・が、思った以上に蜘蛛の動きが素早い
避けられたかっ!!
だが、糸は切る事が出来た。
・・・無理をする事はないのだ。
少女周りの糸を断ち切ると、支えを失い地面に落ちてくる。
「きゃっ」
・・・おぉっと危ない。
高さ2mぐらいの位置だったが、マンガの様にお姫様抱っこで受け取ろうとしたらこけそうになった。
慣れない事はするものじゃない・・・
「大丈夫?」
「・・・・・」
少女から返事はない。
どうしたんだろう?と思って覗き込むと
「うしろっ・・・後ろっ」
震えながらしきりに指差している。
・・・・あっ
いっけねぇ、蜘蛛の事忘れてた・・・
慌てて斜め前にダッシュして正解だった。
さっきまで居た場所に蜘蛛の前足が生えている。
もし、あのままだったら・・・
そ~っと後ろを向くと、さっきまで青色の目だった蜘蛛が赤色の目に変わってギチギチからキシャーという音に変わっている。
「目の色が変わったのって・・・」
「多分、獲物をとられたので怒っているかと・・・」
「やっぱり?」
「ええ・・・」
「ここで取る選択肢だけど、
①返り討ちにする。
②逃げ出す。
③大人しくえさになる。
④少女を差し出す。
が有るけどどれがいいと思う?」
「アーチャとしては①か②がいいと思います・・・」
「俺、実は蜘蛛って苦手なんだよね。」
「奇遇ですね、アーチャも生理的に無理なんです。」
「じゃ、ここは・・・」
「②番にしちゃいます?」
「オーケー・・・・じゃ、そういうことでっ」
と言う事で、一目散にさっき来た道へ逃げ出した。
「全速力で走るから、後ろ見ててっ!!」
「はいっ!!」
少女は肩越しに後ろに注意している。
俺は完全に前だけを向いて、全速力で走った。
スキル全発動しての全速力だ・・・
体感的に40km/hは出しているんじゃないだろうか。
因みに、5分ほど走って先ほどの馬車の辺りへついた時、娘さんの意識が完全に飛んでおりました・・・
「死ぬかと思ったじゃないですかっ!!
なんですか、あのでたらめな速度はっ・・・」
馬車に寝転がせて、冷えタオルを頭に載せるとすぐに目が覚めたのか、いきなり怒られてた。
「いやぁ、全力で逃げたもんで・・・」
「返事になっていません・・・」
ジト目で見てくる。
「姫様、ご無事でようございました。」
そんな一幕をまったく気にせずに、助けを頼んできた女性は少女をかいがいしく世話している。
いいところのお嬢様だったらしく、姫様呼ばわりされている。
「えぇ・・・心配をかけて申し訳ありませんでした。」
「姫様が助けを呼んでくると飛び出していった時は肝が冷えましたよ。」
「うっ・・・」
「ここは魔物の住まう大森林の中。
そこを何の力もない姫様が飛び出すとは、盛った男の前に裸で飛び出すようなものです。」
俺を見ながらその例えは何の嫌がらせ?
かなり大変な思いをして助けたって言うのに・・・
「次はもう少し考えてから行動します・・・」
「まったくもう、大事なドレスが破けたりほつれているじゃないですか。」
走って逃げている時だろうか、足元の草や木に引っ掛けて破けたのだろう。
決して俺が逃げている最中、引っ掛けて破った訳ではない・・・はずだ。
少女の方はもう安心したようだな。
情報をまとめていたアリシアへ確認する。
「あっちは大丈夫だな。
アリシア、状況は聞いておいてくれたか?」
「あぁ、バッチリだ。」
「じゃ、教えて貰っていいかな。」
「うむ。
発端から言うとな、彼女の言っていたグリトニー公と我々の知っているグリトニー公は別人だ。」
「別人ってどう言う事?
グリトニー領って公爵が2人居る訳じゃないよね?」
「うむ、公爵位は1人だけじゃ。
我々の知っているグリトニー公は、会議でラース領へ行ったきり戻ってこないそうだ。
ラース公の報告では、既に自領へ戻る為ワープゲートには乗っているそうだ。」
「・・・それってヤバくない?」
「傀儡となっているのであればよいが、既に亡くなっておる可能性も・・・
そんなこともあり、新たなグリトニー領主として現公の弟が拝公した。
1週間以上の理由無き不在は死亡の可能性大。
新たな当主を立てるべし!!というルールがあったからの。」
「アリシアはどう思う?」
「弟公はあまり出来が良くない。
更に、兄公の娘を無理やり懐柔し、戻る場所を亡くそうとしておるぐらいじゃからな。
良くて小悪党どまりかのう?」
「じゃなく、おっちゃんのこと!!」
「そうか、おぬしには色々と会あった人物じゃ、気になるのであろう。」
「あぁ・・・」
「相手はラース公じゃ。
良くてエルのように傀儡とされているか、処分されたか・・・
兄公は領主としてみれば破格の人物じゃ、処分は勿体無いと思われるが・・・」
「で、あの娘がおっちゃんの娘って事?」
「うむ、弟公に無理やり手篭めにされる所を、兄公の家臣が助け、隣にあるスロウス領へ亡命しようとした所、追っ手に捕まった所で我らが到着したと言う事だそうだ。」
「ふむぅ・・・」
おっちゃんがエルの様になっている・・・か。
無事だといいんだけどな・・・
「あのっ!!」
考え込んでいると、隣からいきなり声をかけられびっくりしてしまう。
「うおわっ・・・」
「あ・・・ごめんなさい・・・」
悪い事をしたと思ったのだろう。
すぐに謝ってくる。
「あぁ、ごめんごめん、いきなり声をかけられたから驚いただけだ。」
「そうですか・・・
あ、えっと・・・私は前グリトニー公の娘でアーチャと呼んでください。
この度は助けて貰った上に、誰一人怪我人を出す事も無く治めていただきありがとうございました。」
深くお辞儀をした後、顔を上げてにっこりとスマイル。
ロリのお兄さん方なら一発昇天だろう。
ルナと同じぐらいで見た目12歳ぐらいか?
深層の令嬢と言うほどではないが、おとなしめの可愛い子だ。
「こんにちは、俺はヒロと呼んでくれて構わないよ。
所で、怪我は無かった?」
どうもこの手の年齢の子達は、妹を連想させる。
どうしても優しく語りかけ、すぐに頭を撫でてしまうようだ。
今もアーチャの頭を撫でながら声をかけている。
緊張の連続で大変だったのだろう。
顔が真っ赤で、熱っぽい。
すぐに休ませた方がいいかもしれないな。
「はい、大丈夫です!!」
と言うだけでかなり恥ずかしいのか、蚊の鳴くような返事だった。
「それで、お願いなんですがっ!!」
・・・なんだろう?
ここ暫く慣れきった感覚が頭をよぎる。
「私1人でいいです。
スロウス領、首都へ護衛をお願いしたいですっ!!」
やっぱり・・・
女難の相は放棄できないのだろうか・・・
だが、こんな小さな子をほっておく訳にも行くまい。
「俺達・・・いや、俺は一応ラース公から懸賞金をかけられるような存在だが、それでいいのか?」
「はい!!、あの無駄のない素敵な身のこなし。
魔法にここまで好かれている人も珍しいです。
そして、あんなに優しい目をする人が暗殺するなんて考えられません!!」
ええ子やぁ・・・
俺にその手の趣味があったならば、間違いなくコロッと行くな。
まぁ・・・どうせ行き先は同じだ。
なら道中の旅仲間とでも考えればいいだろう。
画面の中でアリシアも頷いている。
どんな理由だったとしても、アリシアは仲間を大切にする。
ならば、返事は決まったな。
「俺程度の力でよければ、一緒に行くかい?」
「はいっ!!よろこんでっ。」
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