038 深層に眠る者
気が付くとベットの上に寝かされていた。
身体には包帯が巻かれている。
直して貰ったのか、痛みは感じない。
周りを見渡してみると、部屋の様子が分かる。
岩をくりぬいた部屋にベットと机が1つづつ。
そこにはこの部屋の住人だろうか、壮年の男性が1人座っていた。
長い白髪とこれまた長い髭。
三国志で見る関羽を彷彿とさせる。
目を閉じて寝ている。座ったまま寝るとはかなり器用なおじいさんである。
そのまま部屋の中を見ていると、気配に気が付いたのか、おじいさんの目が開く。
「生きておったか、さすがに吸血鬼族だ、普通の者ならとうに死んでおった所だ。」
どうやら吸血鬼化したまま意識を失ったところで助けて貰ったらしい。
「助けていただき、誠にありがとうございます。」
おじいさんにお礼を言い、頭を下げる。
「いやいや、ワシにお礼など言わんでも良い。」
「ですが、助けていただいたようですし、お礼はしないと・・・」
するとおじいさんは視線を外し、
「助かったと思っている所で悪いがの、ワシもお主も幽閉の身だ。」
・・・・・・・・・・え?
「ここはプライド領の辺境だが、賊が作った石牢のようでな、おそらく運び出すまでの簡易的な牢獄だろう。
つまり、ワシもお主も誰かに捕まったということだ。」
・・・・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
「一難さってまた一難・・・と言う訳ですか。」
「ほう、面白い事を言う小僧だ。
まさにままならない事が続くな。」
そして思い出す。
記憶の中でルナを家に放り込みはしたが、その後どうなった?
扉が閉じてエル達が気づいてくれれば、ルナは助かったかもしれない。
だが、扉が開いたままで俺と一緒に見つかったなら。
それならまだ望みはあるかもしれない。
だが、魔獣に襲われていたらどうだろう・・・
【マスターキー】と念じてみる。
手のひらの中に【マスターキー】が実体化する。
手元にあるということは、扉は閉じたと言う事だろうか。
それならばルナは間違いなく家には居るだろう。あとは誰かが気づいてくれたかどうかか・・・
「それは家の鍵か?
残念だが、石牢も誰かの所有物とみなされる。逃げ出す事はできない。」
扉を開いて逃げようと思われたのだろうか、残念そうな目で見られる。
「いえ、俺と一緒に襲われた少女をぎりぎりの所で家に送ったかもしれないんです。
彼女は大丈夫かな?と心配になりまして・・・」
「ふはは、自分の身がどうなるか分からぬと言うのに、他人の心配か。甘いのう。」
おじいさんはあごひげを扱きながら優しい目で俺を見る。
「おじいさん・・・、セリフと表情が合って無いですよ・・・」
「はっはっは、こりゃ一本とられたわい。」
どうにもこのおじいさんが居るおかげで自分が危ないとか思えてこない。
「それにおじいさんと居ると、何とかなる気にしかならないのですが・・・」
おじいさんの目がキラリと光る。
「お主、面白い事を言うの。
ただのヴァンパイアとは思えぬわい。」
「それはどうも。まぁ、成り立てですから仕方ないでしょう。」
「ほう、成り立てでその存在感か、お主、只者ではないのう。」
「おじいさんもね。」
目が合うと、どちらとも無く笑いあう。
ひとしきり笑いあった後、名称を伝えてなかった事に気が付いた。
「すみません、自己紹介もまだでしたね。
俺はヒロと言います。」
「ヒロか、良い名だ。
ワシは・・・ドラゴと呼ぶが良い。親しい者達にはその名で呼ぶ事を許しておる。」
どうやら気に入られた、嫌われるよりは全然言い事なので嬉しい事だ。
「ありがとうございます。それではドラゴさんと呼ばせていただきますね。」
「うむ、ワシは遠慮なくヒロと呼ばせてもらおうか。」
「ではドラゴさん、ドラゴさんも囚われの身のようですが、何故そんなに落ち着いていられるのですか?」
「ワシには誰よりも信頼できる部下が居てな、必ずその者がここに来るであろうと信じておるのだ。」
迷いの無い瞳で答える。
そこまで信頼できる部下か、羨ましいな。
今頃エルやミーティアはどうしているだろうか。
帰ってこない俺を心配して、探してくれているだろうか。
だが、俺はドラゴさんのように無条件に待つ事はできない。
早くここを脱出してプライド公を助け出さなければいけないのだ。
「羨ましいですね。」
「そうか?」
「ええ、俺も仲間の事は信頼していますが、そこまで無条件に出来るかといわれると難しいと思います。」
「ほっほ、ワシ達は年季が違うからの。」
「なので、俺は自力でも脱出できないか色々試してみる事にします。」
「無理とは思うが試してみなされ。
何事も抗わずば得られない事もある。」
「そうですね。」
そこから数時間、岩を掘ったり、扉を叩いたりしてみたがまったく歯が立たなかった・・・
「な・・・なぜこんなに硬い・・・」
「それは仕様も無い。壁にも扉にも魔力防御がかかっておるからの。」
「魔力防御・・・ですか?」
「ふむ、魔力防御を知らぬか。
まぁ、簡単に言えば魔力で永続硬化等をかけて置く事で、物理攻撃ではどれだけ力を入れてもヒビ1つ入らないようになる技術じゃ。」
「なっ・・・」
「まぁ、魔力を込めて攻撃すれば何とかなるかも知れんが、床の模様は魔法封じ。魔力を体外に出す事ができなくなるようになっておる。」
いや・・・そこまで知っていたなら教えてよ・・・
「不満そうな顔だのう。」
「いやぁ・・・」
「言ったとて、やってみなくば納得はせんかったろう?」
「うっ・・・確かに」
「だから止めずにやらせただけだ。」
なんと言うか、手の平の上で踊らされている気分だ。
「そうむくれるでない。お主もワシのようにきっかけがあった時に全力を出せるよう、魔力を練ってみてはどうかね。」
「魔力を練る・・・ですか。」
「うむ、お主は吸血鬼族の癖に魔力をほとんど感じる事ができん。
少しでも体内魔力を練り、魔力を少しでも底上げしてはどうだ?」
そういう修行方法があるのか。
獣人族では、体術を色々と教わる事ができたが、魔術はまったくだった。
体術を修行で高める事ができるなら、確かに魔術も修行は出来て当たり前だよな。
俺はドラゴさんに向き直ると、真剣な目で頼んだ。
「ドラゴさん。」
「なんだね?」
「俺は魔力を練ったことがまったくありません。修行をお願いして宜しいでしょうか。」
ドラゴさんは意外そうな顔をするが、すぐに笑顔に戻り、
「ワシで良ければ見てやろう。」
と言ってくれた。
それから直に修行が始まった。
「良いか、魔力とは肉体の細胞一つ一つから湧き出る力を1つにより集めた物だ。
まずは身体と対話するのだ。」
「身体と対話・・・」
まずリラックスした体勢を取る・・・
日本人の習性だろうか、座禅の形を取る。
そして目をつぶり、身体全体に意識をめぐらせる。
「ほうほう、なかなか筋は良いな。
そのまま己の内面を覗き込むイメージだ。」
「内面を覗き込む・・・」
どういうイメージだろう・・・
まず身体全体に意識をめぐらせる・・・
そして・・・なんだろう、意識の奥底に光の通路のような物を感じる・・・
「その調子だ、内面に眠る光を感じ取るのだ。」
光の通路を降っていくイメージ・・・
そしてその奥に・・・・
『やっと対話できるようになったかえ?』
「うわっ」
光に触れたとたん、語りかけられた気がしてびっくりしてしまった。
「どうした?
弾かれたように奥底に沈んだ意識が戻ってきたように感じたが?」
「いや・・・えっと・・・」
なんと説明すればいいだろうか・・・
「なんか、意識の奥底に眠る光を感じ取ったら声をかけられたような気がして・・・」
それだけ言うと、ドラゴさんが何かに気づいたかのように俺の目を真剣に見る。
そして、何かに気づいたかのように飛び退る。
「お主・・・・もしや新魔王か?」
お読み頂きありがとうございました。




