6. 内部副業
「お前さん、どこの間者だ?」
私は今冒険者ギルドに併設された酒場で『星屑のゆりかご』というパーティーの人たちとコミュニケーション能力を育みあおうとしている。駆け引きとも言う。
「いえ? ただの田舎者ですが、なぜそんなことを?」
「ハハッ、間者としてはまだまだみたいだな。まず田舎から到着したばかりの割には金を持っている。最低ランクの冒険者でも金を持ってる奴は稀にいるが長旅の後でも余裕があるのは余程だ。それに何よりねえちゃんの話し方だ。お前さんは学がある。きちんと教育された奴の話し方だ。更に迷わず俺たちに話し掛けた。人を見る目もある。そして、登録した後掲示板は一切見ずに俺たちのところに来た。要するに冒険者登録の目的は冒険者から話を聞くことだ。で? どこの国だ?」
当たらずとも遠からず、ってとこだな。
方向性の違う勘違いは怪しまれたとは言わない。
ウェストファリアが言っていたのは人間とは違う力の存在を怪しまれてはいけないということだ。
万が一にでもバレたりしたら…………
やめよう、想像しただけで全身に鳥肌がたって悪寒がする。
手の甲の社畜紋(ファリアの刻印)が光った気がした。
なんと恐ろしい。
それを思えばこの国の王族に睨まれたとしても別に痛くも痒くもない。
ちょっと怒られるかもしれないが。
「いえ、本当に何を仰ってるのか」
「そりゃそうだよな、簡単に口を割る訳にもいかねぇだろうよ。帝国……いや、その瞳は西か? まぁ安心しな。お前さんの人を見る目は確かだ。俺たちは他にもらしたりなんかしねぇよ」
私は小金貨一枚をジルさんに無言で渡して立ち上がった。
「お話、大変参考になりました。ありがとうございます」
これで西のどっかの国の間者だと思い込んでくれただろう。
冒険者ギルドを出ると外はすっかり日が暮れてしまっていた。
屋台も商店も全て閉まり、昼間の喧騒が嘘のように大通りは閑散としている。
暗いな。
さすがに少し怖い。
急いで宿に戻らなきゃ。
一本裏道に入るとところどころ開いてる酒場があるようで、かえって治安が悪い。
このまま人のいない大通りを抜けた方が良さそうだ。
「莉子ちゃん!」
ビクッ!
いきなり声がして振り返ったが誰もいない。
「莉子ちゃんそのまま真っ直ぐ急いで!」
手の甲の紋が光っている。
ファリアか。
社畜の性で、意味もわからず命令に従ってしまう。
走り出すと私の前方、目の高さにグレスが来ていた。
先導されるままに走った。
中央に噴水らしき物がある広場に出ると水から魔物が湧いて、白ヘビが戦っている。
噴水の傍らでは一人の男性が何かやっている。
「助太刀しても?」
その男性に声を掛けた。
「助かる。魔物を頼む」
私は貸与品の剣を抜き、グレスと白ヘビさんと共に大量発生している魔物を切り刻む。
ほんの数秒後すぐに魔物の発生が止まった。
「人が来る! 後始末はこっちでする」
数人の通行人が広場に出てきた瞬間
「停止」
彼が時を止めた。
私とグレスは急いで広場から出た。
時が戻った広場は、魔物の血も死体も全ての痕跡が消えていた。
「なんだったのよぅ。スープ不味かったからお腹すいたのにぃ」
「お前は本当に文句が多いな」
「はい、すみませんでした」
無事豪華ホテルに着くと明るいライトとスタッフさんのお出迎えにホッとした。
はぁっ。プライスレスだねー。
「とりあえずご飯食べよう? グレスも一緒に食べられるかな?」
「私のことは気にしなくていい」
「なんで? 一緒に食べようよ。すみませーん! 彼も一緒に入れますか?」
「もちろんでございます。どうぞご案内致します」
宿のレストランの中でも最高級の店ではなく、1階にある少しカジュアルなレストランに入った。
席に着いてメニューを眺めているとさっきの男性と白ヘビが声を掛けてくる。
明るいところでみるとクマ酷いな〜。
徹夜十日目、栄養剤を胃に流し込んでるだけのガチの社畜の匂いがする。
(あくまでも比喩です)




