056 赤竜の衣
午後からは急遽時間が空くこととなった。
なんでも訓練所の扉の修繕と、それに伴って強化する部分の補修が入るとのことだ。
「この町に来てすぐに色々あったからな。
少しは街を楽しんでくると良い。」
ドラゴさんはそう言うと、1人づつに金貨の入った袋を渡してきた。
「こんなにいただけません。」
中身を見ると金貨20枚も入っていた。
断ろうとすると、
「ワシを助けに来た礼をまだしていなかったからな。
褒章の一部と思って置けば良いわ。」
と言われた。
「この程度ドラゴにとってはした金じゃぞ?
気にせず受け取るといい。」
アリシアもドラゴさんを見て言ってくるので、ここはありがたく受け取らせて貰うことにした。
「何買おうかな~。」
「ヒロ、服屋へ行きたいのですがよろしいでしょうか?」
「ヒロ、わらわのエスコートを許すぞ。
ついてまいるが良い。」
「まずは武器と防具だな。さぁ、見に行くぞっ。」
と言って4方から手が伸びてくる。
「・・・・・・・・・」
ここは下手な返答をする訳にはいかない・・・
下手な返答の待ち受ける先は・・・死だ・・・
そんな中隣から声が聞こえてくる。
「ドラゴ様、私まで・・・よろしいのですか?」
「うむ、おぬしにはいつも世話をかけておるからな。
ワシのポケットマネーなので少なくて悪いが、たまには息抜きをしてくるとよかろう。」
「なれば、私はドラゴ様のお側に置かせていただく事が最高の息抜きでございます。」
「まったく、困った娘だのう。」
「ですので、午後の執務もお供させて頂きたいのですが・・・」
「ハッハッハ、ならばワシの午後の執務は町の視察だ。
変装して本来の町の様子を見に行くとしよう。
アクアもついてきてくれるな?」
「はい!!私でよろしければ地獄の底まででも!!」
「そこまでせんでいいわい。
さて、ワシ等は先に準備させて貰うとするかの。」
もう、この2人は恋人同士でいいんじゃないのか?
「それでは先に失礼します。
また明日訓練場でお待ちしております。」
そう言ってドラゴさんに寄り添うようにしてアクアさんは部屋を出て行った。
「では、私達も行きましょうか。」
どうも女性陣にあの2人は刺激が強いらしい。
立ち上がらせられた俺の右手にはエルが、左手には師匠が抱きついて身動きが取れなくなっている。
「そうじゃな。店に行く順番はじゃんけんじゃぞ?」
先頭にはルナが歩いている。
「フフフ、楽しいことになってきそうじゃのう♪」
ポケットの中から不気味な声が聞こえてくる。
・・・うん、アリシアは家に置いてこよう。
始めた来たときは、通り過ぎただけの城下街だったが、今日はショッピングとして十分に遊びまわるつもりだ。
「ヒロっ、あの屋台おいしそうです。食べてもよろしいですか?
・・・ん~、美味しいっ!!この街の屋台はどれも美味しいですね。」
一体あの量が何所に消えていくのだろう・・・
串焼きから始まり、肉まん、ホットドック、たこ焼、サンドイッチ、りんごあめ、焼きソバ、フランクフルト、綿あめ・・・
街に出て一時間でエルが食べた屋台の数だ。
初めてエルの食欲を見た師匠は、
「エル、そんなに食べると腹を壊すぞ?
もうその辺で辞めておけ。」
とても本気で心配している。
まだまだ序の口なんだがな・・・
面白いから皆で師匠にはナイショにしている。
しかし、いつも思うがあれだけの食べ物が何所に消えていっているんだろう?
そして栄養はどこから漏れて行ってるんだろうか?
と、思っていたらドラゴさんに教わった店の目の前まで来ていた。
「ここがドラゴさんから紹介のあった武具屋かな。」
プライド領一番の鍛冶師と名高い、火竜族のアクスさんだ。
店名【アックスの店】は、元々斧専門の店だったが、腕のいい親父さんを頼って様々な依頼を受けたり、趣味で色々な武具を作っている内に街一番の武具店となっていたらしい。
なまじ腕が良いだけに、何を作っても一流の装備になるそうだ。
その話を聞いた師匠は、目をきらめかせ期待に満ちた目で俺たちを見上げた。
そんな目に耐えられるはずも無く、最初にいく店はこの【アックスの店】となったのである。
カランコロン
「らっしゃーい」
かなり広い店内には所狭しと武具が並んでいて、中央のカウンターには端正な顔のお兄さんが座っていた。
どの武具も素晴らしい輝きを放っている。
以前ラスト領で見た武具屋とは比べ物にならない。
「・・・・・・素晴らしい。」
うっとりとした目で師匠は壁にかかっている武器を手に取り出す。
普段なら刃物を手にとってうっとりとする女性には引くものがあるが、今日だけは当たり前のように思えた。
師匠は色々な武器をかわるがわる見ているが、エルは短剣を、ミーティア・ルナは防具を見ている。
俺は愛刀があるからな。
見るなら防具の方か。
ふと気づくと俺は片隅に置かれていた一着の服に見入っていた。
なんだろう?なにかこの服に呼びかけられている気がする・・・
真っ赤で、所々に金の刺繍があしらってある。
赤と言っても派手ではなく、落ち着いた色だが豪奢な雰囲気がある。
手に取って身体に合わせてみていると、、
「珍しいね、来た客全員が武具に選ばれるとは。
しかも面白い子が多いみたいだ。」
カウンターに座っていたお兄さんが話しかけてきた。
「それはどう言う事ですか?」
尋ねてみると、
「うちの売り物は面白い出来のものばかりでな、武具が持ち主を選ぶんだよ。
例えば今アンちゃんが手にしている、【竜鱗のローブ】だがな、そのローブには意思が宿ってるんだよ。」
「意思・・・ですか?」
手の中のローブを改めて見る。
「ああ、この野郎久々に姿を現したからさすがに俺も驚いた。」
「作った本人が驚くって・・・」
「だから言ったろ、意思があるってな?
この野郎、完成してすぐに消えやがってな、気になる奴が来店した時だけしか姿をみせねぇ。
いつもは手を伸ばされるとすぐに消えるんだがな、アンちゃんは手にする事ができた。」
「へぇ・・・」
まじまじとローブを見ると、ローブから嬉しそうなオーラを感じる。
「そいつは俺の最高傑作でな。
伝説の【赤竜王】、その革をなめしたものを、炎と馴染ませながら形成し、金糸で様々な防護魔方陣を付与させた最高傑作だ。
だが、宿った意思が気まぐれすぎたのか、まったく売れもしない。
・・・そいつに気に入られたんなら、金貨2枚にサービスしといてやる。
さすがにそれが最低価格だからな。それ以上はまけられねぇ。」
ローブから買って~、ねぇ買って~というオーラがまとわりついてくる。
どうせ防具は欲しいと思っていた。
ちょうど良い機会か?
俺は懐から金貨2枚を取り出すと、お兄さんに渡した。
「毎度ありぃ、そいつの事よろしく頼むぜ。
あと、そいつに名前をつけてやってくれ。
最後の仕上げって奴だ。」
「名前か・・・
『赤竜の衣』って言うのはどうかな?」
ローブから嬉しそうな感情が伝わってくる。
「よし、今日からお前は『赤竜の衣』だ。これからよろしくな。」
そう言って、今まで来ていたローブを取り外してアイテムボックスにしまい、新しくローブを羽織る事にする。
見た目は新撰組の着ていた羽織のような感じで、妙にしっくりと来る。
各属性魔法に格段の耐性を持っており、大抵の刃物は通さない。
これはもう手放す事ができなそうだな。
お読み頂きありがとうございました。




