062 遺言
兵士さんに案内されて通された場所は、だだっ広い医務室だった。
中央に2つのベットが並んでいる。
そこには2人の男女が寝かされて、その横に1人の青年が立っていた。
青年は先ほどあったばかりの鍛冶師、アクスさんだ。
ベットに寝ているのは誰だ?
ズキンッ
この雰囲気・・・俺は知っているぞ
ズキンッ
胸が痛い・・・
ズキンッ
5年前の災害、唯一見送る事のできた母さん・・・
ズキンッ
アクスさんの表情・・・そのときの俺とそっくりだ・・・
息が苦しい・・・胸が痛む・・・心が不安になる・・・
ベットに駆け寄ると、そこにはドラゴさんとアクアさんが居た。
2人ともあの時の母さんと同じ顔だ・・・
・・・・・・・・・・っつ!!
身体を巡る魔力を総動員し、掌に集める。
癒しの奇跡を念じ、頭の中に思い浮かぶ言葉を形にする。
『セフィロト』
身体の中の魔力がどんどん失われるのが判る。
だが、力を緩める事はできない。
「エルッ、アクアさんにありったけのヒールを!!」
ドラゴさんだけを見ながらエルに声を掛ける。
途方もない魔力が枯れて行くのが判る。
だが、ここで力を緩める訳には・・・
「ヒロッ、それ以上はやめるのだ。
その魔法が何なのか判っておるのか!!」
アリシアが叫んでいるのが聞こえる。だが、手を休めてはいけないんだっ!!
光り輝く俺の手の上に別の手が重なってくる。
そしてそっとドラゴさんの身体から降ろす。
「ドラゴさん・・・何故?」
その手の持ち主は、今にも果てそうな声で答える。
「もう無駄だ・・・おぬしの命まで粗末にするでない。」
「無駄なものかっ!!大丈夫、必ず助けて見せます。」
俺はもう一度身体を巡る魔力をかき集める。
両手に魔力を乗せ・・・
身体が動かない。
後ろを見ると、泣きながら俺に抱きついているエルが見える。
「ヒロッ・・・っもう・・・無理なのです。」
「イヤだ・・・」
エルを振り払い、魔力を練ろうとする。
「ヒロッ」
パァーン
頬を強くはたかれる・・・
「冷静になってください!!そしてドラゴさんをしっかり見てください!!」
エルに正面から抱きしめられる。
少しだけ冷静になった頭でドラゴさんの顔を見る。
困った顔で俺を見ていた・・・
「頼む、今は父上の話を聞いてくれないだろうか。」
アクスさんは今、ドラゴさんのことを父上と呼んだのだろうか?
「竜玉が割れてしまった・・・もう父上は長くない。
話を聞いてくれないだろうか?」
頭に上った血がサーッっと下がるのが判る。
俺はドラゴさんの最後の言葉すら無視する所だったんだ・・・
すぐにドラゴさんの側に顔を寄せ、ドラゴさんの言いたい事に耳を向ける。
「魔王よ、力を貸すといったすぐ後なのに申し訳ない・・・」
「そんな事はどうでもいいです。
それよりも言いたい事とはなんですか。」
「もはや時間はない。アリシア様はおるか?」
俺は懐からスマホを取り出すと、ドラゴさんの目の前に置く。
「ここに・・・」
アリシアは画面越しにドラゴさんの姿を見ている。
表情は読む事ができない・・・
「アリシア様、最期のお目にかかれてよかった・・・
今からする話をよくお聞きください。
まず最初に・・・偽者の中身は【天使】でした。」
「なんじゃとっ!?」
その言葉にアリシアの目が驚愕に見開く。
「貴方の予見通りでした。
奴は遊び始めております。
もはや、ワシには予見を上回る事ができませんでした。
予見を覆すには、最早【イレギュラー】しかおりますまい・・・
ワシに出来るすべての事はすでに終らせております。
最期に魂が還らないよう、手はずどおりに進めるだけ・・・
その術も息子へ伝授しております。
きっと貴方様の・・・この世界の為お役に立つでしょう・・・」
「すまぬ・・・我の命をもってしてもおぬしの運命を変えることは出来なかったか・・・」
「ふふふ・・・
やはり、アリシア様はお優しいですな。
貴方様と出会い2000年、国造りとは楽しゅうございましたなぁ。
この先も共に歩みたかったですが、申し訳ございませぬが一足先に退場させて頂きます。」
「良い、長らく我によう付きおうてくれたものじゃ・・・ご苦労だったな・・・」
アリシアがドラゴさんに手を伸ばそうとするが、画面の中から出ることができないことに気づき、寂しそうな笑顔で手を下ろす。
「ありがたきお言葉・・・
最期にアリシア様。
・・・どうぞアクアの身体をお使いくださいませ。
彼女の魂は【天使】に打ち砕かれ、その身体は朽ちるのを待つだけとなりましょう。
ならば、アリシア様がアクアの身体を手に入れれば、この世界に再び顕現する事ができますし、エンヴィー領も労せず手に入ります。
これほど良い条件はありますまい・・・」
アリシアは目を瞑ると沈黙した・・・
「すまぬが、その申し出、受ける事はできぬ・・・」
とても寂しそうな笑顔でドラゴさんに返答を返す。
「何故・・・でしょうか?」
「結果や過程はどうあれ、彼女はおぬしの為に操を立て、ずっと守ってきていた。
じゃが、我はヒロの妻ぞ?
受肉すれば、その身をヒロへ捧げる事もあるであろう。
我としても、ヒロにとってもその申し出は喉から手が出るほどじゃが、最高の忠臣であるお主の為にも受ける事はできぬ・・・」
「そう・・・そうでしたな。
ワシとした事が、心をないがしろにしてしまうとは情けない・・・
先ほどの言葉、聞かなかったことにしてくだされ。」
「お主は昔からそうじゃった。次はもう少しデリカシーと言う言葉を勉強してくるのだな。」
「そうですな。次は気をつけましょう。
・・・して、魔王と話をしても?」
「よい」
2人の話はついたようなので、急いでドラゴさんの隣による。
「魔王よ、聞いておくのだ。
恐らくワシが死ねばその娘の記憶がよみがえる。
その時、支えてやれるのはお主だけじゃ。
しっかりと支えてやるのだぞ?
それとワシとアクアの死は伏せておくのだ。
詳しい事は全て息子へ託してある。
お主はスロウス公に協力を取り付け、グリトニー公の真意を聞いてくるのだ。
そして可能な限りスキルも盗んでこなければなるまい。
敵は強いぞ?何所までも強さを追い求めぬばならぬ。
この世界全てを愛し、そして守ってくれる事を願う。」
俺はまだ魔王を継ぐ度胸などはない・・・。
だが、この人の最期の願いぐらいは聞き届けたい。
「・・・・・・」
「ふふふ、即答は出来ぬか。
だが、そうなってくれる事を祈っておるぞ、若者よ。」
俺は何も答えられず、ただ黙ってドラゴさんの手を握った。
「それが答えか。
ならば、主に与えよう!我の全てを!!」
[強制ダウンロードを開始します。]
なっ・・・頭の中に文字が浮かぶ。
あの時以来、見る事のなかった強制の文字だ。
頭に浮かぶ進行度の表示がすぐに100%に達する。
[強制ダウンロード終了しました。ファイルを展開します。]
[『火竜王の加護』をインストールしました。]
「これで・・・良い。
アクスよ、悪いが約束だ。
鍛冶と政治両立させるのだぞ。」
「父上、今までありがとうございました。」
アクスさんが涙を流しながら、反対側の手を握る。
ドラゴさんの身体が光に包まれていく。
身体が光に包まれ、浮遊感を受ける。
ゆっくりと浮遊感が消え、足元に地面の感触が戻る。
目を開けると、そこには巨大な赤竜が横たわっていた。
「父上、安らかに眠ってくれ・・・」
アクスさんが合掌するのにあわせ、俺達も合掌した。
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