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035 飛竜

俺はエンヴィー公の後ろ、一番大きな飛竜に乗った。


他のドラグーンと呼ばれる兵士達は、皆女性でその後ろに仲間の皆が乗っている。


「ドラグーンとは女性だけなのですか?」


ふと気になったので聞いてみる。


「いや、男性でも飛竜の操作に長けた者は誰でもなれる。

 5時間近く女性が男性の後ろに乗っているのは、あまり気分が良く無いだろうと思ってな。」


なるほど、ちょっとした気遣いと言う所だったか。


「それに今回は速度重視だ。重量が軽い物の方が飛竜の疲れも軽減できる。」


「そうですか、短い間にそこまでの判断が出来るとは流石です。」


素直にそう思った。


「お主も魔王となるのであれば、その程度瞬時に判断できぬようでは国を任せるに不安が出るな。

 精進すると良い。」


辛らつな意見で返されてしまった。


だから、魔王とかそういう柄じゃないんだが・・・


「ここからは急ぐので、話をしている暇は無い。行くぞ。」


それだけ言うと、全員が飛竜に乗ったことを確認し、巧みな手綱捌きで飛竜を上昇させる。



夜の星空を飛んだ時も思ったが、やはり空は良い。


飛竜にまたがり、前はエンヴィー公の美しい青い髪と綺麗な背中しか見る事ができないが、横を見ると、移り行く景色が見える。


1度だけ乗ったことがあるが、飛行機の風防を外すとこんな感じじゃないだろうか。


吸血鬼の飛行とは違い、魔力壁が無い分風の抵抗が強く感じる。


おそらく曲芸飛行などはGがかかり、すぐに潰れてしまう気がする。


5時間と長い空の旅だが、これだけの絶景を見ながら進むのなら良いかも知れない。



・・・・そう思っていたのは最初だけでした。


快適な空の旅は飛竜の慣らしが終わるまでで、飛竜が慣れた後は横なんて眺める余裕はありませんでした。


凄いスピード、恐らく200kmとか300kmは出てるんじゃないだろうか。


よく風防無しでこのスピードで運転できるな・・・


空気を吸うだけでもいっぱいいっぱいだ。


そんな状況の中、約3時間は飛んだろうか、エンヴィー公が何か手振りで伝えると、飛竜たちは下に下りていった。


「休憩ですか、助かります。」


俺がエンヴィー公へ話しかけると、シッというジェスチャーをされる。


何かを見つけ、その確認の為に地面に降りたという事だろう。


俺は頷いて飛竜を降りたエンヴィー公の後ろを警戒しつつ付いて行く。


5分ほど歩いた所に大規模な焚き火のあとがあった。


周りには争ったのだろうか、切り付けられた樹木や、血の付着した草などがある。


周りを捜索していた仲間達も調べている。


「この血は熊の血じゃな、嗅いだ事のある匂いじゃ。」


「ええ、それも魔獣化した熊かと思います。普通の熊とはわずかですが、匂いが違います。」


ルナと師匠が血の持ち主を判断している。


その道のプロが言うのだから間違いないだろう。


「この焚き火の張り方、フレイムスフィア特有の張り方ですね。

 恐らくここで陣を張り、野営をしたと考えられます。」


「へ~、焚き火の張り方1つで何処の国ってわかるんだ、エル凄いね。」


エルとミーティアの方では、野営を行ったのが何処の国か特定が出来たようだ。


「ここに陣を張り、魔獣の襲撃があったということか、方角からすると・・・

 こっちの方向へ軍を進めたと考えられるな。

 よし、こっちの方向へ向けて飛竜を飛ばそう。」


いくつもの情報から進行ルートを予測したのだろう。


俺達が飛んできたルートから下に下がったルートへ飛竜のルートを変える。


「グルゥラァ」


血の匂いと俺達の匂いに引き寄せられたのか、体長3メートル、体色が限りなく黒に近い色の熊が6頭、咆哮を上げながら襲い掛かってきた。


「魔獣だ、散開せよ」


エンヴィー公が兵士達に指示を飛ばすが、熊の勢いの方が早い。


俺は襲い掛かってくる熊の横側へ移動し、端の方に居た熊の喉元に向け一閃を放つ。


熊は首と胴体が離れると、大きな音を立て地面に沈んだ。


次の熊に目標を定めようとすると、


一匹は投げナイフで両目を穿たれ、目が見えなくなったか暴れ狂ったように爪を振り回している。


一匹は光球を受けたのだろう。顔面に火傷のあとを残し、びくんびくんと痙攣している。


一匹は縦に一刀両断され、地面には2つに裂かれた姿で倒れていた。


一匹は手・足・その他腱と言う腱を切られたのだろう。眼光は鋭いが、立ち上がる事すらできず、自らの血の中に倒れ込んでいる姿が見える。


最後の一匹は他の固体に比べて一回り大きい。恐らくこの群れのリーダーなのだろう。


エンヴィー公に爪を振り上げて襲い掛かったところで動きが止まった。


頭からは3つ叉の穂先が熊の頭部を突き抜けて顔を出している。


どうやら、このグループにとって魔獣化した熊程度は脅威にすらならないらしい。


念のため、皆に声をかける。


「皆、怪我は無いかい?」


「大丈夫です。・・・えっと、後始末はどうしましょうか?」


「問題ないのじゃ、あと1時間は起き上がる事すら出来んじゃろう。食うなら止めんが、放置しておいても問題ないじゃろ。」


「ふむ、また一段と腕を上げたんじゃないのか?私では一刀両断だったが、首だけを狙うとはなかなかやるな。」


「う~ん、無効化はしたけど、どうしよう・・・このままじゃ死んじゃうよね。でもほっておくと人襲いそうだしなぁ。」


「我は問題ない。ドラグーンにも被害は出なかったので問題なしだな。」


とりあえず無効化したままだった熊は可愛そうだが止めを刺し、火魔法で埋葬した。


一部食べたそうにしていた人も居たが、魔獣化した獣は何が起こるか分からないとNGだったのは言うまでも無い。




飛竜の元へ戻ると、そこでは普通の熊が居たのか、美味しそうに熊を食べていました。


今度こそと食べたそうにしていた人が居たが、急ぎの為駄目と言われ捨てられたような子犬の目をしていた。


即断をするエンヴィー公にしては珍しく葛藤していたが、やはり駄目だったようだ。


携帯食料を差し出してやると、嬉しそうにぱくついていた。


飛竜にも持ったまま乗っていたが、乗りながら食べるんだろうか・・・


結構凄いな。



更にしばらく飛竜にしがみつき、辺りに夜の帳が下りてきた頃だった。


エンヴィー公は何かを見つけたのか、先ほどのように指示して降下するのではなく、まさしく急降下と言う感じで地面に向かって落ちていった。


何か見つけたのかと、エンヴィー公の肩越しに覗こうとした所で背中が凍りついた。


そこにあったのは、人と魔族、そしてそれ以上の数の魔獣の死体の群れだった・・・

お読み頂きありがとうございました。

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