024 参上グリード公
「食事が出来ましたよ。」
エルの声が聞こえる。
食堂に向かうと、美味しそうなシチューとパン、それとサラダが食卓に並んでいた。
「美味しそうー。」
背後から声がする。
何時も通りのミーティアの声。
俺は安堵して後ろを振り返り、
「あんまり食べ過ぎるなよ、エルの分が無くなる。」
と軽口をたたいてやる。
「そんなに食べませんよ?」
エルが拗ねたように言って、何事も無く夕飯が始まる。
・・・・・エルは3杯のシチューを食べていたのは見なかった事にしたほうがいいのだろうか。
洗い物もエルに頼み、俺は風呂へ入ろうと扉を開けようとする。
良く考えろ、今の状況は何だ。
ギャルゲの世界なら間違いなくミーティアが中に入っているはずだ・・・
コンコンコンッ
扉をノックするが返事がない。
安心して風呂に入ろうと中に入り服を脱いでいると、
「よしっ、お風呂に入って気分を切り替えようっ」
と言ってミーティアが入ってくる。
・・・・・・・・・・・・・ここは俺が「キャー、痴漢」と言うべきだろうか・・・
「いやぁぁぁぁぁ、何やってんのよ馬鹿ー」
拳が迫ってくる。
走馬灯を見ながら、後から入ってきたのそっちじゃん。と心の中で呟く。
目が覚めたのは、ミーティアとエルが風呂に入った後だったのは言うまでもない。
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遠くの方に街が見えてくる。
「そろそろウエストタウンが見えてきたぞー」
乗っている人たちに知らせる為だろう。
少し大きめな声で、町が見えてきた事を知らせてくれる。
のんびりと話をしながら馬車に揺られていると、ミーティアが大きな声で
「馬車を止めてっ、今すぐっ。」と叫びだす。
御者さんが馬車を止めると、俺達は外に飛び出し、他の人たちは馬車の中からこっそり覗いている。
「来るっ」
ウエストタウンの城壁から何かが飛んでくる。
身構えていると、ミーティアの目の前に3つの人影が降り立つ。
「勇者ミーティア、やっと見つけましたわ。
今日こそ魔王様の復讐、果たさせていただきますっ。」
見た覚えのある銀髪の少女がミーティアに指差しているのが見える。
後ろの2人はただ付き従っているだけで、何かを仕掛けてくる様子は無い。
「ぐーちゃん、いい加減にしなよ~。
ぐーちゃんじゃ私に勝てないの分かってるんだし、吸血族が力を弱める昼間に襲撃って凄く間違ってる気がするよ。」
どうやらミーティアも面識があるらしい。
「わらわはグーちゃんではありませんわ。
ミーティア、しっかりとグリード公とお呼びなさいな。」
「えー、ぐーちゃんはぐーちゃんだよ。
別にいいじゃない。」
「キー、今までわらわに勝っているからと調子に乗って、今日こそ覚悟しておきなさいっ。」
「はー、私一人の時はいくらでも相手してあげるけど、今日は他の人も居るんだから、迷惑になるでしょ。
今度なら相手してあげるから、悪いけど出直してくれる?」
「お嬢様、勇者もあのように言っておりますので。」
「お嬢様、ここは中立国、個人同士の争いなら大目に見ていただけますが、魔王様の復讐と掲げては国を持ち出す事になりかねません。
ここは個人的な報復と言う事にしてください。」
2人のお付きさんもグリード公をなだめている。
1人はなだめていないか。
グリード公は馬車と後ろの城門を見比べると、
「今度は個人的な復讐で襲いに来ますわ。
覚悟しておきなさい。」
と言って、さっきと同じように城門へ飛んで戻っていった。
「・・・・・・・・なんだったんだ。」
「ぐーちゃんもね、意地張らないで仲良くしようって言ってくれればいいのにね。」
「ヒロ、あれはグリード公だったのではありませんか。」
「うん、そうだよ。少し前からね、友達になりたそうに何度も襲ってきては、ああ言って帰っていくの。」
「あれは喧嘩を売っているように見えるんだが・・・」
「異世界の人間ってこういう人ばかりなんでしょうか・・・」
俺とエルは頭を抱えてミーティアを見ている。
と言うかエル、俺をミーティアと同じに見ないでくれ。
すっかり平和になったので、馬車も動き出しウェストタウンの検問を受ける。
俺達は『特別通行手形』があるので問題なく通る事ができる。
問題はミーティアだ。
ワープゲートを出た所で保安員が見張っていたように、街へ入るにも一騒動あるのではないか。
エルも同意権らしく、ミーティアの検問をじっと見つめる。
なにか二言三言話すのが見える。
笑顔で手を振って、俺達のところへ歩いてきた。
「ありゃ、何で?」
つい口に出た呟きにミーティアは答える。
「あぁ、ヒロ達は最初に検問を受けたんだ。
じゃ、表向きは私が指名手配になってるって判ってたんだね。」
「ああ、悪いけど・・・」
「じゃ、タネを教えてあげる。
実は私、この国では国賓扱いになっているのよ。
でも、他の国の貴族様にはそんな事言うわけに行かないから、貴族様の通るような道は保安員が常駐しているって訳。」
「なるほど。」
「私ってば、伊達に5年勇者をやってた訳じゃないの。
この国でも何故か国王に気に入られていてね。
召喚の鎖を解いて貰った後、事情を話したら、協力してくれる事になったのよ。」
「そっか、頼りになる人達が居るみたいで良かったな。」
「うん。」
「それでは、話もまとまった所で家の雑貨を買いに行きましょうか。」
そして俺達は雑貨屋でタオルやコップ等の小物類や、家に置く装飾品。
収納用の家具などを買い揃えていく。
その中でちょっと意外だったのが、
「ミーティア、本当にそれ買うのか?」
「これは絶対に必要な物なのよ。」
彼女は顔を赤らめながらも、抱きしめた巨大な猫の人形を離そうとしない。
「好奇心から聞くんだが、抱いて寝るのか?」
「う・・・うるさいわね、ヒロには関係ないでしょ。」
どうやらその通りらしい。
結構はねっかえりの強い子だと思っていたが、可愛い所もあるもんだ。
そんな話をしていると、後ろからエルの声がかかる。
「ヒロ、お支払いいいかしら。」
「ああ、今行くよ。」
エルは今までお金を使った事が無いということで、財布は俺が管理している。
そしてそこには山と積まれたぬいぐるみがあった。
等と言う買い物が有ったとか無かったとか。
一通り家の物も買い揃えると、お互いどう行動するかを話し合った。
「私はまず、生き残りの1人プライド公へ会いに行ってみようと思う。」
「でも勇者のお前じゃ、逆に警戒されるだけなんじゃないか。」
「それはそうなんだけど、他に手が無いし・・・」
俺は事前に考えていた案を提案する。
「実は俺もプライド公に、会いに行かないといけないんだ。」
「なら私も一緒に」
「だからミーティアは勇者だろう?」
「だったら、ヒロだって人族じゃない。」
「詳しく説明しづらいんだけど、人族だけど多分会えるんだ。」
ミーティアは訝しげな視線を送ってくる。
「俺もはぐれって言ってたけどさ、シン国側のはぐれなんだ。
それでプライド公にも面識が合ってな、顔を覚えていてくれれば会える・・・はずなんだ。」
「へぇ、魔族側にも召喚できる人居たんだ。」
「ん、名前は教えられないけどな。」
「じゃ、ヒロの目的に合わせて、私の目的も聞いてくれるって事かな。」
「そんな感じだ。
ミーティアの聞きたかったことは、勇者襲撃の真相なんだろ。」
「真犯人の特徴とか判れば、越した事無いけどね。」
「あぁ、聞いてみるよ。」
「代わりといては何だけど、お願いもあるんだけどいいかな。」
「ん、何かな。」
「俺はプライド公に面識はあるけど、エルは無いはずだし、人族だからさ。」
「うん」
「一緒に連れて行けないと思っていたんだけど、その間、ミーティアがエルを守ってくれないかな。」
「ヒロ、どういうことですか。」
「なるほどね。」
今までおとなしくしていたエルが、聞き捨てならないとばかりに会話に参加してくる。
「記憶があるわけではありませんが、私は貴方に恩があります。
それを返すまでは付き従うつもりです。
ミモザちゃんにも頼まれていますし、プライド領に付いていくつもりです。」
恩義なんて気にしなくていいし、エルに傷つかれる方が嬉しくないんだが・・・
それにエルには申し訳ないけど、ミーティアを抑えてもらう役割もある。
「すまない、エル。でも君を傷つけたくないんだ。」
「ヒロ、私は傷つくことを恐れたりなどいたしません。
それに、囚われの身となった時に、すでに一度死んだ身と思っております。」
「プライド領は人族と戦争を行っている国なんだぞ。」
「ですが、人族の国と違い、人族も魔族もともに手を取り合って暮らすことが出来る国です。」
むぅ、意外と頑固だ。どう説得したものやら・・・
「まぁまぁ、エル。
ヒロ、ちょっとエルを貸して貰っていい?」
そういうとミーティアがエルを部屋の端に連れて行って、ボソボソと何か話し合っている。
時々エルの「ええっ!?」という声や、上気した顔で俺をちらちら見るのが気にはなるが・・・
30分は話し合っただろうか、エルは俺の方をまともに見てくれないが、
「ヒロの気持ちは判りました。
今回はミーティアと一緒に待たせてもらいますね。」
ミーティアが説得してくれたようだ。
彼女の方を見ると、グーサインを出している。
俺は目だけで彼女にお礼を言った。
顔を見てくれないのはやはり不服なんだろうが、彼女の身とミーティアの足止めの方が大事だ。
「後はぐーちゃんのことだよね。」
「そうだな、あの口ぶりだと今度は個人的に決闘を申し込んできそうなんだが、大丈夫なのか。」
「それは大丈夫。ぐーちゃんいっつもああ言って去っていくけど、また同じように現れるから。」
・・・それは別な意味で心配でもあるが。
「そういえば、今日の襲撃もぴったりのタイミングだったが、いつもああなのか。」
「うん、お付きさんいたでしょ。
あの左側の人が私の居場所を調べてくれるから、いつでも会いにこれるって自慢してたよ。」
思い出してみる。あのキャリアウーマンバリバリにみえる人のことだろう。
短い付き合いだが、信用できるしエルをミーティアに任せるのはいいだろう。
でもグリード公がミーティアを襲撃に来て、エルが巻き込まれると困るな。
一度説得してみるか。
でもどうやって会おうか・・・
そうだ、いい考えがある。
「ミーティア、いい考えが思いついたんだがいいか。」
「なになに」
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