8女子高校生が目にしたものとは
「はぁはぁはぁ。」息が荒れたまま、私は腰をついた。朝の日差しが少しずつ私たちを照らしていた。
「セレナ?」剣城に声をかけられてついにはっとなった。目の前には、アルチュール、オーディン、そしてジョセフの遺体があった。
「セレナ!」今度は違う声のセレナが聞こえた。
「サツが近くに来ている。銃声を聞いて誰かが通報しやがった。お前ら二人は急いでつらがれ。」
この早口声。ふと顔を上げてみると眼鏡をつけたコープスがいた。彼は、オフの日には眼鏡をかけている。こんな朝方に来てもらって申し訳ない。他にも死体処理部隊のメンバーが揃い来ていた。
「あ、あぁ。行くぞ、セレナ。」私は剣城に起こされ立ち上がった。
「‥待って。」私は足を止めた。剣城が私の肩を持った。
「ジョセフ、ありがとう。」そう一言行って再び歩き出した。
「現場から離れたとはいえど、人が多いな。あいつら間に合うのか?」貫禄のある声で剣城が喋り始めた。
私は歩くのに精一杯でそれどころじゃなかった。
「もう少しだ。頑張れ。」私は剣城とウメが乗ってきた車で帰ることになった。ジョセフと私が乗ってきた車は後から回収する。
ガチャ
「あ、ありがと。」
「一旦休憩しよっか。」
「うん。」
車内は寒さをかき消すような劣等感に襲われた。今日一日で一体何人の人が死ぬのを目の当たりにした?剣城がいなかったらやばかった。
プルルルル!
「うわっ!びっくりした。はい、もしもし?」剣城のスマホに連絡が入った。私は剣城の声を聞きながら外の車窓を眺めた。この時間になれば、制服を着ている学生もいればスーツを着た人もいる。犬の散歩をしている人にキャリーケースを運ぶ人。十人十色の人間が今日を始めようとしている。でも、共通しているのは笑っている人はいないということ。電話越しにお辞儀をする人すらいる。みんなマフラーを巻いて手袋をつけている。冬は明るい時間が少ない。同時に、笑う時間も少ない。みなそうなのだ。同じ苦しみなのだ。
私だけじゃない、私だけじゃない。苦しいのは私だけじゃない。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
コンコン
剣城が電話をしている途中、運転席側の窓が叩かれた。そこには、ガタイのいいスーツを着た中年男性が数人いた。奴ら、まさか‥!
「ちょっと待ってろ。はい‥」剣城が窓の扉を開けようとした。「開けるな!」剣城は私を見つめて再び窓の外を見た。
「セレナ、こいつら、私服警官だ。」
「知ってる。やっぱりつけられてたか。」
「マズイな。逃げるしかない。しっかり捕まってろよ。」
窓の外から窓を叩いたのは、私たちのことをつけていた私服警官だったのだ。これはまずい。朝方の通報からただの警官ではなく私服警官が出動したのだ。
「逃げるぞ!」
ブォン!ブォン!ブォォォォォ!
剣城はアクセルを踏み、その場から離れようとした。
私は自分側の窓を開けて小銭を落とした。
「おい!待て!」
外からは根太い声が聞こえた。私たち殺し屋の存在を突き止めるサツだ。そーゆう部署があるんだろう。
ガチャァン!
「セレナ、どうする?!」剣城はゲートバーを突き破り吉祥寺駅とは反対方向に車を走らせた。
「偽アジトに向かう。方向を言うから従って。」剣城はおっけーと車のスピードを上げた。
バン!バン!
「うおっ!あいつら、撃ってきやがったな!」
「落ち着け!二つ先の信号を左だ!」
ガチャァン!
「おっと危ない。しっかり捕まっとけよ!」剣城は荒い声を上げ、ハイレベルな運転技術を見せた。
「止まれぇ!」私は窓を開けて後ろを確認した。
バン!バン!
「あっぶね。」私は自分のトカレフを取り出し、後を追ってくる車に撃った。
バン!バン!バン!ガチャン!
「よっしゃ!ナイスセレナ!」私は警察が乗っている車のタイヤの二つを破壊した。
「爆発した。そこを右に曲がれ。偽アジトにいる人間は全員避難させたから。」
「仕事が早いな。あと、俺のトカレフに弾を補充しといてくれないか?」私は剣城の持っているトカレフに予備の銃弾を入れ込んだ。
「このまま真っ直ぐ行って居酒屋が見えたらその地下だ。着いたらすぐに降りて着いてこい。」
私はため息をついて5分のタイマーを開始した。そして、事件後処理部隊のセカンドヘッド、リアムに連絡をした。
「もしもし?立川方面のアジトを爆破する。このまま連絡を繋いでおくから私が合図をしたらスイッチを押して。」
『りょーかい。』私はポケットから耳栓を取り出しスマホと連携した。これは、超小型イヤホンだ。ミリ単位ほどの大きさしかなく自分の耳の型に作られている。落ちることも絶対にない。
「着いたぞ。」私たちは車を降り、居酒屋の鍵を開けた。ここの居酒屋はリアムが営業している居酒屋だ。加えて、事件後処理部隊の偽アジトでもある。
ゴォン!ガン!
「待て!止まれ!」後ろから猛スピードで車が突っ込んできた。サツだ。いつまで着いて来やがるんだよ。
「剣城離れろ!」私は剣城の腕を思い切り引っ張った。
バァァァァァァァァァァン!!!!!!
「何だこれ?!」
私は剣城とともに居酒屋の地下の階段を降った。私たちは私たちが乗っていた車に仕掛けておいた爆弾を放火させたのだ。そうすることにより、入り口を塞いだ。しかしこれは時間稼ぎ。いつ破られてくるかなんて分からない。
「リアム?聞こえる?」
『まだか?!お前のタイマーあと何分だよ?!』
「2分30秒!」
『それまでに抜けて来いよ!』
「あぁ。警官どもを中におびき寄せて爆破する。」
『りょーかい。』
私たちはまるで光速のように階段を駆け降りた。ここは地下13階まである。地下12階まで行けばもうこっちのもんだ。地下12階には、大量の武器庫が設置してある。そこまで行き10秒で弾を回収して非常扉から脱出する。完璧だ。抜かりない作戦。仲間たちの命を無駄死にはさせない。
『あと40秒!』叫び狂うようにリアムが叫んだ。
ついに私たちは地下12階に辿り着いた。
ガチャン!ガチャガチャン!
「セレナ!もういいんじゃないか?」
「まだだ!もう少し!あと少し!!」
『残り20秒!』
「もう行くぞ!」
バン!バン!
「うっ!」
「剣城!」剣城の脇腹に銃弾が撃たれた。
「止まれ!警察だ!」扉のすぐ近くに3人の警官が銃を構えていた。
『残り5秒!4!3!2!1!逃げろ!』
バァァァァァァァァァァァァァン!ガチャァァァァァァァァァァア!!!!!
「うわぁぁぁぁ!!!!!」一人の警官が悲鳴を上げた。私たちのいた武器庫は一瞬にして炎炎とした世界に包まれた。
バン!バン!バン!
何発もの銃弾がこちらに撃たれてくる。その一つが私の頬を微かにかすった。
同時に、武器庫を出た廊下の天井にぽっかりと穴が空いていた。そこから、怪しげな紐がぶら下がっていたのを私は見逃さなかった。
「掴め!セレナ!」私は剣城の腹回りに自分の腕を巻きつけて片方の手で紐を掴んだ。その途端、ぐんぐん上昇していき、あっという間に明かりが灯る地上に叩き出された。私たちはヘリコプターからぶら下がっていた紐に助けられたのだ。
「セレナ!つかまれ!」ヘリの中から手を差し伸べてきたのは、リアムだった。
「リアム?!何でここに?!」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンン!
乗り込んだヘリは空へと飛び立った。リアムは私たちをヘリ内の奥に誘導し、扉を閉めた。
「大丈夫か?」
「本当に助かった。よく間に合ったね。」リアムは得意げな顔をして運転席に座った。
「リアム?救急箱ってある?」
「床の扉に入ってる。」私は床にある取っ手を持ち上げて中から救急箱を取り出した。
「ちょっとかすっただけだ。少し我慢しろよ。」私は剣城の撃たれた箇所にタオルを当て、応急処置を施した。そして、剣城は辛そうな顔をしながら口を開け喋り始めた。
「にしてもすげぇな。あんな建物に爆弾を仕掛けておくなんて。大したもんだ。」
ki殺し屋の偽アジトは全国に数えきれない程設置してある。一箇所消えたらまた一箇所増やす。そんなことを繰り返しているうちに増えていったのだ。その内の東京都内にある偽アジトには爆弾が仕掛けられてある。この爆弾を起動できるのはリアムたった一人だけなのだ。
「お前は黙ってろ。今、本部に向かってるから。」かすれただけとはいえ、身体と銃弾が少しでも触れたら本人にとってかなりの致命傷だ。喋るなんて御法度だ。
「リアム、あと何分で着く?」リアムは15分と答えた。多少時間がかかるが、対して問題ない。そして本部に行ったら大量の怪我人がいるに違いない。撃たれたアルチュール、オーディン、ジョセフ、ジョセフの手下達、そして、ウメ。全員の回収に成功していればこのメンバーだ。回収に失敗すれば、警察やら救急隊やらが回収してしまう。それだけは避けたいはずだ。
プルルルルル!
私のスマートフォンに一本の電話が入った。
「はい、もしもし。」
『セレナか?コープスだ。通知がきたぞ。立川のアジトが爆発したってな。』どこかのアジトが爆発を起こした時、私たちのスマホに自動的に通知がくるようになっている。
「まぁな。剣城が少しかすったんだ。手当てしてやってくれ。」私はダメ元で聞いてみた。
『こっちすげぇ怪我人なんだよ。全員やべぇ状態だよ。一応医者やら詳しいメンバーに手当てしてもらってるけど。こっちに来たら詳細を話す。』
「りょーかい。」
私は電話を切った。そっか。そんなにも重症なのか。
私は、思い違いをしていた。ジョセフ以外の8人は即死だと思っていた。しかし、ジョセフに撃った私の弾は彼の急所を外しているはず。脚というほぼ第二の心臓を撃ったが彼の足は根太く、自分で止血をすることができる優れ者。そんな彼が簡単には死なないと思っていた。
「着いたぞ。」私は窓の外を覗いた。Pと書かれてある屋上にはコープスがいた。
ゴォォォォォォォォォォ!
「セレナ!担架でコイツを運ぶのを手伝ってくれ!」私は嫌な顔をしながらも運ぶのを手伝うことにした。
「ありがとう!リアム!」扉を閉める寸前に、リアムに感謝の意を伝えた。
「剣城、痛い?」
「少し痛いが、大きな損傷ではない。」剣城は顔中に汗を流していた。これは、大丈夫そうでないな。
「こっちだ!一人追加!」そこには、想像を絶する光景が目に映った。私は担架を降ろし、彼女の元へ歩み寄った。




