憧れの文化祭
「校門をくぐるのは初めてだろ? どうだ、我が高校は」
「おお~、壮大だ」
早朝の爽やかな空気が肌を撫でる。視線の先には太陽の光を反射して輝く真っ白な校舎。
姉の萩原千秋に誘われてオレは綺羅星高校の文化祭にやってきていた。
『シャインスターフェスティバル』
それは夏休みに地元の進学校で開催されているイベントだ。
高校生が催し物を開催して、学校中を一般客に開放するもの。
毎年、生徒の親族だったり、進路に悩んでいる中学生が高校の雰囲気を掴むために多く参加している。
「来年はオレも先輩方と同じように文化祭の準備に駆け回ってるんだろうな」
一般客の入場開始まであと一時間ということで、綺羅星高校の生徒たちは忙しく走り回っている。
「まるでもう受かったみたいに言っているが、和樹の受験はこれからだろ」
そう言って鼻をならす千秋姉さん。呆れたようにオレを見る目に負けじと言った。
「気持ちの問題だよ。落ちるかもと思うよりも、来年ここにいると考えたほうが勉強も捗るんだよ」
「まぁ、それでやる気が出るってんなら連れてきてよかったかな」
千秋姉さんは綺羅星高校の生徒会長。その弟であるオレが入学試験に落ちるなんてなったら、萩原家の汚点だ。
「ところで、オレに紹介したい人って誰なんだ? こんな朝早く、準備に明け暮れている中だとオレは邪魔になるのでは?」
「よく聞いてくれた。生徒会長権限で特別に文化祭の裏側を体験させてやるからついてこい」
「う、裏側? ちょっと怖いけど、わくわくする……」
オレの言葉にニヤリと意地悪く笑う姉さんに気が付かず、遠足に向かう園児のように校門をくぐったのだった。
「人手不足の穴埋め!? お、オレこの学校の生徒じゃないんですよ!?」
「大丈夫、大丈夫。そのために私の体育着を貸したんだから」
オレは姉さんの体育着を着て、二年生の教室で複数の女子生徒に囲まれていた。
「千秋の弟さん可愛い! 男なのに肌綺麗だし! 目もくりくりしてて、こんな弟欲しかったな~」
「和樹君、これはとても幸運なことなのよ。千秋の体育着を着れるなんて、うちの男子なら泣いて喜ぶわ」
体育着には綺羅星学校の校章と、前面には萩原と大きく書かれた白いゼッケンが縫い付けられてあった。
「つまりオレは急な病欠を埋めるため、今日一日ただ働きをさせるために呼ばれたってことか……」
「人聞きの悪いことを言うな。ここでいい印象を残せれば推薦にも有利に働くんだぞ? それがお前の利益だ」
「おお、確かに……なのか?」
「では、任せたぞ。これがスケジュールだ」
姉さんからもらったスケジュール表には、二重線がつけられた生徒の名前の上に和樹と書かれていた。
その生徒が担うはずだった仕事をオレが代わりに担当するのだろう。
そうして、姉さんに言いくるめられ、オレの文化祭が幕を開けた。
★★★
「ドタキャンとかありえない。私一人で見て回れってこと?」
スマホ片手に私の機嫌は悪かった。
友達の真美からのメッセージ。
『ごめん春香。急用ができて文化祭行けなくなっちゃった』
私は怒ったウサギのスタンプを返してスマホをしまった。
「それならもっと早く教えてよ。もう綺羅星高校の校門前に来ちゃったよ」
真美の志望校が文化祭やるから一緒に行こうと誘われて、興味がなかったけど付き合うことにしたのに。その本人が来ないんじゃ意味ないじゃない。
「せっかくだから、ちょっとだけ見てから帰ろう」
校門をくぐると、美味しそうな香ばしい匂いが漂ってきた。
左右に並んだテントでホットドッグやお好み焼きを作っている屋台を見て歩いていると、
「そこの美人のお姉さん。オレの作った萩原家直伝の焼きそ食べてみませんか?」
その声に振り向くと、萩原と名前のついた体育着を着た男子高校生が笑顔を浮かべていた。
思わず前後左右に首を動かすも、私以外に人はいなかった。
「わ、私?」
「そう、あなたですよ! スラっとしたスタイルの良いお姉さん。大学生ですか?」
まさか大学生に間違われるなんて。
確かに目の前の男子高校生はちょっと幼い顔をしているから、彼と比べると年上に見えるのかもしれない。
「いえ、あの。私、中学三年生です」
「えっ! オレと同い年……。あ、いや、年下だったのか~。ご、ごめんね! で、この焼きそば美味しいよ! 一皿どう?」
「あはは、まぁいいですけど、じゃあ一つもらおうかな」
「毎度あり~」
焼きそばを受け取る際に指が触れて、男子高校生がなぜか顔を赤らめていた。
勝手に高校生ってもっと大人だと思っていたけど、意外とそうでもないみたいね。
なんか、彼に親近感湧くなぁ。
綺羅星高校か。進路候補には入れてなかったけど、悪くないかもしれない。
焼きそばを食べながら、少しの高揚感が私を包む。
「ん~キャベツがシャキシャキで美味しい」
★★★
「中学生と大学生を間違えるとか……。あの子怒ってないといいなぁ」
焼きそば屋台から離れて、オレは次の場所へ向かっていた。
始動の準備を手伝った後、先輩から一人客引きしてくれと頼まれたから頑張ったけど、慣れないことはやるものじゃないな。
なんて思っていたら、次の助っ人先はとんでもないものだった。
「……し、執事カフェ?」
「あれ聞いてなかった? うちには厳つい男子ばかりで、執事って感じじゃないから和樹君が来てくれてよかったわ。千秋の弟だけあって可愛い顔しているし」
スケジュール表には調理室でカフェをやるとしか書いていなかった。
絶対わざとやったな千秋姉さん……。
「大丈夫。安心して、別に大したことはしないからさ」
「まぁ、やりますけど、何をすればいいんですか?」
「お客さんの注文を持っていって、話し相手になってあげるだけよ」
ただ雑談相手になればいいだけなら、大したことじゃないな。
オレにとっても休憩になるし、悪くない仕事だ。
「ただし、執事がコンセプトだから、ちゃ~んと女の子を立ててね?」
そんな考えを見越したのか、ぐいっと顔を近づけて念押ししてくる。
「わ、分かりました……」
「それならよし! ほら、さっそくよろしくね」
そう言ってオレは入り口に視線を向けると、調理室に入ってきたのは、おばあさん一行。
注文されたジュースとお菓子を持っていき、長々とした話を相槌をうちながら応対した。
「またね、和樹ちゃん」
「楽しかったわ~」
「またお越しくださいマダム」
オレはだら~っと椅子に倒れるように座った。
話を聞いてるだけでも疲れる……。
「やるじゃない。執事向いてるかもよ?」
「ははは……」
それは喜ぶべきなのだろうか。
でも、お客さんもこの先輩も楽しそうだから、オレ結構役に立ってるのかもな。
「あっ、ほら次のお嬢様が来たわよ」
オレはすぐに調理室の入り口へと向かった。
「いらっしゃいませ。お嬢様」
「えっ、あっ、焼きそば屋台の人だ」
入ってきたのはオレが焼きそばを売った、スラっとしたスタイルのいい女子中学生だった。
黒髪ロングで体の線がはっきりとした、すごい美人さん。
見た目は大人っぽいから大学生かと思ったけれど、同年代なんだよな……。
だ、大丈夫。今のオレは執事! 羊ではなく執事なのだから。
「その節は、お買い上げありがとうございます。では、こちらの席へ」
「わっ、さっきと全然雰囲気が違う……」
ふぅ、噛まずに言えた。
執事だと、仕事だと思えば、美人な同年代の相手でも緊張しない。
席に案内し、椅子を引いてあげる。
「お座りくださいお嬢様」
「は、はい……」
座る際に見えた彼女の耳はサンタが使役するトナカイの鼻みたいに真っ赤に染まっていた。
やっぱり、大学生に間違えたことを怒っているのか……。
よしっ、ならば最高の接客で上書きしてあげなければ。
「お飲み物はいかがいたしましょう」
「えーと……じゃ、じゃあレモンティーでお願いします」
「かしこまりました。お嬢様」
オレは胸に手を当てて軽く一礼し、執事のように穏やかな笑みを浮かべる。
まさに西洋のバトラー。
レモンティーとラベルが張られたポットをカップに注ぎ、プラスチックのトレーに乗せて戻る。
「お待たせしました。レモンティーでございます」
「あ、ありがとう」
彼女の手がぷるぷると震えている。
まずい、どうすれば機嫌を直してくれるんだろう。
よし、こういうときは褒め殺しだ。
「気品があるお嬢様にレモンティーはとてもお似合いです」
「そ、そう?」
あ、ほっぺたが赤くなった。
「あの……名前聞いてもいいですか?」
「オレの?」
「……はい」
「萩原和樹です。以後お見知りおきを」
「あのっ、私は榎本春香っていいます。進路はまだ決めてなかったんですが、来年、私も後輩として通うかもしれません」
おお、この子も綺羅星高校を受験するのか。
もしかして、オレのおかげ? なんて、自意識過剰。
でも、こんなスタイルのいい美人と同級生になれたらいいな。
「お嬢様と同じ高校に通えるなんて、喜ばしいことです。ぜひお待ちしております」
「そ、そんな、大げさですよ……」
オレ、執事向いてるかもしれない。
そんなことを本気で思うほどに榎本さんの反応がいい。
その後も他愛ない話をして彼女は上機嫌で調理室を出て行った。
「和樹君、接客上手すぎるわ。もうずっと執事カフェにいない?」
「いやっ、次の予定が詰まってますからっ!」
オレは慌てて調理室を出た。後ろから聞こえる残念という声を無視して。
この仕事、精神的にものすごく疲れる。
それなら、ずっと焼きそば作っているほうがいい。
「それで、次は……借り物競争?」
借り物競争の参加者欄に書かれた萩原千秋という名前に二重線が引かれ、萩原和樹となっていた。
「オレは千秋姉さんの代役かよ……」
★★★
「執事カフェ……はまっちゃいそう」
調理室から出た私は和樹先輩のことを考えていた。
焼きそば屋台で会ったときは、高校生に見えないほど子供っぽかったのに、執事カフェでは女を惑わす甘いフェイスに様変わり。口調とは裏腹な体育着というのも、逆にリアルで余計に意識してしまう。
「どっちが素の先輩なんだろう……」
ピーンポーンパーンポーン。
校内放送のアナウンス音が鳴り響く。
『萩原和樹、萩原和樹。至急、借り物競争へ向かうように』
女性の声が流れて、ブツリと切れた。
「萩原和樹って、さっきまで執事カフェにいた先輩?」
少し気になる。
同姓同名の別人ってことはないよね。
「借り物競争。一体どんな競技なんだろう」
私は競技会場であるグランドへと足を運んだ。
グラウンドの中央には白線で円が書かれており、競技者が一列に並んでいた。
さらにその外側には大勢いの観客で賑わっている。
私は運よく最前列の位置を取ることに成功したので、競技者の先輩方がよく見えた。
「あっ、やっぱり。あの先輩だ」
執事カフェから彼のことばかり考えている気がするなぁ。
和樹先輩を思うだけで心がもやもやするし、それを解消するために直接会いに来れば余計にもやもやしてしまう。
文化祭に遊びに来て、見ず知らずの男子の先輩を追いかけるなんて、私は一体どうしたんだろう。
『では、借り物競争のルールを説明します。まず走者はピストルの合図とともに、指令書を受け取ります。そこには、ゴールをするための条件が書かれていますので、それを達成しつつ一周走ってもらいます』
つまり、走力だけで勝負は決まらないということね。
『次に選手の紹介です!まずは、本日、我、生徒会長の代理として走ることになった我が弟。中学三年生の萩原和樹!』
えっ? 彼、私と同じ中学生だったの?
それならなんで、出し物に参加していたんだろう。
生徒会長の弟ってぐらいだし、もう入学は決まってるのかな?
それなら、来年、私が綺羅星高校に受かれば同じクラスになれるかもしれないってこと……。
『さぁ、選手紹介も終わりまして、いよいよスタートの時間です!』
レース開始前の雰囲気に私の鼓動は高鳴っていた。
★★★
「なんで司会やってんだ千秋姉さん!」
オレは姉さんがいるテントに向かって叫ぶも、マイクの音量にかき消されてしまう。
ここまで来たら絶対一位取って、俺の顔と名前を生徒と教師に刻んでやる。
パンッと乾いた音が響き、折りたたまれた小さな紙の指令書が配られる。
それを開き、
「嘘だろ……?」
『お~っと!どうした!指令書を受け取った者はみな、その場から動こうとしません!』
指令書に書いてあるのは、「恋人と一緒に手を繋いでゴールしろ」。
「ふ、ふざけるな! こんなの無理に決まってるだろ」
オレは司会席のテントへ視線を向けると、姉さんは可愛らしく片目を閉じて謝罪するように手を合わせていた。
あの反応……姉さんは借り物競争に出場が決まってからその中身を知って、オレに代役させたってことか?
ほかの出場者も一様に困惑して、誰も動こうとしない。
この中で恋人がいる生徒がいたら今頃、独走状態だ。
……待てよ?この文化祭にはたくさんの人が遊びに来ている。一人ぐらい頼めば恋人のふりをしてくれる女子がいてもおかしくない。
「なんて、無理に決まって……」
そう、首を巡らせた時。スラっとしたスタイルのいい、一見、大学生と間違えるほど大人びている中学生と目が合う。
オレの体は自然と観客の最前列に足を進めていた。
「榎本さん!お願いがあるんだけど」
「えっ!和樹……君」
オレの紹介アナウンスを聞いたのか、先輩呼びから君呼びに変わっていた。
くっ……なんだか距離感を感じてしまう。
いや、そんなことより今はやるべきことがある。
「その、借り物競争の指令書なんだけど……」
「あっ、なるほど。何が書いてあるか知らないけど、私なら条件に合うってこと?」
みなまで言わずに察してくれて助かる。
じゃないと、公衆の面前で告白することになっていた。
「そうなんだ! だから、一緒に来てくれたら非常に助かる!」
「うん、私でよければ力になるよ」
「ありがとう!」
オレは榎本さんの手を取って走りだした。
『お~っと! 和樹が女子の手を取って走りだしたぞ! まさか、まさかの! 代役参加の中学生が独走状態だ!』
姉さんノリノリだな……。
急いで走る必要もないので、オレは榎本さんと歩幅を合わせて走っていた。
「借り物の内容は何だったの?」
ギクッ。
「それに、その……手を繋ぎながら走るのは恥ずかしいっていうか……」
ギクッ。
「もしかして、異性と手を繋いでゴールとかだったり?」
ギクッ。
隠したところでゴールすればばれること……。
覚悟を決めて榎本さんに顔を向け、
「ごめん、怒らないで聞いてほしいんだけど」
「うん?」
「こ、恋人と一緒に手を繋いでゴールするっていうモノです」
「こ、こ、恋人……私が!?」
オレは榎本さんの手をギュッと強く握った。
ここで、逃げ出されたら一生の恥だ。
「ごめんっ! いくらでも謝るから、今だけは恋人のフリをしてくれ! 頼むっ!」
「いや、うん、別にそんな必死に頼まなくても大丈夫よ。乗りかかった船だもの、ちゃんと最後まで付き合うわよ」
あぁ……彼女が天使のように見える。
榎本さんの優しさにオレの目頭が熱くなった。
「執事カフェにいた大人びた和樹君はどこいったのよ……これもギャップ萌えの一種なのかしら」
『さぁ!我の弟がいちゃいちゃしながら、ゴールテープを切ろうとしています!』
本当にノリノリだな! 千秋姉さん!
心の中で毒づきながら榎本さんと一緒にゴールテープへ飛び込んだ。
『ゴォォル!中学生が綺羅星高校の並み居る生徒相手に独走勝利!』
やった、やったぞ。
オレは一位を取ったんだ。これは後で姉さんに飯でも奢ってもらわないと気が済まないぜ。
「あの、もう手は離しても?」
「あっ、ごめん!」
そういうと、暖かい温もりが手から離れていく。
『それでは、借り物の発表をいたします! 今回の借り物は~! なんと、なんと! 恋人と一緒に手を繋ぎながらゴールするというものでした!』
千秋姉さんの声に合わせて観客から口笛が鳴る。
はぁ、そうだよな。
別に恋人かどうかなんて分かるわけないんだから、最初から適当な女子に頼めばいいだけだったんだ。
『えぇ~、念のため、このゴールが有効かどうか確かめさせてもらいます』
ん? 確かめるってどうやって?
榎本さんもその発言に目を丸くしている。
『では! お二人にはここで! 恋人の証としてキスをしてもらいます!』
「おおおおおおおおおおおおお」
唖然としているオレと榎本さんを置き去りに、観客は今日一番の盛り上がりを見せる。
老若男女の笑顔が祝福の拍手と共にオレらに降り注ぐ。
まさに四面楚歌の中、オレは顔を赤く染めた榎本さんに向き直る。
「ごめん……もし嫌だったら断っても……」
「この雰囲気で断れって? ……そんなの無理よ」
『さぁ、さぁ! お二人さん、準備はいいかい? 行くよ! サン! ニイ! イチ!」
男は度胸だ!
オレは榎本さんの肩に手を置き、
「榎本さん」
「……せめて、名前で呼んで」
「……春香」
「……和樹」
「んっ……」
唇がぶつかると、甘い香りが鼻腔を満たし、脳が溶けていく感覚がした。
オレが離れようとすると、春香の唇が押し付けられ、春香が離れようとするとオレの唇が追いかける。
次第に息が続かなくなって、どちらともなく、顔を離した。
「ぷはぁ……」
『うおおおおおおおお! 情熱的なキス! これは紛れもなく恋人同士で間違いないでしょう!』
「ひゅーひゅー」
「お熱いね~」
「あんな美人とキスとか羨ましい……」
そんな野次が飛ぶ中、無事借り物競争の幕が閉じたのだった。
文化祭が終わり、綺羅星高校の生徒たちが撤収作業に入ってる頃、オレと春香は校門の前に立っていた。一般客も帰宅し、閑散としている。
「今日はごめん。変なことに巻き込んじゃって」
「別に……私も楽しかったし」
冷静になって改めて春香を見ると、出るとこが出たスタイルのいい体に、対称性のバランスのいい顔つき、大学生のような垢ぬけた雰囲気を持つ、とんでもない美人さんだった。
オレ、こんな子とキスをしたのか……。
文化祭で姉さんの策略に嵌められてハイなテンションじゃなかったら、絶対にお近づきになれなかっただろう。
「ははは、そう言ってもらると嬉しいよ」
「ねぇ、ちゃんと責任取ってくれるんでしょ?」
「責任って……」
「……あれ、私のファーストキスだったんだから」
そう言って春香は顔を沸騰させて、ぷいっとそっぽを向く。
オレの目にその姿が堪らなく愛おしく映った。
「……春香、オレと付き合ってほしい」
「もう、順番が逆よ」
おかしくなって、二人顔を見合わせて笑い合った。
緊張が解けたオレは柔らかい口調で、
「来年は文化祭デートをしよう」
「でも、その前に受験頑張らなくちゃだね」
苦労の後には幸福が待っている。
綺羅星高校の校門前でそう誓い合ったのが良かったのか、オレと春香は無事入学を果たし、同じクラスになることが出来たのだった。




