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第44.5章  番外編:託された願い―ダリア視点―


今日、私たち塔の警護部隊は、その役目を終える。

半年間お守りしてきたアリス様を、ゼリア王国へ送り届けるためだった。


王宮の中庭には出発を待つ馬車が用意され、その周囲には私たち塔の警護騎士が配置についている。


やがて、ゼリア国第二王子セシリオ殿下が姿を現した。

その少し後ろを、アリス様が歩いて来られる。


馬車の前で足を止められた時、不意にこちらへ視線が向けられた。

私たちに気づいたのだろう。

一瞬だけ、頭を下げられる。


その表情には、隠しきれない緊張が滲んでいた。


「アリス王女、参りましょうか」


セシリオ殿下が穏やかに声をかけ、手を差し出される。


アリス様は小さく頷かれると、その手を借りて馬車へ乗り込まれた。


扉が閉まる。


やがて馬車はゆっくりと動き始めた。


私たちも馬を進め、その後に続く。


馬車を囲むように警戒を続けながら、ゆっくりと馬を歩かせる。


不意に、あの日のことが脳裏に浮かんだ。


♢♢♢♢♢


「エドワード国王陛下へ、早めの面会をお願いできますか」


塔の入口で警護に当たっていた時だった。


声をかけられ振り返ると、アリス様が立っていた。


その青ざめた表情を見た瞬間、胸がざわつく。


「……もしかして、ゼリアの件ですか」


「えぇ」


私は思わず一歩前へ出る。


「でも、まだウィル団長が戻っていません。面会は、もう少し後でも……」


アリス様は困ったように微笑まれ、首を横へ振る。


「これは、私の問題ですから」


迷いのない声だった。


「これ以上、ウィル様にご迷惑をおかけしたくありません」


「そんなことは――」


言いかけた、その時だった。


「ダリア」


隣からジョン部隊長の低い声が響く。


視線だけで十分だった。


――それ以上は駄目だ。


そんなことは、分かっている。だけど……。


私は唇を噛み締めた。


「……失礼しました」


♢♢♢♢♢


アリス様は、いつも周囲へ気を遣われる、本当に遠慮深い方だった。


ゼリアから要求があったと聞いた時、アリス様ならきっとこういう決断をされるのだろうと思っていた。


あの状況では、断れないことも分かっていた。


それでも、一人で抱え込まないでほしかった。


――ほんの少し前まで、あんなに幸せそうだったのに……。


思わず、手綱を握る手に力が入る。


正式に婚約されてから、お二人で過ごされる姿をよく見かけるようになった。


最初の頃は、団長の腕へ手を添える仕草にも、どこかぎこちなさが残っていた。


それがいつしか、自然なものへと変わっていった。


アリス様は団長の傍にいると、本当に幸せそうな表情をされていた。


それに、鈴蘭のネックレスを毎日のようにつけられていた。


首元のネックレスに気づいて、「とても可愛いですね」と声をかけたら、アリス様は少し恥ずかしそうに、


「……ウィル様に頂いたんです」


と囁くような声で教えてくれた。


「団長が!?この可愛い感じのをですか?女性の装飾品なんて全然分からなそうなのに」


つい、失礼な本音が口から出てしまった。


アリス様はその言葉にくすっと笑われ、


「私の好きな花を覚えていてくださっていたの」


そう言って、嬉しそうにネックレスへ触れられた。


団長は忙しいはずなのに、時間を見つけては塔へ足を運ばれていた。


その様子を見ていれば、アリス様をどれほど大切に思われているのかくらい、私たちにも分かった。


何より、時折アリス様へ向けられる眼差しは、驚くほど優しかった。


「あんな団長を見る日が来るなんて」


警護部隊の皆でそんな話をこっそりとしたこともある。


だからこそ。


あの団長が、アリス様を諦めるわけがない。


それだけは分かる。


もし再びアリス様をお守りする機会が訪れるのなら、その時は迷わず剣を取ろう。


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