097 アリシアの独白 ②
「更に大半の力を王に分け与えた。
《魔獣》を制御する為にな。
これで戦争は終る。
・・・その時はそう思っていた。
・・・思い込みたかったのだ・・・」
かぶりを振りながら呟き、そのまま黙ってしまう。
「それは、ど・・・ラリー?」
アリシアに続きを聞こうとしたがラリーが目の前に手をかざす。
「ヒロ君、アリシア様も話すのが辛いんだ、今は大人しく聞こう。」
ラリーも唇を固く結んでいる。
聞きたいのは同じ・・・と言う事だ。
「そう・・・だな。」
口をつぐむと、そのまま部屋に静寂が訪れる。
どのぐらい時間が経っただろうか、
「すまない・・・未だあの時の記憶に苛まされる・・・」
アリシアが再び口を開く。
「《魔獣》を自在に操った王は、各国にけしかけた。
結果、4国は多くの被害が出た。
人と戦う訓練しかしていない者が《魔獣》に対応出来るわけがないからな・・・
多くの兵士を失った国々は、戦争を続けることが出来なくなった。
仕方の無い犠牲・・・そう思い込んでいた。
だが・・・
・・・最初から狙っていたのか、それとも《魔獣》の力に酔ったか・・・
王はそのまま蹂躙を始めた。
《魔獣》を意のままに操り、手当たり次第に滅びを撒いた。
何時からか、次第に王は《魔王》と呼ばれるようになった。
シン国の王が《魔王》、そして人族以外が《魔族》と呼ばれるようになった発端だ。
4国は次第に衰退し、機能しなくなった頃・・・世界は魔王の支配下になった。
力ある一部の者が優遇され、力無き者は強いたげられる。
実力主義と言えば聞こえは良いが、力無き者にとっては地獄以外の何者でもなかったろう。
だからこそ、《魔王》への反逆者は途絶えることなく増え続けた。
・・・自分が蒔いた種だ。
私はその者達へ、自分の身柄を差し出した。
多少なりとも取引の材料に出来ないか・・・とな。
だが、反魔王派はそんな私を御印に掲げた。
私が平和を叫び続けて居た事を誰もが知っていたらしい。
《魔獣》も《魔王》も私が生み出したと告白しても・・・だ。
"ならば、それを刈り取るのが貴方の役目だ。"そう言ったのは誰だっただろう。
だが、その言葉に私は決意する事ができた。
それから私は反魔王軍として、多くの人の為に立ち上がった。
・・・しかし、分け与えられたとはいえ、神の力を持つ者だ。
勝算も無しに攻め込む訳に行かない。
既に力を失った私では役に立たんしな・・・
最後の希望として、各国に潜んでいた神の力を継ぐ者を探した。
・・・その答えは最悪なものだった。
4人共魔王の下にいたのだ。
1番を争っていたと思ったが、《魔王》を頂点に《4天使》等と名乗っておった。
神の力を持つ5人が支配側に立っていたのだ、最早絶望しか残っておらぬかった。
・・・が、希望は残っていた。
4人の内、1人が残した手記の中に、神の力と世界の理について調べた物があったからだ。
その時は、何故そのような事を調べていたのかも、そんな大事な手記を残していたのかは判らなかった。
内容は"異世界の力はこの世界の理を超える。"というものだ。
異世界の力、つまり異世界の者ならば、神の力を超えることが出来る・・・
本当に異世界に生きる者が居るか分からなかったが、試すしか無かった。
結果は成功。
ヒロ・・・お主と同じ世界の人間だった。
名は『源九朗義経』と言っておったな。
初代の勇者となった男性だ。
彼は、我々では知りえなかった戦術や武具の製造方法。
その他にも様々な物を残してくれた。
長い戦いの末、反魔王軍は4天使の内3人と魔王を倒す事に成功した。
3人の天使はその記憶と力を新たな概念として世に解き放った。
魔王は死後、力の塊を残し消滅していった。
解き放たれた概念は恐ろしい存在だった。
その力を我が身とすれば、神の力を得る事ができるのだからな。
私達はその力を悪用されないよう、生き残っていた各国の王族に封印した。
各国の王族はそれぞれ神の力を授かっていた。
火・水・土、それぞれ天使の属性と相反する力の王族に封印する事で、天使の記憶と力を抑える事ができた。
幸か不幸か、天使に授かった力で天使を封印する事ができたのだ。
最後に私は魔王の力を取り戻し、その力の大半を使って魔獣を押さえつけた。
それから平和な時代が訪れた。
それなりに様々な問題があったり、人族が魔族を恐れるようになったと言う事はあったがな。
だが・・・懸念もあった。
魔王は魔族の各種族に子を残していたのだ。
その者達は神の力か、特殊なスキルを身に宿した。
何の罪も無い子達だ。
処分することが出来なかった私は、彼らを手元に置き、常に監視していた。」
アリシアは一旦言葉を区切ると、ラリーを見る。
「お主なら判るだろう?
7公の祖先がその子達だ。
その子達と一緒に、新たなシン国を再興した。
元々シン国の住民だった者。
人族の国からはじき出された魔族。
人族の国に居づらくなった人族。
どんな成り立ちの者でも受け入れたよ。
シン国は大きくなっていった。
あの頃が一番幸せだったのかもしれない。
ドラゴ亡き今、当時のことを知る者は最早居ないがね。」
アリシア少しだけ寂しそうな表情で頷くと、視線を俺に向ける。
「過去話はこんな所で終わりにしよう。
詳しく話せばまだまだあるがな。
例えば義経が魔王討伐後どのように過ごしたかとか・・・
手記を残した天使のその後とか・・・
それに・・・人族に伝わる、魔王が魔獣を活発にしているという話と食い違っておるだろう?
その辺はこれから話す中に含まれる。
他に聞きたい事などは、全部終ってから聞いてくれ。
長くて悪いが、ここからラース公に関る話になる。
もう暫く付き合ってもらうぞ?」
いよいよラース公の話か・・・
今までの話から、間違いなく天使が関っているんだろうな・・・
アリシアは優雅な仕草でお茶を口に運ぶ。
ゆっくりと中身を飲み干してから、言葉を続ける。




