066 手紙
20分ほど歩いただろうか。
後ろの方から飛竜の羽ばたきが聞こえる。
何度か上空を旋回しているようにも見える。
やはり逃げない方がよかったのだろうか?
(あれは逃げられたという証拠付けに行っているだけの行動だ、気にする必要は無い。)
アリシアはそう言ってくれるが、やはり俺のせいで処罰されたらと考えると・・・
後戻りしようとする気持ちが生まれてしまう。
(念のため言っておくが、連行対象が逃げ出した場合は、見つけ次第殺害せぬばならぬ。
あちらも本気で攻撃せぬばらなぬから、こちらも本気で対応せぬばならぬぞ?
殺したくなくば、おとなしく隠れるが良い。)
・・・うん、大人しく隠れておこう。
多分今の俺は殺されるとか心配する事はないだろう。
だが、兵士さんは逆だ。
殺されるのを覚悟で挑んでこなければなくなる。
さすがにそれはな・・・
大人しく大木の影に隠れ、ついでに袋の中身を確認する。
中に入っていた物は
まず、愛刀『イフリート』
この世界に来てからずっと帯刀していたからだろうか、やはりしっくり来る。
そして、アクスさんの店で購入した『赤竜の衣』
だが、購入した時と何か違っている・・・
肩の辺りに宝玉がはめ込まれ、袖にあった金の模様が金と白の合わせ模様へと変わっている。
模様は両袖を合わせると竜のようにも見える。
きっと言っていた最終調整が終ったのだろう。
衣から「羽織って~、ねぇ羽織って~」というオーラを感じる。
森の中を動き回る以上、魔獣が出てくるかもしれない。
防具はきちんとつけておくに限るな。
衣を身につけると、収縮する感じがある。
自動で調整してくれるのか?
スキルで体格が変わることもあるのでこれは助かる。
後はセカンド武器として使っていた短剣や食料品と旅の必需品等色々なもの。
この辺はアイテムボックスへ仕舞っておこう。
最後に手紙が2通と地図が入っていた。
1通は【スロウス公へ】と書いてあるので、これは紹介状だろう。
もう1通は【ヒロ殿へ】と書いてある。
開けて見ると、中には手紙が入っていた。
アリシアを壁に立てかけ、2人で読む。
――――
前略
今回はこのような送り出し方ですまない。
父上のことも有り、何所まで深くラース公の手の者が入り込んでいるか判らない為、下手な手を打つことが出来なかったことを謝罪したい。
まず、この度の連行劇だが想像の通り、ラース公への服従を見せる演技だ。
先に概要を伝える事も考えたが、それでは尻尾を捕まれる可能性がある。
そのため、即興でラース公への服従を示し、かつ君達を無事領外へ出す事ができる方法を考えた。
この手紙を見てくれていると言う事は、無事隊長が任務を全うしたと思っている。
さすがにわざとらし過ぎたかも知れないが、実直な男みたいで笑って流してくれ。
気になっているであろう、仲間の事だがその辺も伝えておこうと思う。
まず、ミーティア殿だが、彼女には私の警護をして貰う事を頼んだ。
天使が相手となる以上、下手な護衛では万が一の場合被害を増やすだけだ。
最初はヒロ殿の護衛を頼もうと思ったのだが、
「ヒロなら1人の方が安全だろうし、アクスさんを守って欲しいと思うよ?」
と言われたので、素直に甘える事にした。
また、彼女はミーティアの名前のままでは不都合が多いだろうと、【ミーア】と名乗る事にしたらしい。
寝るときも私の隣の部屋で警護をすると言うので、ヒロ殿には申し訳ないが、しばらくお預かりさせていただきたいと思う。
次にグリード公とエル殿だ。
彼女達はまずグリード領へ戻り、ラース公へ対する防備と影のあぶり出しを行うといっておった。
また、エル殿はグリード公の潜在能力を開かせる為、つきっ切りで特訓を行うようだ。
次に2人に見える時はその成長に驚くかもしれないな。
最後にネイル殿。
彼女にはラスト領へ戻り、ラスト公へ今回の事件の報告とラース公への防備、影のあぶり出しを行うよう頼んだ。
なにやら思いつめた表情をしていたのが気になるが、危ない事にならない事を祈るしかない。
4人の女性もそれぞれに目的を持って動きだしたので、ヒロ殿はヒロ殿の目的に動いて欲しい。
我がプライド領、グリード領やラスト領と共に、ヒロ殿の為に動くつもりだ。
エンヴィー領には領主殿の妹で、実質領を治めている方へ全て伝えてある。
妹殿の返事次第だが、おそらくこちらについてくれるだろう。
残るスロウス領・グリトニー領をどうするかはヒロ殿にお任せいたします。
最後に、預かっておりました『赤竜の衣』に関してです。
衣以外の装備も合わせ、全てに死んだ父上の遺体を使わせていただきました。
衣も父上の砕けた竜玉や様々な部位を取り付けることで、格段の性能アップとなっております。
きっと亡くなった父上も気に入ったヒロ殿の力となれて嬉しいと思っております。
人頼みにするのは心苦しいですが、父上の意思を継いで下さる事を祈っております。
―――――――
・・・・・・ふぅ。
(どうじゃ?アクスはお主を逃がそうとしていたのではなかったか?)
(うん、その通りだった。
すぐに気づかなかった自分が情けないよ・・・)
(まぁ・・・それだけアクス殿のことをお主が考えておった事だ。
我はそういう考えは・・・嫌いではないぞ?)
画面の中には照れたアリシアが表示されている。
こうしてみると、かわいいな・・・
(ありがとう。)
(・・・うむ。)
地図を地面に広げる。
(アリシア、地図の見方は判るかな?)
(うむ、大丈夫じゃ。
ちょうど見やすいようにアクスも書き込みを入れておるな。)
(ほう?教えて貰っていいかな?)
(うむ。まずこの地図の中央にある巨大な樹。
これがスロウス領の首都じゃ。
この辺なら木の上に上れば見ることもできるじゃろう。)
(なら、地図見なくてもいけるのかな?)
(いや、見ながらの方が良いだろう。
途中にある宿場町もあるからの。)
(確かにそうだね。
でも、方角を確認できるのは助かる。)
(そうじゃな。
それでまず、今の位置は恐らくこの辺。)
そう言って指差すのは地図の中央から南東の方角。
(それじゃ、北西に進めばいいってことか。)
(そう言う事になる。)
(途中には宿場町も2つほどあるし、それほど辛くないじゃろ。
ただし、とちゅう魔獣に襲われる可能性はある。
気をつけるのだぞ?)
(あぁ、そうするよ。
ところで、いつまで念話をすればいいんだ?)
(すくなくとも巡回の飛竜が飛び去った後だ。)
(了解~。
っと、羽ばたきの音が聞こえなくなった。もう大丈夫かな?)
(念のため、もう暫く待ってからだな。
今の内に装備の点検と荷物の確認をしておくと良かろう?)
(判った。)
そうして、アイテムボックスへの仕分け、装備の具合の確認を行った後、スロウス領首都へ目指すこととなった。
今回は1人と1つのスマホだけ。
旅が始まってから初めての身軽な旅になる。
エルの告白やプライド公の遺言など、考える事は色々あるが、しばらくは旅を満喫する事になる。
少しだけ、これからの旅が楽しくなってきそうだ。
お読み頂きありがとうございました。




