021 勇者ミーティア
改めて大通りに出ると、奇妙な違和感にとらわれる。
町の中央に広がる通り。
今まで見てきた街はどこも、馬車2台がすれ違うのに十分なぐらいの広さだった。
だが、この街の通りは馬車5台でも余裕で横に並ぶ事のできる広大な通りだったのだ。
後ろを見ると城門が小さく見え、前を見ると城が小さく見える。
なぜこんなに広い通りを?周りを眺めてみると、原因が分かってくる。
通路を隔て、人族のみが居住を構える土地と、魔族のみが居住を構える土地に分かれているのだ。
エルに聞いてみると、
先ほどの例のたように、この国は中立性を尊ぶ。
人族・魔族関係なく暮らす事ができるが、人族と魔族では居住を初めとした区分けがしっかりとなされている。
国の運営でも要職は人族と魔族領部族から1人づつ登用し、どちらかにとって都合の良い政策にする事は無い。
優遇をする事もしなければ、冷遇をする事も無い。
だからこそ、人族と魔族が唯一貿易を行う事のできる国であり、誰も侵すことの無い条約があるそうだ。
俺は物珍しそうに、人族の地と魔族の地に並ぶ店を見比べた。
(住むのには区分けがなされているが、遊んだり買い物をするには区分けが無いようだ。)
エルも楽しそうにして、
「今まで街を歩く時は複数の護衛がいて何も見れなかったり、軍事行動中で何も出来なかったから、こうしてただ買い物をする事ができるのが嬉しいの。」
とそれは素敵な笑顔で答えられた。
俺達の旅はそこまで急ぐものでもない。
「今日は移動しないで、この町に宿を取ろうか。」
「いいの!?ありがとうヒロ。」
そこまで嬉しそうにされると、俺も嬉しくなってくる。
人族用の宿屋に2部屋で予約を取ると、エルと共に再度街へ繰り出した。
・・・なぜ女性は服屋が好きなんだろう。
エルが最初に行きたいといったのは服屋だった。
何度も着替えるエルに感想を求められては、その都度思った事を言っていくが、エルにとってはそれでも決まらないらしく、今は3着の服で悩んでいるようだった。
王女だけに高級な服でないと駄目かと思っていたが、意外とリーズナブルな服を好むようで、3着買ってもラスト公から頂いた支度金はまったく痛まない。
「その3着なら全部似合うし、買ってもいいんじゃないかな。」と言うと、
「宜しいのですか!?」と凄く嬉しそうな顔で答えてくる。
「あと必要なものもあれば遠慮なく言ってね。」
この最後がいけなかった・・・
女性の下着を選ぶ羽目になるとは、この時は思っていなかった・・・
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「ヒロ、この下着なんて肌触りもいいしデザインもいいと思うのだけどいかがかしら。」
「えっと、うん、エルのイメージに合ってていいんじゃないかな。」
「では、購入の前に試着してきますので待っていてくださいね。」
そう言って一緒に選んだ5着の下着を持って試着室へ消えていく。
えらく疲れた・・・かなり神経を使った気がする。
ただでさえ男が女性の下着売り場にいるなんて、どんな拷問ですかと言いたい。
俺は店員さんに価格をまとめて貰い、支払いを済ませながら考えてしまう。
一緒に旅する女性の下着に意見・・か・つい身に着けているエルを想像してしまう・・・
って、駄目だ駄目だ。
エルは俺にとって恋人でなければ、手を出していい身分の女性でもない。
一緒に旅をしているのは、ラスト公へ迷惑をかけないためであり、エルにとってはミモザに頼まれたから。
今の俺にとって大切な仲間であるエルに欲情するとは・・・反省しよう。
そんな事を考えていると、目の前の更衣室のカーテンが開き、中から女性が下着姿で飛び出してくる。
「ちょっとこれ私に似合うとか言っておいて、胸がスカスカなんですけど!!
これ嫌味?私に胸が無いっていう嫌味なの!!」
と、怒鳴り散らし、俺のほうを見る。
黒目黒髪で、長い髪をポニーテールに束ね。俺と同じ黄色人種特有の幼さの残る顔立ちをした少女。
・・・・・・・・・誰だ?
少女も同じことを思ったのか、ふと目が合う。
時間としては数秒もたっていないだろう。
少女から新たな怒鳴り声が上がる。
「いやぁぁぁぁぁ、痴漢ー。保安官っ、保安官を呼んでください。」
少女が叫ぶと店内の目が俺の方を向く。
「ちっ・・・違うっ。俺は知り合いの服を選ぶ手伝いをっ・・・」
俺は慌てて否定するが、殺気だった店員や客が俺に杖を突きつけ、
「動かないでっ、動いたら私の土魔法が飛びますよっ」
とか言ってくる。
じわじわと店員達が近づいてくる・・・
下着姿のまま剣を手にした少女も、剣を振り上げて俺に襲い掛かってくる気満々だ・・・
観念したように手を上げて、手の中に何も無いのを示すようにグーパーを繰り返しすと、
「あの、その方は私の連れで、下着を選ぶ手伝いをして頂いていたのですが・・・」
更衣室からほんのり赤い顔を出しつつ、助け舟を出してくれるエルが居た。
さっき支払いを頼んだ店員は俺とエルを交互に見て、
「そういえば3時間前から服を選んでいたような・・・」
どうやら覚えていてくれたようだ。というか3時間も経っていたのか。
俺は少女の方を見ると、
「えー・・・っと、ごめんね、つい」
少女は剣を下ろすと、スカスカだったブラの紐も一緒に下りて、素肌が露わに・・・
俺は固まった。
少女も固まった。
固まった世界の中で、俺の頭の中には走馬灯が流れていた。
「いいいいいやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺の顔に拳が飛んでくる。
良かった、剣じゃなくて拳で・・・
ブラックアウトする直前にそう安堵した。
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意識が覚醒してくると頭の下には柔らかい感触がする。
「ヒロ、大丈夫ですか。」
聞いていて軽やかな声
この感触は・・・まさか夢のひざまくらっ
そーっと目を開けると、そこにはエルの顔が見える。
「エル、何でこんな?」
「ヒロ、覚えていますか。服屋さんの一件で意識を失ったんですよ。」
思い出す。確か胸の慎ましやかな少女に殴られて気を失った気が・・・
「何か悪寒がしたんだけど、もう一回殴っていいかしら。」
聞き覚えの無い声が聞こえる。
声の方へ顔をめぐらすと、俺を殴った少女がきちんと服を着た上で、エルの横に座っていた。
「ミーティアさん、さすがに私も怒りますよ。」
エルが本気で怒った声で少女を諭す。
「う、ごめんなさい。」
「えっと、君は確か。」
俺が声をかけると、少女はベンチから飛び降り、俺に頭を下げた。
「先程は申し訳ありませんでした。
私の早とちりだったり、不可抗力とか色々あったとはいえ、まさか気絶させてしまうとは。」
「あぁ、思い出した、あの時の少女か。」
「えっと、痛む所とかない?大丈夫かな。」
俺は名残惜しいが、上半身を起こしてエルのひざまくらから脱出し、体の様子を伺う。
一応怪我らしい怪我は無いみたいだ。
「大丈夫、みたいだね。」
答えると、一気にほっとした顔になって、
「そっか、良かったー。なら謝ったし、もう大丈夫だよね。」
「ミーティアさん、ヒロは許すとも何とも言っていませんよ。」
「うっ・・・」
「ん~、まぁ、後遺症とかもなさそうだし、あれは不可抗力と言えなくも無いからしょうがないかな。」
「だよね。」
「ヒロ、宜しいのですか?
貴方を痴漢呼ばわりした挙句、殴り飛ばした相手ですよ。」
「本人も反省しているみたいだし、いいんじゃないかな。」
少女はほっとしたようにベンチに座り、
「ほんっとごめんね。私は流星って呼ばれているの。
ミーティアって呼んで。」
「俺はヒロって呼んでくれていい。」
「私はすでに自己紹介をしましたね。」
「これ、私のアドレス。何かあったらいつでも連絡していいよ。
ほんっと、ごめんね。急いでるから、またねっ。」
彼女はそれだけ言うと、住所や魔法通話用のアドレスを残した紙を置いていった。
「ふぅ、でもヒロに何事も無くてよかったです。」
「エルにも心配かけたみたいだね。ごめん。」
「そんな事はありませんので謝らないでください。
それに、今日はお買い物ありがとうございました。」
「きちんと買えていた?」
「試着中に払っていただいたんですね。そのまま『収納ボックス』に入れてくれましたよ。」
「なら良かった。」
「それでは私達も帰りましょうか。」
色々と予定外の事もあったが、エルは十分楽しんでくれたようだ。
この調子なら今日はゆっくりと休む事ができると思う。
帰りの道でエルは思い出したように呟いた。
「そういえば、ミーティアって、勇者ミーティア?」
お読みいただきありがとうございました。
『収納ボックス』-魔道具の一種である程度の物なら亜空間に収納する事ができるスマホサイズのボックスです。
最近キャラクター達が勝手に動き出しているような気分になってきました。
書いていて楽しいですね。
この調子で毎日更新していければと思います。




