009 野党と影
背後に殺気を感じ取り、振り向きざま横へ飛ぶ。
さっきまで立っていた位置にフードを被った影が剣を振り下ろした姿でいた。
シルエットから種族の特徴を見る事はできない。
立ち上る火の手を見る限り、野党の一味だろうか。
ベットの横に立てかけていた刀を手に取り、障害物の無い部屋の中央へじりじりと移動する。
後数歩近づく事ができれば、居合いを仕掛ける事ができる。
「一体何者だ、なぜ襲ってくる」
話しかけつつ隙をうかがうが、かなりの使い手のようで隙がまったく見受けられない。
影が何事かぶつぶつと呟く。
何を言っているのか聞き耳を立てようとすると、力ある言葉を影が発した。
『フレイムアロー』
影と俺の中間位置に火の矢が出現し、俺の頭を狙う軌道で飛んでくる。
刀ではじこうとも思ったが、魔法に関しての知識が圧倒的に無い。
触れていいものか分からないので避けようとする。
そこまで読んでいたのか、火の矢を避ける方向に影が銀閃を纏って剣を振ってくる。
・・・南無三
火の矢と影の銀線、2つが1つの線になる箇所を狙い居合いを放つ。
「クッ」
火の矢は刀に吸い込まれるように消え、影の攻撃はうまくはじく事ができた。
くぐもった声だったが、おそらく影は女性だろうと判断できた。
ならば力押しでいけるかもしれない。
間合いを詰め刀を振り下ろそうとすると、影はどこから取り出したのか、短剣を投げつけてくる。
鞘を使って短剣を防ぐと影は後ろに飛び、ぶつぶつと呟き始める。
魔法を打ってくるのが分かったので目隠しと時間稼ぎに布団を投げつける。
布団の影に隠れて飛び込み、押さえつけようとするが間に合わなかったのか、魔法が飛んでくる。
『フレイムアロー』
「あちちちちっ」
布団に魔法が当たり燃え広がる。
布団の真後ろにいたので、火の矢は当たらなかったが、燃えた布団が熱を伝えてくる。
首に違和感を感じ、反射的にしゃがみこむと、銀閃が布団を切り離し首の有った位置を通過する。
影の振り終わりを狙って前蹴りを出す。
影にとってさっきの一振りは必殺のタイミングだったのか、避ける事ができず腹部に前蹴りが吸い込まれていく。
影が吹き飛ばされ体勢を立て直している隙に、刀を上段から振り下ろす。
刀の峰が影の左肩へと吸い込まれていく。
ゴキッ
この感触なら、左肩と鎖骨は折ったはずだ。
本当ならこれで終わりだろうが、まだ人殺しをする事はできない。
目の前の野党は苦悶の表情で床に臥せっている。
「命まで取るつもりは無い。おとなしく降伏してくれ。」
俺は刃を影に向けようと近づくと、詠唱の声が聞こえる
『ヒーリング』
影は光る右手を左肩に置くと後ずさった。
どうやら回復も出来るらしい、多少はダメージが残っていそうだが、動かせるはずの無い左手で短剣を持ち上げている。
心臓を狙い短剣を投げつけてきたので、影の動きに注意しながら弾き飛ばす、影はその隙をついて窓から逃げ出していった。
「まてっ」
後を追って飛び出そうとするが、野党よりも重要な問題がある。
人影は廊下から入って来たんじゃないか・・・・・と
不味い、俺は運よく起きていたが、他の皆は大丈夫だろうか。
急いでドアを開けるとそこには同じようにドアを開け廊下に出たエルが居た。
「陛下、争う音が聞こえましたが大丈夫ですか。」
設定上、俺は護衛なのでエルにはヒロと呼ぶようにしているが緊急時だからか陛下に戻っている。
「大丈夫だ、襲われたが何とか撃退する事はできた。」
「私のところも同様です。
撃退をする事はできたのですが、武器が無かったため、とり逃してしまいした。」
やはりエルも襲われていたらしい。
あのレベルの野党を返り討ちにするとは、エルもかなりできるらしい。
「他の方々が心配です。
陛下は母屋の村長を見てきていただいてよろしいでしょうか。
私は3人の様子を見てきます。
合流は馬小屋で行いましょう。」
俺は頷くと荷物の入ったバックと刀を手にとり、離れた母屋へと向かう。
部屋に入ると2組のベットがあり、ふくらみが見える。
どうやら村長夫妻はまだ寝ているようだ。
「カタンッ」
音がした方に身構えると、そこには今日遊んであげた孫娘が居た。
俺の方を見ると鏡台の影から飛び出してくる。
速いっ
一瞬身構えるが、孫娘は泣きながら「お兄ちゃん」と抱きついてくる。
孫娘は「おじいちゃん達がっ・・・お父さんやお母さんみたいに・・・」
と俺にしがみついて離れない。
死が身近な世界だからか、泣いてはいるが、取り乱したり混乱は無い。
じっと気配を感じるが何も感じない。
俺はゆっくりと視線をベットに向けるとさっきは分からなかったが、布団が赤く染まっている。
2人はもう・・・・
「今は生き延び無ければならない。逃げるよ」と言って、馬車のある馬小屋へ走り出す。
馬小屋に行くと、馬車は健在だった。
周りを見渡してみるとエルが荷物を馬車に積み込んでいるのが見える。
「エル、他の皆は大丈夫だったか。」
エルは俺と孫娘を見ると、黙って首を振る
昼間の動きではラースは相当の手だれだった。
ボロもおそらく同等かそれ以上のはずだ・・・
エーラは治癒術氏だった分、抵抗も出来なかったろう。
あの声が無ければ俺も同じ運命だったのかと思うと、背筋が寒くなる。
「野党は相当の手だれぞろいのようです。
2人と幼子だけでは立ち向かう事などできません。
おとなしく隙を突いて逃げ出しましょう。」
俺が野党に立ち向かうと思ったのか、逃げるよう提案してくる。
ボロやラースを圧倒する敵に俺では相手にならないだろう。
それでも俺が動けば助けられる人が大勢いるかもしれない。
だが・・・
「途中で助けられそうな人が居たら、限界まで人を乗せる。いいな」と手元にいる少女を見て決断する。
そして俺達は村の脱出を始めた。
エルの察知能力がすごいのか、少女の案内が的確なのか、
野党にも一度も会うことが無く、村を抜け出す事ができた。
残念なことに避難する住民に会うことはできなかった。
あの時助けた少年達もあの炎に包まれてしまったのだろうか。
村から馬車で3時間は走っただろうか。
湖のほとりで馬車から降りると、エルと少女と一緒に村の方角を見る。
少女は俺の服のすそをつまみながら「おじいちゃん・・・おばあちゃん・・・ユーリ・・・クレハ・・・」
村長夫妻とあの時の友達だろうか、名前を呼びつつぼろぼろ泣いている。
俺は何も出来なかった。
本当に短い間だったが、一緒に旅をしたラース・ボロ・エーラ、一度は助けたのに今度は助ける事ができなかった少年たち・・・
無力さをかみ締めながら少女の頭をなで続ける。
エルはただ無言で俺の横に佇んでいる。
エルだけでも生き残ってくれて良かった。
俺は無力なまま居るわけにはいかない。そう決意した。
孫娘は疲れたのか、馬車の中で寝入っている。
「陛下、これからどうなさいますか。」
「正直分からない。
近くの村か町に避難しミモザ村の襲撃について報告すべきなんだろうが、俺もエルも人族で魔族の町や村に入って大丈夫だろうか。」
一番の問題はこれなのだ。
今まではラース・ボロ・エーラと魔族であり、ラースにいたっては大公の弟なのだ、
何も問題なく旅が出来ると思っていた。
だが、これからは俺とエルと少女の3人。
しかも2人が、現在戦争相手の人族。
町や村で信用して貰える気がしない。
それに・・・ラースさんの悲しむ顔が目に浮かぶ
そうだ・・・な
「少し遠いが、首都ラストへ向かおう。」
罵声を浴びせられたが、ラスト公とは面識がある。
人族だからとすぐに剣を向けられる可能性は少ない。
それにミモザ村はラスト領内にある。
少しでも早く領主へ知らせなければならないだろう。
「食料や水は大丈夫です。野宿が入りますがよろしいでしょうか。」
エルも考えを察してくれたらしい。
「ああ、急ぎラスト公へこの事を伝え、・・・ラース公やボロやエーラの家族にもこの事を知らせないとな。」
俺達は休み無く走り続け、翌日の夜には首都ラストへたどり着いた。
ちなみに俺は筋肉痛でほとんど寝ていました。
やくたたずでごめんなさい。
門番にミモザ村の事、ラスト公と面識があることを伝えると、待つように言われた。
そして2時間ほど待っただろうか、城門が開き中から十数名の騎士が駆け出してくる。
たいそうなお出迎えだなーと眺めていると、一番豪華な鎧を着た犬耳の女性騎士が言った
「ミモザ村の襲撃犯、おとなしく投降するがいい。」
ここから物語の本質に踏み込み始まります。
影の目的とは何だったのでしょうか。
お読みいただきありがとうございます。




