表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/61

第36章 新しい暮らしの準備


アリスは今夜、屋敷に泊まる予定になっており、ウィルが仕事から戻った後、夕食を共にして、そのまま応接室で家具の相談をしていた。


テーブルには何枚もの図案が広げられ、クララが淹れたハーブティーのやわらかな香りが部屋を満たしていた。


「鏡台はこちらにしようかと思っているんです」


アリスは一枚の図案を差し出した。


「模様が可愛くて」


ウィルは受け取り、視線を落とす。


月と草花が彫り込まれた、上品な意匠だった。


「あぁ」


短く答えてから、改めて模様へ目を向ける。


「月が好きなんだな」


「えっ」


不意に言われて、アリスは少し慌てた。


「あ、はい。その……綺麗なので」


どこか気恥ずかしそうに視線を逸らす。


ウィルは一瞬だけ首を傾げたが、それ以上は何も言わなかった。


アリスは内心、ほっと息を吐く。


そして今度は、机の図案を三枚並べた。


「それで、あの……机に悩んでしまって……」


三枚を見比べながら続ける。


「なるべく実用性のあるものがいいんですけれど、どれが良いと思いますか?」


すぐ隣にいるウィルを見上げた。


ウィルは図案を手に取り、一枚ずつ目を通す。


しばらく考えたあと、そのうちの一枚を指した。


「これはどうだ」


「書き物をするにも、手作業をするにも使いやすそうだ」


さらに図面へ視線を落とす。


「引き出しも多い。収納にも困らないだろう」


アリスはウィルの腕に手を軽く添えて、図面を覗き込んだ。


「……確かにそうですね。これにします」


頷きながら、笑みを浮かべる。


クララはハーブティーの支度をしながら、二人の様子を見守っていた。


——アリス様は楽しそうに家具の相談をし、旦那様はそんな姿を愛おしそうに見つめている。


そんな何気ない光景を、クララは感慨深い思いで眺めていた。


「椅子とソファは、実際に座って決めたいんですが」


アリスの声に、クララは意識を戻し、テーブルにハーブティーのカップを置く。


「さすがに、こちらへ持ってきていただくのは申し訳ないので……」


ちらりとウィルを見る。


「ウィル様のご都合の良い時に、お店へご一緒していただけたら——その」


「クララさんも、その方が良いとおっしゃっていましたので」


どこか伺うような視線だった。


ウィルは思わず苦笑する。


「わかった。予定を組んでおく」


その言葉を聞いた瞬間、アリスの表情がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます」


そして、どこかワクワクした感じで続けた。


「お店に行くのは初めてなので……とても嬉しいです」


その言葉に、ウィルは一瞬だけ目を伏せた。


店で買い物をすることも、彼女には縁遠いものだったのだろう。


胸の奥に複雑な感情が広がる。


「……楽しめるといいな」


ウィルはアリスの頭にポンと手を置いた。


「はい」


クララはアリスの幸せそうな笑みを見ながら、小さく目を細める。


自然と二人だけの時間が流れ始めていた。


クララは一礼し、そっと応接室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ