095 結末
アリシアは珍しく真面目な表情で『堕天』したのか聞いてきた。
あの時の言葉を思い返してみる。
『竜化』から『傲慢』へ。
『狂化』から『憤怒』へ。
『吸血鬼化』から『強欲』へ。
『硬化』から『暴食』へ。
『人魚化』から『嫉妬』へ。
そして5つのスキルが統合され、『堕天』と変わった。
得たと言われていたけど・・・堕天したのと得たのでは違うのだろうか?
「ええと、いくつかのスキルが進化して『堕天』を得たと言われたけど?」
その言葉にアリシアの表情が凍る。
「待て!!
『堕天』したのではなく。
『堕天』を得た・・・だと?」
やはり何かが違ったらしい。
「スキルの一つ・・・だよね?」
「スキル!?・・・どう言う事だ!?」
俺はあの時の状況を詳しく説明する。
「そんな・・・事が・・・」
どうやら色々とおかしいらしい。
『竜化』の進化は『竜王』
『狂化』の進化は『発狂』
『吸血鬼化』の進化は『不死王』
『硬化』の進化は『金剛』
『人魚化』の進化は『魚人』
であり、いくつかのスキルを取得する事で、新たなスキル取得の道が開く事はあるが、スキル自体の統合など有りえないそうだ。
じゃ、俺の場合は何で?と聞くと、「我が知るかっ!!」と怒られてしまった・・・理不尽だ・・・
さらにスキルなら『堕天』を解除できるのか?
と言われ、解除したら更に怒られた・・・
その上、可能な限り『堕天』を発動し、その姿で生活するようにも言われた。
1度姿を見せた以上、解除できる事を知られてはならないらしい。
俺が『堕天』"した"のではなく、『堕天』を"得た"と言うのはこの3人のみの秘密となった。
実際、『堕天』を使っても羽根のあるなしぐらいしか、見た目の変化が無いので特に問題は無いが・・・
思った以上に力が溢れているらしく、普段の生活も慣れるまで一苦労になりそうだ。
「それで、これからの事だが・・・」
アリシアが口を開くと、リアーサが思いついたように言う。
「そうでした、ヒロ様の目が覚めましたらスロウス公様の元へ案内するように言われていたんです。
ロックに対しての事後処理など色々な事があるらしく"食事を取ったら執務室に来て欲しい"とのことです。
「そうか。
私もそのときに一緒に話した方がいいだろう。
ラリーもヒロのことを認めたろうからな。
ラリーにも話しておくべきことだ。」
リアーサはアリシアに頷き、
「判りました。
そのようにお伝えしておきます。」
と言って、部屋から出て行った。
「それじゃ、まずは腹ごなしをしてから執務室へ向かうとするかの。」
俺の意見は全く無しで事態は進んでいく。
・・・ま、いいけどね。
どうせこれから先、自分の決めた道を進もうと思っている。
そのための指針を教えて貰えるのだから、しっかりと聞いておかなければ。
コンコンコン
「どうぞ。」
リアーサの声が聞こえる。
簡単に朝食を取り、アリシアと一緒に執務室へ来た。
ルーアは「頑張ってね。」とだけ言って送り出してくれた。
おそらく大体の事は察しているだろうが、何も言ってくるつもりは無いらしい。
「失礼します。」
中に入ると、ラリーとリアーサ・アーチャが居た。
昨日と違う点は、ラリーが部屋の隅に寝そべっているのではなく、ソファーに座っていると言う所だろうか。
「ヒロ君、疲れている所を悪いね。
どうしても早めにいっておかなければならない事が出来てね。」
「ヒロ様、昨日はありがとうございました。
それと・・・お見苦しい点を見せてしまいまして・・・」
アーチャにしては珍しく尻すぼみで言ってくる。
「ラリーこそ体は大丈夫ですか?
昨日結構吹き飛ばされたような?
アーチャも気にしてないから、大丈夫だよ。」
「ヒロ君の魔法の波動・・・とでも言おうか。
リアーサの隣に居ただけだが、私の傷も塞がった・・・
あの魔法は・・・いや、何でもない。
人の力を詮索するのは少々無礼だったね。忘れてくれたまえ。」
ラリーは、ソファーで肩を回したりして元気をアピールしてくれる。
「ヒロ様、そう言っていただいてありがとうございます。
ですが・・・私の所為で巻き込んでしまったというのもありますので。」
アーチャは何故か赤い顔をしてもじもじとしている。
何か違和感が・・・
そうか。
「そう言えばラリー、いつもの怠惰な振りはどうしたんだ?」
そうだ。
いつも隠していて、所々でしか出していなかった顔で待っていたからだ。
「ああ、あれは振りではなく、実際その通りなのだよ。
今はそんな事態でないし、監視者も一時だが居なくなった。
今の内に全てを揃えようと思ってね。」
にっこりと微笑むと、聞き捨てならない事を漏らす。
やはり、実力を隠す為って考えがあったんだな。
「まずは、昨日の結論から話したいがいいかな?」
聞きたい事を先に教えてくれるようだ。
「ええ、お願いします。」
「では、話させてもらうよ。」
話してもらった内容は。
まず、リアーサ・ラリー・アーチャにアリシアは全員なんとも無かった。
正確には、リアーサとラリーが深い怪我を負ったが、『生命の樹』で完治したそうだ。
次にロックとその一味だが、
一味については、そのほとんどがリアーサの召喚術で動けなくなっていた。
幸いにも死人はほとんど居なかったそうだ。
何人かロックが暴れた際に死んでしまったと言うが、これは自業自得だと冷徹な目でラリーは言っていた。
俺も多少は学習している。
忌避感はぬぐえないが、仕方の無い事だ。ぐらいには思うことが出来るようになっている。
ロックは俺が『消去』した所為で、本当に記憶喪失になってしまったそうだ。
名前・言葉と読み書き・常識は知っているのだが、何故知っているかとか、元々の性格自体もナリを潜めている。
とりあえず、何としようも無いので、領主として必要な事・行ってはいけない事をしっかりと勉強させ、グリトニー領へ送り返すつもりらしい。
アーチャも"おっちゃんに万が一の事があった場合、民をしっかりと導いて貰う為"とロックがまともになれば領を任せるつもりらしい。
意外な事だが、領に関してはしっかりと統治し、非道な行いは行っていなかったようだ。
ただ、権力への執着が高かっただけ。とはラリーの言だ。
今はアーチャも一緒に勉強し、共に領に戻りサポートするつもりだと答えた。
何か言いたそうだったが、リアーサを見て口をつぐみ、「リアーサちゃん、後はお願いしますね。」とだけ言った。
2人の間に何か通じ合ったものを感じたが、それを聞くのは野暮だろうと思った。
そしてこれからの事である。
「ヒロ君、僕は・・・いや、スロウス領は魔王への従属を誓おう。」
ラリーは俺を魔王として立たせ、ラース公を排除しようと思っているらしい。
「ですが・・・」
「うん、判ってる。
これは対外的に対する抑止のような者と思ってもらっていい。
ただラース公を排除しようとすると、領主同士の抗争と人族には移る。
その場合、今はおとなしくしているけど、人族からの介入が考えられる。
だから、ヒロ君・・・
君は君の考えがあり、魔王を継いでよいものか悩んでいるのも知っている。
だが、ラース公を排除するまでの間、御印として立ってくれないだろうか?」
判っている・・・判ってはいるんだが・・・
「それに・・・ヒロ君。
君は前魔王アリシア様と同じ『堕天』となった。
魔王を名乗らない事の方が問題が多いのだよ。」
ラリーは真剣な目で話してくる。
「え?」
「それは我が説明した方がよいじゃろ。」
それまでずっと黙っていたアリシアが口を挟んでくる。
「それと、ラリー。
お主が唯一知る事の出来ない、人族の事情も加わってくる。
これから戦う相手の正体と、世界の秘密の一部だ。
もちろんヒロ。
先ほどは途中だったが、『堕天』を得ることの真の意味も教えよう。」
口調は静かだったが、それまで感じた事の無い、アリシアの緊張を感じる




