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022 流される男

勇者ミーティア


この世界へ5年前に召喚された少女。


勇者のみが扱う事のできるミドルナイフ『ノーム』と『ウンディーネ』を扱い、戦場の中を流星のように駆け抜ける彼女を何時からか「ミーティア」と呼ぶようになった。


人族の旗印にして、統一戦争の最大の功労者。


単身で魔王を打ち倒した英雄。


彼女の残した功労は多岐に渡り、次世代へ語り継がれるべき存在。


・・・の彼女が何故か俺の目の前に居る。


首都から次の街「ウエストタウン」へと移動する乗り合い馬車で、何故かまた出会ってしまったのだ。


「エル、どうしてだと思う。」


「偶然。だとは思うのですが・・・」


幸い彼女は昨晩良く眠れなかったのか、馬車の奥の方でひっそりと寝ていたので、俺達には気づいていないようだが、狭い馬車の中である。起きればすぐに気づくことだろう。


「俺のことがバレて狙ってきたって事はないよな。」


「彼女の性格からすると、狙うのであれば昨日あの場所で躊躇わず剣を振ったでしょう。」


「だよなぁ。」


逃げる理由は分からないが、彼女もこの国から追われる身だろうし、行き先が被っただけだろう。


「ばれたら命は無いよな?」


「まず間違いなく。」


「いいか、絶対に気づかれないよう目を合わせないんだ。」


「まぁ、無理かと思いますが、やってみます。」


2人でひそひそ話をしていると、隣に座っていた行商のおばちゃんが、


「おたくら、旅行中かい。」


と声をかけてくる。


「ええ、2人でウエストタウンまで。」


「そうかいそうかい、今は人族も魔族もぴりぴりしてるが、この国は完全な中立を保つ事で平和だからね~。

 ウエストタウンは旅行かい?それとも、新しい家でも探しに来たのかい。」


う~ん、どうやら恋人同士に見られているようだ。


「ええ、今まで旅暮らしでしたので、落ち着く事ができればと思いまして。」


エルが対応してくれる。

この手のことは俺ではボロを出し易いから、エルが対応してくれる時は丸投げするのが一番良い。


「ほほぅ、なら私の取り扱っている物件で良い物があるんだが見てみないかね。」


「ええ、よろしければ拝見しても?」


不動産の行商だったのか。こんな馬車の中でも商魂たくましいな。


おばちゃんは色々な書類を取り出すと、とっかえひっかえエルに見せている。


エルも不動産を見るのがすきなのか、あーでもない、こーでもないと言いながら書類を見ている。


まぁ、そっちはエルに任せてぼんやりと景色でも見ていよう。


ふぁ・・・


振動と暖かい陽光が気持ち良い。ミーティアが全然起きないのも分かる気がする。


半分うとうととしながら馬車に揺られていると、何かエルに確認を求められる。


「ヒロ、聞いていますか。

 こちらなどよいのではないかと思うのですが。」


「ん~、エルがいいと思うのなら、いいんじゃないかな。」


何かあったのだろうと思うが、エルなら間違いは起こす事は無いだろう。


「そう言っていただけるのなら、ウエストタウンに着いたら確認してみましょう。

 ヒロも良いですね。」


「うん、分かった。

 予定はあるわけじゃないから、エルに任せるよ。」


「ありがとう。

 では詳しくお話を伺って良いかしら。」


時折ガタンと大きく揺れるが、それもまたアクセントとなり、まぶたがだんだん下りてくる・・・


「ヒロ、詳しく決まりましたので・・・あら、寝てしまったのですね。

 休憩地に着きましたら起こしますので、ゆっくりお眠りください。」


ガタン・・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・・・・・・



「まさかとは思ったけど、エルとヒロだったなんてびっくりしたよ。

 2人も旅をしているんだ。」


「ええ、今は拠点も無い旅なのですが、こちらのおばさまのご好意でウエストタウンへ拠点が出来るかもしれませんけどね。」


「今は旅人でもしっかりと拠点を持ち、野宿しないのが一番だからね。」


「いいなぁ。

 私も拠点あったんだけど、ちょっと前のドサクサで取り上げられちゃったからなぁ。」


「お嬢ちゃんも拠点を必要としてるのかい。

 ならおばちゃんに任せな。いい所紹介してあげられるよ。」


「いやぁ、私今貧乏だから借りる事すら出来ないよ。」


「なら私達と一緒に借りませんか。

 十分な部屋数もありますし、ヒロなら問題ないというと思いますよ。

 ラスト公ほどではありませんが、彼もかなりフェミニストな男性ですから。」


「ラスト公ってあのラスト公?」


「ええ、有名ですわよね。」


「敵ですら女性を傷つける事ができないって評判だけど、あれはさすがに嘘でしょ。

 でも、そう言ってもらえるのは嬉しい、ヒロがフェミニストってのはどうかとしても。」


「この間の事は完全な事故だったではありませんか。

 それに、実は私もヒロと二人きりで借りるのは少しはしたないかと思っていましたので。」


「じゃ、物件だけでも見せて貰っていいかな。

 いつ見に行くの。」


「次の休憩時間に見せていただいて、良ければそのまま決めてしまおうかと思っております。」


「決断力早いね。」


「中を見てみないとはっきりと言えませんが、かなりの掘り出し物でしたから。」


「大丈夫。中もばっちり手入れされてて、きっと気に入るって。」


「ええ、楽しみにしておりますわ。」


「じゃ、私も楽しみにしておこうっと。」



夢うつつに女性達の楽しそうな声が聞こえる。


でももうちょっとだけ寝かせて・・・・


ガタン・・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・・・・・・



体を遠慮がちに揺すられる


「ヒロ、起きて下さい。

 休憩場所に着いたので、見に行きますよ。」


見に行く・・・何か約束していたかな。


あまり待たせすぎてもいけないし、起きるか。


「ごめん、エルすっかり寝ていたみたいだ。」


「いえ、大丈夫ですよ。疲れは取れましたか。」


「ヒロ遅い、早く行くよっ」


って、ミーティアが居る。

何故?とエルに目で合図すると、?と小首をかしげて返される。


エルを少し外れた所に連れていく。


「なんでミーティアが!?」


「先ほど話の中で、可哀想ですし、責任は私が持ちますから宜しいですか。

 と申し上げた所、頷いて頂けたではありませんか。」


うとうとしながら返事してしまっていたからな、その辺が関係しているんだろうか。


話の流れからミーティアと一緒にどこかへ行くって事だろう。


この場は・・・流れに乗らないと、俺の身が危なそうだ。


「ミーティアもごめんな。

 あと、遅くなったけど昨日ぶり。」


「揃ったようだね。

 じゃ、向かうとするかね。」


行商のおばちゃんが手に持った鍵を樹木に突き立て、鍵を回すと、樹木から扉が浮き出る。


扉を開くと、その奥には広大なエントランスが見える。


俺が唖然として見ていると、エルが説明してくれる。


「ヒロは始めてかもしれませんね。

 これは所有邸宅への鍵で、この鍵を垂直に立っているものへ挿すと扉が現れ、所有邸宅へどこからでも移動できる簡易ワープゲートのようなものです。」


「へぇ、そうなんだ。」


「さぁ、中に入ってみましょう。」


エルに連れられて中に入ると、ワープゲートをくぐる時特有の浮遊感が来る。

確かにこれは簡易ワープゲートと言えるだろう。


エントランスには大きな階段が2つとその間に大きな扉、更に左右の壁に扉が見える。

階段の上にはステップがあり、そこにも扉が正面に4つ、左右に2つ見る事ができる。


古い映画で見た、洋館というイメージがしっくり来る。


「この館はちょっと古いけど、しっかりと手入れされているし、自動修復魔法が永続的にかかっているから、掃除の心配も要らないよ。

 立地にちょいと問題があったんだけど、旅の間の拠点として考えているなら、立地はあまり気にする必要はなさそうだ。

 これがあたし一番のお勧めさ。」


エルの方を見ると、何やらうなづいて部屋を見て回っている。


ミーティアは「わー」とか「すごーい」と嬌声を出しながらエルの後を着いていっている。


「あんたは見て回らなくて良いのかい。」


今の俺には何がどうなっているのか分からない。


とりあえず何を見ればいいんだろう。


「エルが決めるのであれば、俺はそれで構いませんよ。」


この答えなら問題ないだろう。


おばちゃんはそれを聞くと感心したように。


「確かにそうさねぇ。それを分かっていて一任するとは、あんた男だねぇ。気に入ったよ。」


どうやら正解だったらしい。


「金貨10枚の所を9枚にまけてやろうじゃないか。」


金貨10枚!?、ラスト公に貰った支度金の半分近い・・・


あまり無駄遣いは感心しないが、エルがそこまでの価値を見出しているのであれば、・・・まぁ、やむを得まい。


後で聞いてなかったとか怒られないようにこっそりと情報を収集しなければ。


「ところで、エルとしてはどんな感触でしょうか。」


「書類上ではかなり気に入っていたみたいだね。

 実際のものを見てみないと答えは出せないと言っていたが、この調子なら問題ないんじゃないかね。

 後は契約書にサインを貰うだけさね。」


ふむぅ・・・

そうだ、契約書を読めばはっきりと書いてあるはずだ。


「契約書を見せていただいても。」


「本当に物分りの良い、切符の良い男だねぇ。

 あの子が信用するのも分かる気がするよ。」


と言って一枚の紙を渡してきた。


・・・・・・・・・・・・しまったぁぁぁぁ、読めない


俺が困っているのを見ると、おばちゃんがにっこり笑うと、


「そういえば遠くから旅してきたって言ってたね。

 こっちの言語を理解はできても文字はまだ無理なようさね。

 なら血判だけもらえれば十分さ。」


と言ってきて、俺に小刀を渡す。


ちょうど戻ってきたエルとミーティアが驚いた顔で、


「ヒロ、もう契約書のチェックにまで進んでいたのですか。

 相変わらずの早さですね。

 私にもチェックさせて貰ってよろしいですか。」


「全然見てなかったのに、良いって言えるんだ。

 ヒロ結構すごかったんだね。

 うん、エルがいうのも分かる気がする。

 私もお願いしちゃおうかな。」


と言って2人で契約書を俺から取り上げ見始めた。


「おば様、この金額の所なのですが・・・」


「ああ、彼があまりにも良い男だったからね、かなり頑張ったつもりさね。」


「ありがとうございますっ」


おぉ、エルがおばちゃんに抱きついている。


「ヒロ、契約お願いしますね。」


と言って契約書を返してきたので、俺は「まぁ、いいか」と思って契約書に血判を押した。


「これでよろしいですか。」


契約書と収納ボックスから出した金貨9枚を渡す。


「即断の出来る男は嫌いじゃないよ。

 それじゃ、これは鍵さね。」


と言って先程使っていた鍵束を俺に渡してくる。


「ヒロありがとうございます。」


「ヒロ、よろしくねっ。」


・・・・・・・・・・あぁ、家を買ったのか俺は。


え~っと、また流された気がするが、いいか。


「お蔭で、野宿しなくてすむよ。」


「ええ、次は家具とかも買わないといけないですね。」



マイホームは夢でもありますが、このような形で手に入れる人っているのかな?

いたらそれはそれで幸せだろうと思います。


お読みいただいてありがとうございました。



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