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一次創作練習作 Ⅳ

 また難産でした。

 いかに寝顔というお題でコメディに走るかに挑戦したところ、こんなコメディでも恋愛でもない微妙な話が出来上がりました。

 やはり私にギャグのセンスというか意表を突く才能は無いようです。

 なお、お題は常に募集中ですので気軽に投稿してください。



 一次創作短編 その四。

 お題 『寝顔』



 目の前にあるのは美少女の寝姿。

 ピンクのパジャマに身を包んだ少女が掛け布団を蹴って寝相の悪さを披露している。

 おそらく十八歳以上である青い髪のボーイッシュな少女の体型は、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。しかし、それが普通よりどのくらい大きいのかいまひとつ分からない。

 それはおそらく、睦月が現実感を抱いていないのが最大の理由だろう。

 パジャマは中央でボタンで留める形になっており、上から二つのボタンが外れていて、さらにはその裾が捲り上がってへそが丸出しになっている。

 だが、やけににやついて涎を垂らしている寝顔が色気を台無しにしていた。

 いや、性欲を催す対象にはなりにくいが、これはこれで健康的な魅力があると言うべきだろう。




「どうじゃ?」

「可愛いと思いますよ」


 パソコンのモニターに表示されたアニメ調の少女のイラストを前にどや顔をする銀髪の少女――風音に、睦月は当たり障りの無い答えを返す。


「むぅ。こう、なんというか、萌え~~、みたいな感じは湧かぬか?」

「そう言われましても……」


 確かに風音の描いた少女のイラストは可愛らしいのだが、あくまでそれは二次元の存在だ。リアルな人形よりは可愛らしいとは思うが、萌えという感想を抱くには至らない。

 というか、アニメなどは自分とは離れた世界の存在であるから良いのであって、見た目など特に不満点さえなければ良いだけの問題だと睦月は思っている。

 なのだが、それでは彼女は満足してくれないのだ。


「これでも無理、か。睦月すら萌えさせられるキャラクターなら、万人受けする事間違いないと思うのじゃが」

「別に僕は、こういう可愛い外見の女の子に実際にいて欲しいわけじゃないですから」


 そう、別に外見が良いに越した事はないのだが、人間の魅力は外見だけで決まる物ではない。

 そもそも外見は遺伝的なものもあるが、綺麗に、もしくは可愛く魅せたいという女性の努力あってのものだという事を睦月は知っている。

 化粧や美容に疎い風音や伊織も髪や身だしなみには気をつけているし、手入れを怠っているわけではないのだ。

 何より、睦月の人に対する好悪はその人物の在り方を持って決めている。見た目で好印象を抱いても、それだけで好きになれる筈も無い。


「大体、こんな素敵な女性ひとが目の前にいるのに、絵の女の子の方が可愛いなんて思うわけないでしょう」

「当然じゃ。睦月の一番はワシじゃからの」


 胸を張って浴衣の様な寝巻の上からでは分かりにくかったその豊かさを強調しつつ、誇らしげに笑う風音。

 少々自信過剰に見えるかもしれないが、これは彼女なりの照れ隠しというか、こちらが本気で言っているのを知っているからこそ喜んでくれている事を睦月も知っている。

 ぐい、と風音に腕を引っ張られ、抱き寄せられた腕からやわらかな彼女の胸の感触が伝わってきた。

 ゆったりとした浴衣だからこそ外見からはさほど意識しなかったが、こうして押し付けられるとその肉感に感じる物がないでもない。


「どうした?」

「いえ、なんでもないです」


 不審に思われないよう組まれた腕から目をモニターに向ける。

 画面の女の子は風音の書いている小説のヒロインで、純血の日本人である。

 しかし、目鼻立ちは日本人のそれなのだが、およそ日本人らしくない青い髪をしている。色分けはキャラクターの個性を作る重要なファクターであるらしい。

 そもそも神木町の性質上赤や金の髪を持つ異族が普通に日常に溶け込んでおり、この町の人間が違和感を抱くわけなど無いのだが、文章化する際には髪の色に言及しないのが暗黙の了解であるという。

 確かにこの町に来るまでは、日本人が黒や茶、または白以外の髪をしているのを見た事が無い。

 不特定多数に見せる以上、町の中だけで通用するような書き方ではダメなのだろう。




 ちなみに、自分の書いた小説に自分で挿絵を添える風音の本業は学生小説家である。

 とは言ってもその作品は電子書籍での出版だ。ゆくゆくはきちんとした本という形で作品を世に出すのが目標らしい。

 ちなみに神というのは種族であって職業にする気は無いとの事。彼女は人がいいのでつい頼み事を聞いてしまうが、あくまでバイトの範疇に収めているそうだ。


「別に風音さんの好みに描けばいいんじゃないですか?」

「いや、賞を取るには一般に受け入れられないといかん。売れないと判断されれば落とされるからの」


 そう言う彼女は時折小説の大賞に応募している。結果は大体二次選考通過止まりといったところだ。


「小説は見た目よりも中身でしょうに。人間として魅力的なら受かりますって」

「とは言ってものう……」


 ぴらり、とパソコンの横に置いてあった紙をつまみ上げ、こちらに突き出してくる。

 そこに書かれていたのは以前投稿した小説への評価だ。

 詳しい評価コメントは別にして、キャラクターやストーリーなど五つの分野に表分けされて良し悪しが表示されている。

 その中で一番評価が低いのがキャラクターの項だ。

 悪評価の項にチェックが入っているわけではないが、評価されている項のチェックの数は二つ。

 逆に展開や表現技術の項は高評価の欄に多くチェックが入っている。

 つまり、魅力的な主人公を書くことが出来ていないのが今の風音の欠点である。


「睦月。ぬしはどのような主人公なら良いと思う?」

「む、難しいですね……。とりあえず、芯の通った人ですかね。後は今を大切に出来る人だとなお良しです」


 そう答えると、風音はやや難しい顔付きになる。

 雰囲気がやや締まった感じがするところから、真面目な話を始めるようだ。


「芯の通った人というのは良いとして、問題は今を大切に出来るという点じゃな。あまり暗い過去を持たせたくはないのじゃが」

「あー……」


 風音は永きに渡って人の営みを眺め続けていた。そのせいか、暗い話、救いの無い悲劇を好まない。

 彼女が書く作品も基本的にファンタジー、それも異世界といった現実とはかけ離れた世界を舞台にした物が多い。


――大切な物の価値とは失って初めて理解できる。失くした時に心にぽっかりと空いた空隙。その大きさこそ、どれ程大切に想っていたかの証左じゃ。

――だからこそ、簡単に諦めるな。大切さの意味を識った時には、もう手遅れなのじゃから。


 風音の持論であり、小さな頃から言い聞かせられてきた言葉がリフレインする。

 そして、その意味を睦月は身を持って理解していた。

 かつて、風音を失いかけた、あの時に。


「すいません」

「いや、実際その方が受けが良いのは事実じゃしな。これはワシのつまらん拘りに過ぎん」


 風音が淡く微笑み、空いた右手で頭を撫でてくる。

 その心地良さにされるがままに力を抜くと、途端に体を抱き寄せられた。

 体勢を崩した睦月は倒れこみ、体をずらした彼女の太腿の上に頭を乗せる形になる。


「……風音、さん?」


 呆然と彼女の名を呼ぶと、彼女は愛しげに微笑みを浮かべた。


「なに、少し昔を思い出してな。ほれ、昔はこうしてやるとすぐに寝入っておったではないか」


 確かにそれは事実である。昔はよく風音に膝枕をしてもらっては寝入っていた。

 あの頃の睦月は幼く、そうやって姉のような彼女に甘えていたのだ。

 その事を思い出し、気恥ずかしくてつい視線を逸らすと、彼女はくつくつと小さく笑い声を漏らす。


「それにな、やはり実物の寝顔を見ておくのが一番参考になるじゃろう」

「は?」

「ほら、あれじゃ」 


 風音が指差したのはパソコンのモニター。

 そこには先程のイラストが表示されたままであった。


「あれ、僕なんですか……」

「正確にはぬしと伊織のイメージを混ぜて書いた物じゃがな。ほれ、あの寝相の悪さは伊織のイメージじゃ」

「いや、伊織はあそこまで寝相は悪くないですよ?」


 よく一緒に寝ているために、二人とも伊織の寝相は把握している。

 あのようにだらしなく寝る事だけはない。

 せいぜい顔をすり寄せてきたり、夢の中の感情が顔に出てくる程度だ。


「とはいえ、学校でのイメージはあんな物じゃろうに」

「まあ、否定はしませんが」


 年上であるというのに人前で堂々と睦月に甘えてくる伊織は、確かに少々だらしないイメージをもたれていてもおかしくない。

 だが、どちらかというとがさつなガキ大将的なイメージが強いのではなかろうか。

 超が付くほどのマイペース。

 オカ研絡みで騒ぎを起こすこともしばしば。

 挙句の果てに問題に首を突っ込んでは殴って解決するため、風紀委員会ブラックリストの第一位に君臨している。

 どちらにしても、清楚や穏やかというイメージからは遠い。

 あれでかなり家庭的な面も持ち合わせているのだが。


「ほれ、いいからもう寝てしまえ。もう勉強は済ませたのじゃろう?」

「はい。ですが――」

「ちなみに、断るようなら膝枕から腕枕に変更じゃ。ワシの胸に抱かれて寝る方が気持ち良いじゃろ?」

「このままでお願いします」


 選択の余地はなかった。手を出したくとも出せない生殺しコースはごめんである。


「よろしい。安心せい、寝た後は部屋に運んでやるからの」

「はい」


 体を完全に横たえ、心なし甘く感じる心地良い香りのする風音の太腿に頭の重みを預ける。

 目を閉じると、懐かしい子守唄が聞こえてきた。

 睦月の母がよく歌ってくれた唄だ。

 母と一緒に寝たのはどれ程昔だったかと振り返るも、はっきりとは思い出せない。

 ただ、こうして幼子のように甘えて眠るというのは随分久しぶりだったのは確かだ。

 子守唄を聞きながら故郷での思い出に浸っているうちに、意識が朦朧としてくるのを朧気に自覚する。

 その感覚に逆らわずにいる内に、いつの間にか睦月の意識は途切れていた。







 翌日、確かに睦月は自室の布団に寝かされていた。

 ただし、風音に抱き締められて。


 なお、後日風音のブログに睦月の寝顔写真が飾られていた事が発覚するのはまた別の話。

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