061 緊急事態
・・・うん?後頭部が暖かいものに包まれている?
「ん・・うん」
「あ・・・皆さん、目が覚めたみたいですよ。」
エルの声が耳に心地いい。
目を開けると、エルが俺の顔を覗き込んでいた。
ばっちりと目が合う。
照れて顔を逸らすと、今度はエルの慎ましやかな態度とは裏腹に凶悪な2つの丘が目の前に広がる。
「ヒロすまぬな・・・先ほどは少し動揺してしまった。」
頭の後ろで師匠が謝ってくるのが聞こえる。
この丘を見ていたいが、謝っている相手に失礼だ。
師匠のほうを向くと顔まで真っ赤になっている。まるでリンゴのようだ。
「まったくヒロってば、いっつも私の着替え中ばかり狙ってくるよね。
もう2度とヒロと一緒の時は下着の試着はしないようにしないと・・・」
俺のほうこそ2度とごめんだ・・・
何故か役得!という気になれないし、痛い目にばかりあう・・・
「そうですからね?女性の着替えを覗くなど言語道断です。どんな理由があろうとも絶対にしていませんからね?
・・・・・・それにどうしてもというなら、私に言ってくだされば少しぐらい・・・」
後半がぼそぼそと言って聞き取れなかったが、確かに気をつけないとな。
相手がミーティアだったから良かったものの、エルが相手だったらお互いに顔も見れない事態になりそうだ。
「ああ、本当にすまなかったと思っている。2度とこんな事が無い様に気をつけるよ。
あと、最後の方聞き取れなかったんだけど、なんて言っていたのかな?」
「ヒロ!!、そんなに見たかったのならわらわに言えば良かったのじゃ!!
夫であるおぬしの頼みなら・・・その・・・もっと上の要求じゃろうと答えてやるのじゃっ!!」
ルナが大胆な事を言ってくるので、
「いや、いいっス。」
と答える。
せめて後6年は経たないとねぇ?
「いえ、私のほうも気にしないでください。
それよりそろそろ頭を上げていただいてもよろしいでしょうか?」
おっと、素晴らしい感触なのでついつい堪能していたが、さすがに我慢が限界になってきたらしい。
上半身を起こすと周りを見渡す。
どうやら先ほどの服屋の側にあった休憩スペースのようだ。
日はまだ高い。そんなに長く落ちていた訳ではないようだ。
「どのぐらい寝ていたかな?」
「それほどの時間ではありませんでしたよ。
私は先に出ていましたが、ネイルやルナの買い物が終って出てきたところぐらいです。」
それなら皆を待たせなくて良かった。
「それで次はどうしますか?」
「そうだな、まだ時間も早いし一旦物を取りに戻るとする?
さすがにそろそろ放置しているアリシアもかわいそうになってきたし。」
「それが良いかと思いますよ。
アリシアさんもヒロの奥さんですからね。
一緒に行動した方が良いと思いますよ?」
言っている事は正論なんだが、何故かトゲが見え隠れしているような・・・
「そうだね、アイテムボックスにいれて置くのも良いんだけどやっぱりタンスに仕舞っておきたいし。」
「うむ、整理整頓は必須なのじゃ。」
裏が怖くて置いてきてしまったが、それはそれでまた後が怖いんだよな・・・
「おいてきた事に関しては私達もフォローしますから、迎えに行きましょう?」
フォローして貰ってその後買い物に連れ歩けば機嫌もよくなるか。
「じゃ、一旦家に戻ろうか?」
そう言って街路樹にマスターキーを刺し込み、扉を呼んだ。
「おっ、帰ってくるのが早いの?
どうしたのだ?」
スマホの中で電子書籍を読んでいたアリシアが俺達に気づく。
「この中は良いの。念じれば本が色々と出てくる。
その中には我も知らなかった知識が乗った書物や、数多くの演戯がある。
それに、主の性的趣味もわかってくるしの。」
いやらしい笑みで俺のほうを見る。
くっ・・・その手で仕返しに来るとは・・・
というか、確かあのスマホには色々な辞書や専門書もダウンロードしていたはずだが、それも全て読めたのだろうか?
「なぁ、その中にはかなり高度な専門書も入っていたと思うんだが?」
「うむ、なかなかに面白いの。
特にこの化学という学問は面白い。
全ての事象が電子や分子でできておるとはの。
この魔法世界を否定する新しい文学じゃの。」
やはりアリシアも思ったか。
「その専門書をアリシアはどう思う?」
「恐らく本当であろうな。
しかも、この専門書の内容と魔法を合わせれば恐るべき結果を生み出すことも可能となるかも知れぬ・・・」
「なるほど、組み合わせるという考え方もありか。
俺は魔法が否定されるとか言うと思ったよ。」
「何を言う。
魔法も魔力で事象を改変している。
電子1つが切り替わるだけで性質がまったく変わるこの化学と同じようなものだぞ?」
その言葉にショックを受ける。
今まで魔法は超自然的なものと考えていた。
だが、魔法も分類すれば化学の一種になる・・・
そんな発想をするとは・・・
「ねぇねぇ、難しい話はその辺にして、荷物を置いたらまたショッピングに出るんだけど、今度はアリシアさんも来る?」
難しいって・・・ミーティア・・・今はかなり重要な話題なんだ、ショッピングは後でもできるだろう?
「もちろん行くに決まっておる!!ヒロ、つまらぬ話はまた今度だ!!」
アリシア・・・さん?
「良かったのじゃ、やはり一人置いては気分的に良くなかったからのぅ。」
「ああ、せっかくなのだ、女性全員で出るのも悪くないだろう。」
女性でって、俺は1人で留守番フラグでしょうか・・・
「ヒロ!!荷物もちが留守番して言い訳なかろう。
早く行くぞ!!」
「はい!!今すぐっ!!」
ふっ・・・男って生き物はこういうものだ!!
大事な話とは言え、また機会はいつでもある。
だが!!このハーレム的状況をみすみすと捨てる愚かな真似だけはすまい!!
準備を整え、街に戻ると景色が一変していた。
・・・どうしたんだろう?さっきと違って竜族の兵士達が町中を走り回っている。
力あるものは『竜化』を行って空を駆け回ってまでいる。
俺達が呆然と突っ立っていると、兵士が1人近づいてくる。
あの兵士は見たことがある。ドラゴさん救出作戦の際、師匠を後ろに乗せていた兵士だ。
一応俺達は城の兵士へ出来る限りの協力はしてきていた。
ならば、問答無用で取り押さえられるとかはないはずだが・・・
「ここにいらっしゃいましたか!!
現在、緊急事態になっております。すぐに城へお戻りください!!」
緊急事態!?
一体何が起こったのだろう。
俺達は顔を見合わせると、兵士に続いて城へ駆けて行った。
お読み頂きありがとうございました。
これからまた少し話が進むと思います。




