64本多vs藤沢
「着席。」
学級委員が声をかけると同時に全員が腰を下ろした。窓際の席になると、座っているどんな時でも優しいそよ風が頬を撫でる。髪をかき上げたところで意味はない。
少し段差がある教卓で担任が話をし始めた。
「今日は午前中に地元の刑事さんと講習会があります。みんな失礼のないように。」
クラスの雰囲気がパッと明るくなり、授業がないことをみんなで喜んだ。一軍男子たちは猿のように叫んだ。女子たちも彼らに便乗して互いに喜び合った。
「お前ら真剣に取り組めよー。」
担任が声をかけても収まらない。うちのクラスは学年の中でも問題児が多いとされている。全学年の教員から常時ロックオンされているのだ。
「それじゃーホームルーム終わりまーす。はよ号令。」
「起立、礼。」
学級委員が号令をし終わると、みんな各自行動に出た。友達の元に行き机上に頬杖をついて団欒を楽しむ生徒。大人数で廊下に出てトイレに行く生徒。定規戦争をし出す生徒。対して私はどうだ。一人虚しく席につき本を読んでいる。今の状況で平常心を保ち他の生徒と喋れるわけがない。もう少し時間が経てば刑事たちとご対面なのだから。
腕時計を確認すると針は8時半になろうとしていた。
「あのさ、講習会って何時からだっけ?」
「9時に整列完了だよ〜。」
「ありがとう。」
後ろにいる私と同じような読書好きな女の子に話しかけた。彼女は躊躇いもなく質問に応答してくれた。彼女を見るたびに、私もこんな無垢な心を手に入れたいと思う。
「お前ら時間だぞ。はよ並べ〜。」
突然教室の電気が消された。何事かと思ったがただ担任が迎えに来ただけだった。
クラス中がワッと盛り上がりを見せた。めんどくさいと少し前までの興奮はどこかに消えていた。
「ぐちぐち言わなーい。」
私は人混みの中に沿って教室を出た。出席番号順に整列するもすぐに解けて各自自由な位置に立つ。藤沢の”ふ”は比較的後ろの方だった。担任と話すのが嫌いなので、私は持ち場よりもさらに後ろに下がった。
狭苦しく変化していく廊下で何十人もの人間が進行を始めた。
♢
「それでは、本日お世話になる武蔵野警察署の皆様です。」
鬼の顔をした主任が刑事たちの紹介に回った。
「本日は武蔵野警察署から3名の方々がお越しになりました。右から、自己紹介をお願いいたします。」
ガタイのいい男が3人横並びに並んでいた。左に一番背丈のある刑事、中央に本多、その横に本多よりも少し高い刑事がいた。
「はい。武蔵野警察署、組織犯罪対策部に所属しています。木村沢朗です。本日はよろしくお願いいたします。」
「同じく組織犯罪対策部の本多と言います。」
チビのくせに偉そうにしやがって。何が、本多と言います、だ。その名前を名乗るな塵カスが。
「澤村恭輔です。今日は皆様に不審者に襲われた時の護身術を学んでいただきます。」
順調に進む講習会。意外にも耳を澄まし沈黙して話を聞く生徒たち。全てが重なり苛立ちを覚える。
「それでは、隣の子とペアを組んで今見せた手解きをやってみましょう。」
あーめんどくせぇなー。
こんなことよりもコアたちは上手く潜入操作できてるかな。アルチュールとは仲がいいから連携は取れてるはず。それよりも練馬の保険会社が用心深く、私たちの正体がバレなきゃいいが。
コアは今年から共に仕事仲間として走り続けてくれた。優柔不断な私を裏から支え、時には頼れる先輩となっていた。互いに父親を失った時も互いの穴を埋めるようにした。
アルチュールは本当に縁の下の力持ち。もうこうとしか言いようがない。彼は表向きに活動することが極めて少ない。彼は幹部の中で唯一の既婚者であることが理由である。私やチームなんかよりも家族を重宝している。
今年は”変化”としか自分を言い換えられない。普通の高校生だった私を殺し屋という道に連れて来たジョセフ。彼に育てられいなかったら今の私はいない。と、思うかな。
「あの.....白夜さん?」
「え、あごめんなさい。えっと、手解きだっけ?」
私は隣の生徒と手を組みいつもより力を緩めた。




