はぐれ魔王の恋愛事情 002 ミネルヴァ・ネイル・ラスト(師匠)の場合
最初はなんて雑魚?って思った。
兄上の計らいとはいえ、たかが人間が我等獣族の騎士団に入るとは身の程知らずにもほどがある。
あの男はちょっとの訓練ですぐに倒れ、回復師の世話になっていた。
基礎訓練すらまともに出来ないとはなんたるひ弱さだ・・・
それがたった数日で基礎訓練はまるで苦にならなくなっていた。
獣族でも数週間、下手すれば数ヶ月はかかるはずだ。
そこをたった数日で克服した事で少し興味を持った。
次に模擬戦闘を見た時、我が目を疑った。
なんだあの動きは・・・
一つ一つの動きは熟練の達人でも叶わない動きだ。
だがその動きをつなげる動作がまるでなっていない。
達人と初心者、アンバランスな動きを組み合わせているのに、部隊長格すらも倒していく。
「やるな、新入り。次は私と手合わせしてみないか。」
私がかけた彼への最初の一言だ。
実際に手合わせをしてみると、恐るべし剣だった。
外から見ていた以上に一つ一つの動きが鋭い。
これだけなら兄上をはるかに超えている。
だが、その動きと動きの間がまるで隙だらけだ。
そこを狙うと、たった数合の打ち合いで倒す事ができる。
そこを指摘し、指導する事ができれば彼は間違いなくこの国、いやこの世界でも最強の使い手になるであろうと思った。
だからだろうか。
「彼に弟子になれ。」と言ってしまったのは。
彼は私の教えを貪欲に吸収していった。
今日はとうとう、彼に一撃入れられるほどになってしまった。
すばらし過ぎる。
私に一撃を入れるのは同じ隊長各でも数人しか居ないというのに。
たった数日で、しかも使い慣れていない木剣でそこまでいけるとは。
彼には練習用の木剣ではなく、オーダーの木剣を用意してあげぬばなるまい。
使い慣れた剣と同じものなら、更に私に肉薄するだろう。
今から楽しみだ。久しぶりに胸が高鳴るのを感じる。
彼を連れて待ちの武器屋に行くと、聞いた事も見た事も無い木剣を作って欲しいと頼んでいる。
何やら、木剣じゃなく、木刀というらしい。
大本となる刀とはなんだろう。
聞いてみたら後日見せてくれる事となった。
見た事も無い武器、そして彼の自室・・・どうしたのだろう、戦闘でもないのに胸が高鳴っている。
木刀の値段は銀貨1枚か、多少高めだがオーダーならば仕方ないだろう。
彼は部隊に入ったばかりで余裕などあるまい。
今回は私が立て替えておこう。
その後は私のお勧めの串焼きの店に連れて行った。
後から考えると、男性を誘ったのに串焼きは無かっただろうか・・・
もう少し女らしさをアピールした店を紹介すれば良かったかもしれないと、未だに後悔している。
その後も服やや露店、アクセサリーショップなどを見て回っていると、良い時間になっていた。
こ・・・この後は・・・
やはり若い男女、公園などでいちゃいちゃしたりするものだろうか・・・
いや、私はそんなつもりで彼と外に出たんじゃない。
あくまで彼が私に一撃入れたご褒美に、オーダーの木剣を作りに来たのだ。
でも・・・・
そんなことを考えていると、彼が「そろそろ戻りましょうか。」といってくる。
彼は最初から、私とデートとか思ってはいてくれていなかったのだろうか・・・
胸がズキンとする・・・
はっ、私は何を考えているのだ、彼は素晴らしいが人間なのだ、そんな事を考えてはいけない。
ただ、刀を見せて貰うのだけは忘れないようにしないとな。
次に会う約束さえとっておけば、また訓練以外でも会うことが出来る。
いや、私は刀という見た事も無い武器が見たいだけなのだ。
無事約束を取り付ける事ができた。
ちょっと心が弾んでしまう。
今日は帰ったらご馳走にしよう。
次の日、彼の木刀が届いた直後から、動きが変わった。
やはり木剣は使い慣れない武器だったのだろう。
一つ一つの動きが更にすばやくなっている。
さらに木刀の動きは剣と違う、なんと言うのだろうか、叩くのでは無く、切る動きなのだ。
それも私が手こずる一因だった。
その日の事、彼の方から「今日も訓練は午前のみですよね。武器を見に来ますか。」と誘って貰った。
私は午後から用事があったが、それほど大した物ではない。
「もちろん行かせて貰う。」と言って、もうひとつの予定はキャンセルした。
見合いなど、どうせ断るだけなのだ、行かなくてもいいだろう。
そして、私はその素晴らしい刀身に溜息を漏らした。
緋色のすばらしい剣身に炎のような波紋。
なんと素晴らしい武器なのだろう。
まるで1つの完成された絵。
刀とはなんと素晴らしい武器なのだと感動した。
もちろん初めて彼の部屋にお邪魔したと言う期待もあったのだが、彼の部屋はあまりにも殺風景。
一通りの物を担ぎ袋に。それ以外の物を収納ボックスに入れているようで、本当に寝るだけの部屋と言う感じでちょっと拍子抜けしてしまった。
でも、ここで迫られたらきっと私は断る事もできず・・・って、何はしたない事を考えているんだ私は。
でもでも、彼だったら・・・・胸が高鳴ってしまうが、その日は刀を眺めて、色々話をするだけで帰る事となってしまった。
あそこで兄の娘が遊びに来なければ、もう少し良い雰囲気になれたかもしれないのに・・・ううう・・・
何日か訓練をするだけで、すでに木刀を持った彼の動きは私を超えていた。
今では同等、いや私の方が負け越しているか。
まったく彼の成長には本当に驚かされる。
これなら『獣化』した兄上とも良い勝負ができるのでは無いだろうか。
「お兄ちゃん、遊びに来たよー。」
この声は兄娘かっ。
最近この子は基礎訓練と称して、私と彼の間を邪魔しに来ている。
まぁ、私も大人気なく、売り言葉に買い言葉でこの子を言い負かしてしまうのだが・・・
だが、この子も間違いなく彼を狙っているのは分かっている。
ならば、間違いなくライバル。
手を抜く訳にはいかないのだ。
その日は突然にやってきた。
「エルが目を覚ました。来て欲しい。」
入ってきたのは兄上の秘書のサトリという女性だ。
それなりの実力はあるが、私よりは下と言う所だろう。
それより、エルとは誰の事だ?
彼はその言葉を聞くと凄い速さで走り去っていった。
少し調べなければならない。
大変な事が分かった。
エルとは人族の女性で、彼と一緒にこの街へ旅をしてきたと言うのだ。
まさか、彼の思い人なのではあるまいな・・・
もしそうだったら、私のこの想いは・・・
どうしよう・・・
そんな事を思っていると、いつの間にか医務室の扉にこっそり耳を押し付けている私が居た。
・・・・・・・・・・・・・・・・
話を聞いていると私は青くなってしまった。
私が想っていた彼は魔王候補だったのだ。
しかも聞いた限りでは、中央のラース公に刺客を差し向けられているらしい。
彼女との関係は疑う必要はなさそうだが、彼を想うのなら覚悟が必要だとわかった。
兄上は民を守る為、彼には最低限度の援助しか出来ない。
ならば、私のとる道は・・・
彼は旅立つ前にと、私に挨拶をしてきた。
もちろん引き止めたとも。
だが、彼の決意は変わらないようだ。
ただ話の中で、お兄様からの命令で私にすら言う事が出来無いということになっていた。
これは、私がお兄様の妹とまだ言っていない。
つまり、好きにしていいということか?
やはり、あの場で聞いていたのを気づいていたようだ。
ならば私は、好きに動かせてもらおう。
彼を見送った後、私は兄上の元へ向かった。
「彼を影から見守る役目。私にさせてください。」
兄上からの答えは、「私こそ、お前に頼みたい。」と言ってくださった。
彼が使ったワープゲートは3日の空白期間が発生する。
だが、私なら国を通ってプライド公の元へ行く事ができる。
プライド公は話を聞いてくれるお方。
かのお方に事前に助力を願い、彼の力に少しでも役立って見せよう。
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