015 師匠とおでかけ
「スキルに頼るな。
自分の動きにスキルを上乗せする感じで動くんだ。」
厳しい指摘が飛ぶ。
「分かりました師匠。」
「教科書通りの動きなら完璧だ。
魔獣相手ならば、それで問題は有るまい。
だが、人は常にフェイントのように理解外の動きを交えてくる。
その辺をしっかりと頭に叩き込んでおかなければ、不意の動きに対応できなくなるぞ。」
彼女はそう言うと、訓練用の刃引きされたエストックを構える。
「では、次の組み手開始」
本日5度目の模擬戦闘が開始された。
最初はまったく反応する事ができなかった、足を狙うように見せて、後ろに回りこんでくる動き。
後ろの気配を読み、しゃがんでかわすと後ろへ足払いを仕掛ける。
その頃にはすでにバックステップで後ろにかわし、足払いを引いた所へエストックの鋭い一撃が飛んでくる。
頭を狙ってきた軌道を読み、木剣で払いかけると、剣先は胸に狙いを変えている。
木剣の柄で剣先を叩き落すと、その勢いのまま相手に向けて剣先を振るう。
側転の要領で叩き落された剣先の勢いを殺さずに横に滑りぬけると、木剣を振るい終わり硬直した俺の肩にエストックの柄を打ち下ろす。
肩に衝撃が走る。ヒビ程度は行ったかもしれないが、ここで手を抜くわけにはいかない。
腰に差した短剣2本引き抜き、足元と胸元に向けて放つ。
いつもの癖で右側へ避けようとする。
読みどおり。避けて体勢が不安定な所へ前蹴りを繰り出す。
腹部へと前蹴りが吸い込まれ、華奢な体が後ろへ吹き飛ぶ。
「入った」
初めて入った攻撃に瞬間高揚すると、目の前が反転する。
ドサッ
俺の体は地面にたたきつけられ、喉元にはエストックの剣先が突き刺さる。
「ぐえっ」
「これで本日5回目の死亡だ。
少し肩への攻撃が強すぎたな、回復術をかけて貰って来ると良い。」
「ありがとうございます」
先ほどの攻撃で潰れた声のまま、お礼を言い、救護班と書かれたテントへ入っていく。
「あら、ヒロさん今度はどこの負傷ですか。」
かなり忙しそうな中、一人の猫耳の女性が駆け寄ってくる。
「ネネさん、悪いね。今度は肩と喉。
肩はヒビぐらい入ってるかもしれない。」
「はいはい、何時も通りね。
・・・・・っとお終い。」
「いつも悪いね。おかげですぐに訓練に復帰できるよ。」
「いえいえ、ヒロさんのお蔭でここも活気が出てきています。
皆が本気で訓練すれば、それだけ生存率が高くなります。
救護班も忙しい分、回復術の訓練になりますから、こっちこそお礼を言うべきですよ。」
「ありがとう。じゃ、行って来るね。」
「はい、また20分後くらいにっ」
急いで戻ると師匠が他の兵士10人相手に無双している。
「師匠、戻りました。」
「おう、早かったな。
待ってろ、すぐに片付ける。」
そう言うと、10秒とたたず兵士達が地に伏せっていった。
「師匠、相変わらずの強さですね。」
「ああ、だが今回は良かったぞ。
初めて私に攻撃をいれる事ができたな。褒めてやるぞ。」
頭をごしごしと撫でられる。
一応俺の方が年上にも見えるから、頭を撫でられるのが少し恥ずかしい。
「それじゃさっきの動きの反省に行こうか。」
そして5分ほどかけて、先ほどの戦闘での動き方の指摘や良かった点の説明などを行った。
「今日は行くところがある。
時間があるならヒロも来るか。」
師匠が珍しく訓練を早めに切り上げるようだ。
俺は基礎訓練も終わっているので「お供します。」と答えると、
「では服を着替え、次の鐘がなる頃に城門前に来るように。」
と言われた。鐘は1時間毎に時間を知らせる為になる。
前の鐘は大体20分ぐらい前に鳴っている。
時間としては40分と言った所か。
俺は急いでシャワー室へ向かった。
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「お待たせしました。」
急いで支度を行い城門へ向かったが、すでに師匠は城門前にいた。
いつもの訓練服から、私服のパンツスタイルも新鮮で、つい見とれてしまう。
「うむ、今日は私の特訓についてきている褒美に飯でもおごってやろうと思ってな。」
予想外の言葉をかけられた。
どうやらさっきの言葉はお誘いの文句だったようだ。
万が一「いえ、大丈夫です。」とか答えていたらどうなっていたんだろうか。
師匠の事だ、何事もなかったように帰ったのかもしれないな。
時間はまだ昼より少し早いぐらいなので、飯の前に武器屋へ寄る事となった。
そろそろ量産品の木剣じゃなく、自分の武器と長さ・重量の変わらない訓練用の武器を用意した方が良いとの事。
師匠お勧めの武器屋へ入ると、親父さんに木刀の事を伝える。
最初は伝わらなかったが、絵や口頭の説明で何とか伝わったようだ。
最初から分かっていたら『イフリート』を持ってきたんだが、意図は伝わったようなので良しとしよう。
師匠は「刀とは何だ」と言ってきたので、やはりこの世界では刀はかなり珍しい物のようだ。
詳しく説明すると、武器屋共々、「是非一度見せてくれ。」と詰め寄られた。
武器屋は約束できないと伝えたが、師匠には次の機会にと言っておいた。
訓練場では刃のついた武器の持ち込み禁止なので、仕方ないだろう。
代金は銀貨一枚(約1万円ぐらい)と高額だったが、一から作る事になるようなので仕方ない。
品物は明日には訓練場へ届くそうだ。
代金を支払おうとした時、横から師匠がすっと銀貨一枚を親父に渡した。
出して貰うわけにはいかないと伝えると、「弟子の面倒を見るのも師匠の役目だ。」と言われ、常識なら仕方ないと引き下がった。
飯は美味しい串焼きの店へ案内して貰った。
師匠のお勧めという串焼きをほおばってみると、くせの無い味わいなのにあふれる肉汁がジューシーで、塩コショウのアクセントが絶妙だった。
添えつけの果汁から作られたソースも絶品で、串焼きにこのソースをかけるといくらでも腹に入っていくようだった。
後で聞いたところ、今日の串焼きは飛竜の肉で、亜竜の肉はどれも美味しいそうだ。
もしかして竜族って美味しいのかな。
と思ったが、色々とやばそうなので口に出すのは辞めておこう。
その後も時間が余ったので、服屋を覗いたり、露天等を冷やかしていると、いつもの訓練が終わる時間になっていた。
師匠はなにやらそわそわした雰囲気になっていたので、帰りたいのだろうと察し、俺の方からそろそろ戻るよう進言する。
残念そうな表情を浮かべられたが、何か失敗したのだろうか。
師匠は別れ際、妙に真剣に「次は刀を見せて貰うからな。」と約束してきた。
次の約束をしっかりと決めると、機嫌を直したようにスキップしながら帰っていった。
本当に師匠は武器が好きなんだな。
俺も見習わないと。
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いつものように遊びに来たミモザへ今日の出来事を話すと、
「お兄ちゃんのばかっ」
と怒られてしまった。
良く考えると、最近ミモザは勉強する事が多く、外に出る事ができないようだった。
そんな中、俺が外で遊んできた事を楽しそうに話した物だから、ミモザの感情を刺激したのだろう。
素直に謝って、ミモザにも時間が取れたら一緒に遊びにいこうなと約束すると、キゲンが直った。
どうやら正解だったらしい。
が、今日の串焼きの店にも行こうと言ったら難しい顔をして「やっぱり分かってない」とかぶつぶつ言っていた。
女心と言うのは難しいものである。
因みに訓練場では、刃引きのされていない武器を間違って使う事の無いよう。
刃のついた武器そのものの持込を禁止しております。
閲覧ありがとうございました。




