58上へと続く闇
『続いてのニュースです。
6年前、千葉県勝浦市で起きた『勝浦一家相殺事件』について、新たな動きです。
この事件で家族7人が死亡したとされる一連の殺害について、警察はきょう未明、白川春綺しらかわ・はるき容疑者を殺人の疑いで逮捕しました———』
私はアナウンサーが話している途中でテレビを切った。数日前から左の肩甲骨が痛んでおり、マッサージをする度に悪化することはわかっているが、ついつい楽になるためにマッサージをしてしまう。
そのままの勢いでソファに座った。
「今日の夜ご飯どうする?」
「う〜ん、オムライス!」
「また〜?まぁいいけどね。」
キッチンで夕飯の支度をしているのは、元死体処理部隊ヘッドの手下、亀橋梅花だ。通称ウメ。
彼女は少し前に治療が完治し無事に退院した。武蔵野市の井の頭公園で撃たれた以来、外の世界に復帰することができた。林村の迅速な治療のおかげだ。
このように時々彼女はご飯を作ってくれる。学校用の弁当の作り置きも作ってくれている。
「勝浦の件、大変だったな。」
ウメはため息をつきながらテレビを見た。台所からリズムのいい包丁の音が聞こえてきた。
「あぁ。勝浦の件についてはまだまだ調べ足りてない気がするんだ。クララが言っていた”ある者”とは一体誰なのか。ロルバンが白川家を殺そうとしていたことも気になる。」
「なんだかまだまだ奥がありそうだ。トップはジョセフや勝地だけじゃないようだな。」
私はうんと頷いた。暖房の音と料理音が見事にマッチしていた。
この音を聴きながら立ち上がり自室に向かった。
「夕食できたら呼んで。」
「あいよ。」
去り際に呟いて扉を閉めた。
このマンションはかつてジョセフと住んでいたところだ。一人二人暮らしにはちょうどいいサイズ感であり、フリーWi-Fiも常備してある。駅近な最高の物件だ。仕切られている部屋の一つが私の部屋、もう一つがウメの部屋としていた。
私は『kai』と書かれた看板の部屋に入った。茶色の机と黒いキャスター付きの椅子。大きな本棚がいくつもあり部屋中を覆っていた。
椅子に座り、引き出しにある資料たちを取り出した。白川一家の家系図のコピー用紙だ。
家系図を机の上に広げるとかなりの大きさになる。確かに、父親である悠仁の弟欄にロルバンの名前が書いてある。クララが言っていることと同じ状況だ。
そしたら、彼女が言っていた”敵”とは、教景と彼女以外だったということになるのか?
会議室での出来事の後、警察署に出頭しようとしていたクララを呼び止めて”ある者”を尋ねた。
♢
『もう、これからサツに行くのか?』
廊下を歩く彼女の背中を追いかけてそっと後ろから声をかけた。クララが振り向いた瞬間、鋭い視線をすぐさま感じた。
『もう逃亡生活には飽きたからな。』
『......最後に、聞きたいことがある。』
『なんだ?』
『ロルバンと連絡をしていたっていう、”ある者”とは、何者なのか。本当に知らないのか?』
私は彼女に一歩近づき顔を険しくして言った。クララは目元、鼻先、唇の全ての動きを変えないまま静かに答えた。
『ジョセフなんかよりも、もっと上の方。』
彼女が溜めて答えた答えがこれだった。
『上の方?』
『きっと、君のことなんか道端に転がり石ころほどにしか思ってないよ。あの方に会えるのは、ごくわずかな人間だからね。まぁ、君ならもしかたら会えるかもね。』
クララは全てを言い切ったような顔をして再び歩き出した。その背中は、今まで背負っていた業を脱ぎ捨てて殻だけになったように見えた。
呼び止めようとした足が自然と止まる。
決して呼び止めることなく彼女の後ろ姿を見つめた。
♢
“ある者”から呼び名が”ある方”に変わった。この”ある方”というのがロルバンと電話をしていた相手なのだろう。
マジで誰だ?
一般人に戻った教景も知りたがっていた。”ある者”の正体を。
日本の裏社会を牛耳る本当の黒幕が、まだいるのかもしれない。
新たなステージの幕開けな気がした。
「ご飯できたから冷蔵庫入れておくよー。帰るねまたね〜。」
リビングからウメの声がした。私は、はーい、と返事をしてスリッパを履き替えて部屋を出た。




