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036 夜の偵察

「これ・・・はっ」


俺は呻いてしまう。


今まで人を切ったことは何度かあった。


だが、死んだ人を見るのはこれが初めてだった。


そこにあったのは人と魔族、熊や狼や猪などの魔獣の死体だった。


人と魔族は共に魔獣を向く形で死んでいる。


中には手や足がちぎれて居る者。


角が刺さったまま相打ちとなり、魔獣と共に横たわって居る者も居た。


恥ずかしい事だが、俺はこの光景を見てすぐに嘔吐してしまった。


仲間達は最初こそ驚いたが、俺の事情を知っているからだろう。すぐに介抱してくれ、俺は飛竜の足元に寝かせられている。


3時間は休ませて貰っただろうか、その間エンヴィー公を初めとする皆で死体を埋葬し、アンデットとして彷徨い出さないよう処置をしていた。


シン国の者と分かる者は遺品だけを、人族のものは使える装備だけを纏めて飛竜の足元にくくりつけていた。



「落ち着いたか。」


エンヴィー公が冷たい目で語りかけてくる。


死体をみただけで嘔吐し、使い物にならなくなった俺に評価を下げたのだろう。


少しショックだ・・・


「ええ、大丈夫です。」


まだ血の気が引いている感じはするが、あまり休んでばかりも居られないだろう。


エンヴィー公の後を付いて行くと、テントが張られ急ごしらえの会議室となっていた。


「状況から見るに、人族と魔族での戦いの最中、多数の魔獣が現れそちらを撃退する事になった。

 と見る事ができます。」


「確かに状況からはそのようにうかがえますね。ただ、人族が何故この地へ進出してきたのでしょうか。」


エルは人族の動向が気になったようだ。


「人族の侵攻は定期的にある。

 魔王様が亡くなられたと聞き、領地の剥ぎ取りにかかっているのだ。

 我がプライド領はラスト領と共同で人族の侵攻を阻んでおるが、このような状況は初めてでな・・・」


「そうですか。」


「魔獣ってこんな風に集団をとる事ってあったっけ?

 私の知ってる限りじゃ魔獣に協調性なんて無かったと思うんだけど。」


ミーティアは魔獣の方が気になるようだ。


「我もそのように思っていた。

 だが、あの数は組織を組まぬば無理だろう。

 魔獣に何かが起こっているのだろう。」


「プライド公に関する手がかりは見つかったのかえ?」


「グリード公、残念ながら戦闘の後に何が有ったかここでは分からぬ。

 明日、改めて調べるしかないな。」


「そういえば、プライド公に念話は飛ばさなかったのか。」


「ラストか、飛ばしたのだが念話は一方的に飛ばすだけ、返事は分からぬ。

 それにプライド公も家を所有しているのだが、そちらにも戻った形跡は見当たらない。

 プライド公に何が有ったのか・・・」


そう言ったっきり黙ってしまう。


「ルナ、良いか?」


「・・・うむ、わらわも思っておった所じゃ。」


「エンヴィー公良いでしょうか。」


「お主か、何だ?」


「夜だと飛竜は目が見えずに偵察が出来ないんですよね?」


「その通りだ、残念だが明日の朝を待つしかない。」


「俺とグリード公でしたら夜目が使えます。

 夜の間偵察を行っても宜しいでしょうか。」


提案するとエンヴィー公が目の色を変えて迫ってくる。


「そうかっ、不死族にとっては夜こそが本番。

 プライド公様を探して貰って良いか。」


「え・・ええ、そのつもりで提案したのですし・・・」


ちょっと、エンヴィー公が怖い。


「だが、何故そこまでプライド公様に力を貸そうとする?」


うん?


「いえ、やはり力を貸してほしいですし、聞きたい事もありますし。」


「それだけか?」


「え・・・ええ。」


「本当はプライド公様に取り入って、「ご苦労」とあの渋い声で労って貰ったり、「いつもお前には助けて貰っている」とか言われたいって事は無いでしょうね。」


・・・なんか怖い・・・


「いえ、本当に力を貸して貰いたいだけです。」


「まさかっ、男の癖にプライド公様に性的魅力を感じてなどおりませんよね?」


「ないっないっ、そんな事思って無いです。」


「何ですって、プライド公様に性的魅力が無いとおっしゃるの?」


「いえいえ、プライド公はかっこいいと思いますよ。ただ、男色の気は無いというだけで・・・」


「あ・・・あら、そうよね。プライド公様は同じ男性から見ても魅力的ですよね。

 でも変な気が起きたら切るので覚悟してくださいね。」


切るって・・・・あそこだろうな・・・ひぃぃ・・・

この人・・・別な意味で怖い・・・


「分かってます、安心してください。」


エンヴィー公は周りを見渡すと、 コホンッ と咳払いをし、


「では夜間の偵察、お願いしますね。」


「はい、お任せください」


「わらわに任せるのじゃ」


つい背筋をピンと伸ばして返事をしてしまった。


隣を見ると、ルナも同じように怖かったのだろう、背筋をピンと伸ばして返事をしている。




「ルナ、エンヴィー公ってああなのか?」


ルナにいつも通り縛って貰い、あたりを見渡しながら声をかける。


「うむ、普段は冷静沈着なのじゃが、プライド公が関わると目の色がかわるの。」


「やっぱり、あの2人って・・・」


「うむ、男と女の仲じゃの。」


「んでもって・・・?」


「エンヴィー公はかなり嫉妬深い。女性でプライド公の部下は必ず既婚者か彼氏もちと限られておるのじゃ。」


「そっか、ルナはよく今まで平気だったな。」


「わらわは公然と年下趣味と言っておったからな。

 エンヴィー公はああ見えて人のことをすぐに信じるからの、そう言っておけば大丈夫だったのじゃよ。」


「なるほど。」


「ヒロも男色の気は無いとエンヴィー公へ言ったし、今後は問題ないじゃろ。」


「・・・だといいけど」


視界の隅で火の明かりが見える。あれは何だろう。


「ルナ!」


「ああ、わらわも見えた。

 近づくので気をつけるのじゃ。」


「ゆっくり頼む。」


音も無く火が見えたあたりの近くに降り立つ。


身を隠して木陰から火のあたりに歩いていく。


「______だったな。」


微かに声が聞こえてきたので、歩みを止め耳を澄ます。


後ろのルナも同じようだ。耳を澄ましているのが分かる。


「一時はもう駄目だと思ったが、プライド公に助けられたな。」


「ああ、まさか勇者が魔獣を引き連れて襲撃してくるとは思わなかった・・・」


ミーティアが魔獣を?どういうことだ?


「しかし、あれは本当に勇者だったのか?勇者を見た事は無いが、魔獣と人は交じり合う事が無いはずだ。」


「俺は一度あったことがある。あれが勇者かは分からなかったが、髪の色や髪型、ミドルナイフ2本を使う所は同じだった。

 ただ・・・」


「ただ・・・・どうした?」


「俺の記憶が正しければ、勇者はあんなに胸でかくなかったはず・・・いや、正直に言おう、貧乳だったはずだ。」


「お前・・・何処見てんだよ。」


「お前の願望じゃないのか。」


「先輩、勇者にあった事あるって言うから凄いって思いましたが、軽蔑していいですか?」


「ちょっ、お前等が話題にしてたから俺の知ってる範囲で情報を出しただけなのに、何その言い草。」


思い出してみる。


確かにミーティアはさざ波だった。


ルナと2人でエルにどうしたらそこまで大きくなるのかと詰問していた覚えもある。


「何を考えておるのじゃ?」


殺気がして振り向くと、そこには双眸に怒りを湛えた目で俺を見ているルナが居た。


「いや、何も考えて無いよ?

 ただあそこに情報収集に言ってみようかと思っただけだ。」


ルナは少し考え込むと


「むむぅ、確かにお主は吸血鬼化を『凍結』すればただの人族じゃ。

 人族ならば警戒をもたれず情報を収集できるかも知れぬが危険じゃ。

 今は危険を冒すべきじゃないのじゃ!!」


「危険だけど、今一番必要なのは情報だろ?

 それに俺の実力なら、襲われても切り抜けることぐらいは出来る。」


「・・・・そうじゃな。

 ならば行ってくるが良い。」


「ああ。」


『凍結』対象『吸血鬼化』


先ほどまでの全能感が消え、元の姿に戻った事を確認する。


お読み頂きありがとうございます。

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