7. 暗黒補の補と白ヘビ
「さっきは助かった。内部副業手当の申請をしてくれ」
なんじゃそりゃ!
他所の部署の人を手伝うと手当てが貰えるのか!?
優良企業並の恩賜制度だ。
神界、もしやホワイトなのでは?
いやいや……
こんな闇に溶け込んで闇になっちゃったような人を目の前にして考えることじゃないな。
「いえ、とんでもない。それより立ってないで一緒に食べませんか? ご飯まだでしょう?」
「いや、私はまだ仕事が残ってるのでまたにするよ」
これ、今日も食べないヤツだな。
「ダメですよ。ろくに食べてないんでしょう? 過労死しますよ」
「いや、我々は死なないぞ?」
余計こわいからっ!
私は彼の手を引っ張って無理矢理座らせた。
「すみませーん、私、ハンバーグ、パンで」
「じゃあ私は海藻のサラダで」
「いやいや、どこの世界のスーパーモデルですか! すみません、私と同じものを全部で4つ。それからシャンパンも人数分お願いしまーす」
食べてないなら肉じゃない方が良かったかな? リゾットの方が胃に優しかったか? うーん、大丈夫だろうか?
「すまないなユーリ。相棒に悪気はないから許してやってくれ」
「いや、助かるよ。うちの相棒はいくら言ってもちゃんと食べないんだ」
テーブルを挟んで白ヘビと鷲が世間話をしている……
なんか尊い。
「なんだその目は?」
「いや? 仲良しなんだなと思って」
「コイツは『ニーズヘッグ』のユーリだ。古い知り合いでな」
「えっ!! ニーズヘッグってフレースヴェルグと犬猿の仲じゃなかったっけ?」
「なんの伝説だ? その伝説が本当だっとしても我々には関係ない」
「へぇー、そうなんだね。ってかドラゴンじゃなかったっけ?」
「お嬢さん、私はドラゴンではないがこの姿がかりそめの姿なのは確かだよ」
「かりそめですかぁ。でも蒼みがかった白がキラキラ光って凄く綺麗ですね?」
「なっ! き、気持ち悪くないのか?」
ん?
ちょっとヘビが赤みがかってくねくねし始めた。
ヘビだから当然か。
「挨拶が遅れた。私はミナトだ。エレボスから来た」
ミナト?
えっとエレボス様は、たしか……
「暗黒だ」
一生懸命思い出そうとしていたらグレスが先に教えてくれた。
そうだそうだ、暗黒の神の補さんだ。
要するにミナトは、暗黒神様補のエレボス様の補佐ということになる。
「失礼だが、あなたは?」
「あ、すみません、私は莉子です。ウェストファリアです」
ファリアの名前を出した瞬間、暗黒の社畜が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「それは大変だな」
「いえ? どう見てもあなたの方が大変そうですけど?」
暗黒の神より、死神の方が似合ってる。
とは言えない。
「ところでさっきのは?」
「あぁ、あれは闇が間違って飛んでしまってな、出来るはずのない所に瘴気溜りが出来てしまったんだ」
瘴気とはもちろん自然発生などではなく、神界の業務にすぎない。必要な場所に必要なサイズで発生させている。まぁ、それを「自然発生」と呼ぶのだが。
出来たばかりの瘴気溜りはいつもユーリさん(ヘビ)が時間稼ぎしてるうちに消せるらしいけど、王都のど真ん中という人が多く行き交う場所で元々人間の闇のエネルギーが堆積しており、勢いが増しちゃったんだとか。
なんか大変そうなお仕事だ。
しかも自然の摂理でごまかせないから痕跡ごと消さなきゃいけないのは面倒くさいだろう。
「ハンバーグでございます」
おぉー! 今日、初めての食事だー!
ギルドで食べたスープは不味すぎたので記憶から削除済み。
うわっ! ちゃんとパンにはバターとオリーブオイルが付いてる!
地球だ! 日本だ! インペリアルだー!
「ん〜ん! うまいっ!」
これで銀貨一枚は安過ぎる。
やはりホワイトなのでは?
ミナトさんもリスのように、でも手を止めることなく召し上がっている。
良かったねぇ。
美味しい物は闇をも晴らすよ。
「久々にうまい食事をした。重ねて感謝する。ここは私が出す」
「え? いいですよー。さっきのはちゃんと手当て貰えるんだから」
「いや、なんかよくわからないがユーリもあなたが気に入ったようだし、私の気持ちだ」
「そうですか? じゃあありがとうございます」
「ああ。じゃあ、今日の報告書と一緒に申請書を提出してくれ」
白いヘビを巻いた闇の後ろ姿を見送りながら頭の中で『報告書』という文字を必死に消そうと試みた。




