67セレナの暴走
本多の一言で車内が静まり返った。刑事に挟まれ、窮屈の中、何もできない。
クソ。このまま署に連行されたら逃げ出すのはほぼ不可能。それだけは絶対に避けたい。
どうすれば、刑事を振り解いて逃げられる?私は自分の身なりを確認した。奇跡的に手錠はされてない。さらにはポケットに武器もある。こちらから攻めるのはかなり優勢。
あとは、タイミングのみ。署に入るまでに決着をつける。
視線の先が定まらず、呼吸が浅くなった。勝手に瞼が閉じたり開いたり、ウィンクをしてみたり。座っているのに背中を預ける場所が見つからない。
その間にも刑事達は低く声を発する。
「———着いたぞ。降りなさい」
指示通り車を降りた。
“武蔵野警察署”
文体が浮き出て見えて首根っこを掴まれた。
一旦、周囲を見渡して。
「あ、あの.....」
「なんだ?」
手元にはナイフが握られていた。
「藤沢———!」
一瞬で、地獄になった。
「はいはい静かにしてくださーい」
背後にいた一人の刑事の右太ももを何度も刺した。彼は小さく悲鳴を上げた。その度に口元が緩み笑いが起きた。
「うわっ。鬱陶しいな!」
「やめろ!」
「ふぉぉ!死ね死ね死ね!」
刑事の下敷きになりながらも背中を何度も刺した。血が宙を舞い頬にこびりついた。
「藤沢!」
「あれ?反応止まった。よいしょっと」
「動くな!」
気づけば刑事の動きは止まった。死んじゃったのかな?
「この人、死んじゃった?」
下を指差すと、本多ともう一人の刑事がこちらに銃口を向けていた。
「なに?撃てるの?ここ市街地だよ?」
パァン!
「警察を、甘く見るな」
うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇ———!
「お前ら全員死ねぇー!」
目の前にある敵を排除しなければ。
パァン!パァン!
2発、武蔵野の街に銃音が鳴り響いた。返り血を全身に浴びた。これは一体、誰の血だ?
「貝!」
「直?」
目の前から人が消えた代わりに、直之が拳銃を持って現れた。
ちょっと待って、私、なにして、どういうこと。
「貝ちゃん?貝ちゃん!」
「なんで、ここに」
「お前が連絡したからだろ?!それより何やってんだこれは!相手は刑事だぞ?」
コアは激しく肩を揺らして頬を叩いた。
「つらがるぞ」
腕を掴まれコアは勢いよく走り出した。
『止まりなさい!』
後ろからまた別の刑事の声がした。まずい、振り返るな。絶対に。
「.....しね」
パァン!
「がばぁっ———!」
「貝ちゃん?貝!」
じんわりと、胸が熱くなった。視界がぼやけて口元に血がつく。甘い味がした。
「くそっ」
パァン!パァン!パァン!
コアの銃声が鳴り響いていた。耳鳴りなのか、銃声なのか、聞き分けができない。
そのまま視界が暗くなり、コアの腕の中で静かに眠った。




