018 はぐれ魔王
「どうやら、ラース公はキミを切り捨てたようだねぇ。」
長い沈黙の後、ラスト公はそう切り出した。
「そんなことっ」
・・・そんなこと・・・考えれば考えるほど、兆候がありすぎた。
召喚されてから、まったく何もなかった説明。
最初に、居眠りからさめた後の期待はずれの表情。
グリトニー公との決闘もまるでそうなるように仕向けられた気がする。
それと、あの武器。
あの剣だけが『強制ダウンロード』って表示で問いかけもなしにダウンロードされた。
剣術・刀術・見切り・狂化など、間違いなくあの剣から『強制ダウンロード』で流し込まれた『スキル』だ。
前者3つなら戦う為の力としてみなせる。だが『狂化』と『強制ダウンロード』終了後の意識の変わり様。
今ならそう思えるが、エルが操られていたのと同じなんじゃないだろうか。
エルの『狂化』発動も思えばおかしい。
命令が誰だったか。
その問いに答えようとした時発動した。
無意識下での発動を条件可にしていた可能性もあるだろう。
それに、自らの意に沿わず、おっちゃんを倒し、『狂化』を跳ね除けた。
それほどの力を持った俺を、野放しにするのは危険と考える可能性もある。
だが、自らの弟を暗殺しようとするだろうか。
・・・物語の悪の女幹部とかだと、やりそうなんだよな
でもラース公は俺の命の恩人でもある。
状況がどんなだろうと、信じなければいけないと俺は思う。
迷ってしまいました。ごめんなさいラースさん。
「そんな事ありません。」
俺がはっきりと言うと、ラスト公は「何言ってるんだこいつ」という目で見てくる。
「たとえ状況的にラース公が怪しいとは言っても、実の弟を殺そうとか思うわけが無いじゃないですか。
俺はラース公を信じます。」
ラスト公は諭すように。
「昔のラース公なら弟を殺すなどと考えなかっただろう。
だが、神子となったラース公は変わってしまったのだよ。
神子となったラース公は良く言えば行動的に、悪く言えば独善的に変わったのだ。
昔はあんなに兄妹の中が良く、2人で飛天族をしっかりとまとめると思われていたのが、神子となった次の年、父親が亡くなるとラース公が当主の座も弟から奪ってしまった。
今から思えば、父親の死も不審な点が多すぎるのだよ。
万が一、父親の死にラース公が関わっているのであれば、弟も同じようにする可能性は高いと思われる。
キミは召喚されたと言う事で、思考に制御がかかっているが、ラース公へは不振を感じつつも従っている者は多いのだよ。」
思考に制御がかかっている?
それはどういうことだろうか。
「キミがラース公を信じると言う事を、否定しまい。」
ラスト公は俺の肩に手を置き、
「否定はしないけど、今キミはラース公から追われる立場となっている。それは分かるね?」
そう。ここ数週間この町に住まわせて貰っていたのはラスト公の好意でしかない。
本来は俺は手配されている身であり、日陰者なのだ。
俺が黙っているのを肯定と見なし、
「今のキミは召喚者の庇護から抜け出した、いわば、はぐれ召喚獣。
いやさ、はぐれ魔王なのだよ。
といっても本来、召喚者と召喚対象は呼び出された時に契約を行い、常に意思の疎通を行ったり、召喚者の命令に逆らうなどありえない。
そういう所では、キミがラース公を信じているのも契約の内に入るのかもしれないねぇ。」
といった所で、ラスト公が何かに気づいた様に考え込む。
「魔王よ、キミは召喚時にラース公へ名乗りをおこなったはずだが、契約がかなり甘い。名のりは行ったんだよねぇ?」
「ええ、俺の世界では初めて会った人へ名乗りをするのは礼儀でしたので。」
「この世界ではまったく逆と言うのは知っているね?」
「はい、名前はうかつに知られてはいけない。
スキルを見られたりしますからね。」
「いや、それだけではないのだよ。
スキル確認もだが、契約などで用いるからこそ、名前を秘匿しなければならないと言うのだ。」
「では召喚時に名前を名乗ったのが契約になるんですか。」
「本来はそのはずなのだが、キミの場合ラース公を信じると言う強制はありそうに見えるが、意思の疎通や命令に逆らわないという縛りが有るようには見えないのだがねぇ。」
俺は考えてみる。
そしてある事実に気づく。
「もし・・・ですが、生きている途中で名前が変わった場合はどうなるんでしょう。」
「名前が変わる・・・かね。
この世界ではそんな事は無いからなんとも言えないが、キミの世界では名前が変わることがあるのかね。」
「ええ、結婚をすると基本は女性は夫となる男性の姓を名乗る事になります。その他にも変わることはあるのですが。」
「なるほど、この世界で言う名前とは、生まれた時に付けられた名前だけを差すのだよ。
因みにこの世界では結婚した所で名前は変わらないが、呼称は変わることはあるね。」
「そうですか・・・だとすると、俺はラース公へ名乗っていないですね。」
「つまり契約は成されていないと言う事になるかねぇ」
「やはりそうなりますか。」
「今の話の流れからすると、キミは途中で姓が変わったが、名前は変わっていない。そうだね。」
「ええ。」
「ならば、力を持つ名を教えて契約を交わしている以上、全てではないが、契約の力がキミに及んでいる可能性ぐらいはある。」
「やはりそうなりますか。」
「うむ、だが今の事情を見るに、ラース公からキミの位置を知る事は出来無そうだ。
それにラース公の命令に逆らう事も・・・場合によっては出来るかもしれないねぇ。
その辺もラース公から見放された原因の1つかも知れないね。」
「となると・・・」
「うん、キミは間違いなく『はぐれ魔王』で決定だよ。」
うわぁ・・・最初に名前名乗るのが間違えたせいで、殺される事ってあるのかよー。
・・・う~ん、なんか思い出せないけど、大事な事もこの名前で伝えたような気がする・・・・・・・
思い出せないけど、やばいかも?
「まぁ、話は戻さないといけないねぇ。
とりあえず、キミはラース公から狙われている。
エル君はラース公に操られてミモザ村を潰し、ラース君(弟)を初めとした3人も手にかけている。
となると、手段は2つしか無いねぇ。」
ゴクッと唾を飲む音が聞こえる。
「2つとは?」
俺が聞くと、ラスト公は真剣に答えてくれる。
「1つは、ラース公を問い詰める事。ただしこれはかなり危険な事になるねぇ。
まず、今の状態で向かってもただ殺されに行くだけ。
本気で行くなら最低でもプライド公ぐらいは味方に付けないと無理だろう。
ラース公を本気で攻め落とし、その上で問い詰めない事にはキミの身の安全を保障する事はできない。
もちろんその手でいくのなら、我等ラスト領はキミに手を貸す所存だよ。
そしてもう1つ、これは何てこと無い、人族に保護を求める事さ。
キミは魔王として召喚されたが、人族であることに変わりは無い。
ならば、人族も保護を求めるキミをそう悪く扱う事は無いだろうさ。
せいぜいその力で持って我等シン国を攻め落とす力に使われるぐらいだろうね。」
これは俺を試しているのか。
それとも本気で俺の身を案じてくれているのか。
「もし亡命するとしたら、ラスト公はどうされるのですか。」
「そうだねぇ、私は民の為に生きると誓っている。
人族では獣人である我々なぞいかしておいてはくれまい。
ならば民を守る為にキミと戦う事になるかもしれないねぇ。
もちろんその時はうらみっこ無し、全力で戦う事になるんじゃあるまいか。」
ラスト公は本気で言っている。
先ほどの提案は、本気で俺の身を案じてくれているのが分かるな。
「民の為というのならば、なぜ俺がプライド公の助力を得て、ラース公に対峙する際に手助けしてくれるのですか。」
ラスト公は微笑むと、舌なめずりし
「キミを気に入っているからさぁ~。
それにラース公はミモザ村に住む人達を亡き者にした。
その報いは受けて貰わないといけないねぇ。」
後半はかなり冷徹な響きを持って言葉にしていた。
「なら、俺の取る手段は1つしか無いですね。」
「どうするかね?」
「嫌われていそうですが、死ぬ気でプライド公に助力を求め、何とかラース公へ真意を問いただそうと思います。」
「かなり危険だと分かっているのかね。」
「危険ですが、ラスト公とは戦いたくありません。
それにラース公が何を考えているのか俺は知りたいと思います。」
「その途中で倒れる事になってもかい?」
「絶対に倒れません。」
「言うねぇ~。」
「言った以上は行動で示しますよ。」
俺とラスト公は笑いあう。
「ならば何も言うまい。
動き出す時は私に一報すると良い。
それまではおとなしく民の為、ラース公に従うふりでもしているが、キミとプライド公の為であれば弓引くのもやぶさかではない。
表立った助力は出来ないが、出来うる限りの協力はしよう。
これからすぐに旅立つのであろう?
路銀や旅の支度はこちらから用意しよう。」
俺は心の底からラスト公へ感謝し
「ありがとうございます。」
と言って、医務室から出ようとする。
そして後ろから声がかけられる。
「あの・・・・私はどうすればいいのでしょう」
・・・・・・・・あ、エルの事忘れてた。
お読みいただいてありがとうございます。




