第2章 2
なんとなく教室に居づらさを感じていたらしい。
翌日、二人は体育館の外階段に腰掛け、並んで弁当を広げていた。
「別に馴染めんわけじゃないねんけど」
と前置いて、凌空はぼやいた。
「気をつけてるつもりでも、どうしても方言出てしまうやん。そのたんびに毎回突っ込まれるんが鬱陶しいねんな」
「それでも気をつけてるんだ」
思わず本音がこぼれた。凌空は首を振った。
「悠希の前ではセーブしてへん。なんか標準語って堅っ苦しくて好かんわ」
そうだよな、と悠希は変に安心した。完全に大阪の祖父母の口調だったからだ。
「あと、女子ががめつい」
「がめついって?」
「すごい距離縮めようとしてくる。造ったみたいな声でやたら話しかけてくるし、ベタベタ触ってくるし」
悠希は吹き出した。それから、一度移動教室の途中で見かけた光景を思い出した。
スカートを短くした普通科の女子たちが集まって、何やらきゃあきゃあと嬌声を上げていたのだ。中心で囲まれていたのは凌空だった。青春漫画にありそうなシチュエーションだと、その時悠希は思った。
「好かれてるんよ」
凌空は端正な顔立ちをしているし、親しみやすい性格だ。いわゆる「モテる」タイプなのだ。しかし当人はふくれっ面で首を振った。
「嫌やねん。ああいうケバケバしたの好きちゃうもん。もっと奥ゆかしいっていうか、はんなりっていうか、知的で素朴な人がいい」
京都人らしいことを言う。
それから卵焼きを口に放り込むと、凌空は問いかけた。
「はるは好きな人おるん?」
初めて「はる」と呼ばれた。悠希は首を振った。
「いない。まだあんまり興味ない」
「と思った」
凌空はなぜか嬉しそうだった。