8. 王都の朝市
夜明けとともに、王都の大通りは目を覚ます。
石畳はまだ朝露をまとって淡く光り、城壁の向こうから差し込む橙色の光が、尖塔をゆっくりと照らしていく。鐘楼が五つ打てば、それが合図だ。
朝市。
広場には魔物の血一滴、肉片一片も残っていない。水も綺麗な透明。昨夜の出来事は完全に無かったことになっている。
代わりに宝石のような果実が並ぶ。林檎のような見たことがある果実から見慣れない物も沢山。魚も売ってるけど、これは川魚か? たしかこの辺に海はないが大河が近いのだったか。
香ばしい匂いが風に乗った。
大鍋で煮込まれている「なにか」。
そういえば豚汁食べたいなぁ……
そして異世界名物串焼きは経験しておかないといけない。
「すみません、1本、いや、2本ください」
グレスの分も買ってみよう。私は要らぬ! とか言われそうだけど。
本当に味付けは塩だけのようだが焼きたての匂いはたまらない。
人目のないところでグレスを呼ぶと意外にも素直に食べてくれた。
私も一口齧るが、まぁ悪くはない。
どんな食べ物でも空腹と雰囲気、そして出来たては正義だ。
城の塔が完全に朝日に染まるころ、広場はすでに人で溢れていた。
年末のアメ横のような活気と、見慣れない物の違和感が「旅」を実感させてくれる。
夕べも私は寝られなかった。
正確に言うと少し寝る時間はあったが寝過ごす自信があったので、寝るのをやめて朝市にやってきた。
ミナトやユーリと夕飯を食べて部屋に戻ったら既に二十時は過ぎていた……
そこから「うお――――っっ!」っと神界専用端末で報告書を書き上げて送って寝ようとしたら、内部副業の報告書と手当ての申請書も今夜中と言われ、また「うお――――っ!」と書き上げて、更に……
まぁ愚痴っても仕方ない。
今夜こそはぐっすり眠ろう。
屋台をいくつか巡ってお腹も満たされた。
ちなみに今日は大店商会の令嬢?いや、奥方か……? の装いだ。
神界レンタルである。
教会で、貴族や富裕層専用の礼拝に参加しようと思う。
礼拝まで身分を分けるとは、頭が痛い。
そもそも、誰を祀っているのだろう?
活気のある大通りから路地に入ると匂いが変わった。
くさい、そう思いながらもそのまま路地を進む。
「おい! これ以上は私たちの仕事じゃない。戻れ」
グレスに言われなくてもそのくらいわかる。アニメもラノベも歴史書も沢山読んだ。神界図書館で資料も読んでいる。
「でも、ある意味ファリアの管轄とも言えるんじゃない?」
ちょっと見るだけ……
路地を奥まで進むとまるで別の世界と紛う光景が広がっていた。
スラムだ。スラムという言葉は妥当ではないかもしれない。
そこにはあまりにも多くの人々のあたりまえの生活があった。
ボロボロの服にガリガリの体の人々。通りは排せつ物の匂いで耐え難く、大通りの石畳とは対象的に土と泥の道をネズミと人間が一緒に歩いている。
ネズミーランドだね、なんて冗談をいう気力さえ削がれてしまう。
茫然と立ち尽くしていると、少し離れたところから殺気を感じた。
見るとボロを纏った男性が睨みつけていた。
目が合うと顎をしゃくって出ていけ、と合図される。
彼の手の甲で紋が光っていた。
「ほらみろ、怒られたであろう。他所の仕事の邪魔をするな。行くぞ」
「うん。わかった……」
私たちは元来た明るい方に歩き出す。
「暗黒? 疫病?」
「いや、アイツは盛衰神のとこの者だ」
一番怖いんですけど?
「王国衰退させるのかな?」
「知らん! 逆の可能性もある。それに首を突っ込むなと言ったであろう」
うん……わかってる。
ちょっとだけ、子供たちの目に生気がないのが気になっただけだから。




