55正義も悪魔もない場所で
「クララの元までどれくらいある?」
私は一歩前に歩いているナハトに声をかけた。
「うーん....2、3分くらいじゃない?」
彼女の機嫌を損ねないように、念の為に私一人でクララのところに行くことにした。
無論、私が一人で倒すわけではない。木製のハシゴから抜けて階段を上がっていくコア班がいる。
無線機から合流の声をかけて一斉に突入する。
「武器持ってないよね?!」
「持ってないよ。」
バッ!っと、いきなりナハトが振り向いた。目を背けたくなるような開眼ように瞬時に眉間を寄せた。
「そんなに驚かないでよ〜。ごめんごめんね。おばさんがこんなことして。」
ナハトの態度は一向に戻らない。もともとこういう性格なのか、それともフーリンと同じようにアルコールが入っているのか。でも微かに酒気を感じられた。
しばらく狭い通路を辿った。途中にある浅い階段に転びそうになった。その度に彼女は”気をつけて”と気遣ってくれた。
「もうすぐだよ。」
彼女がそう呟いた後、歩く足が止まった。私はどうしたの?と話しかけた。するとナハトは、手に拳を作りながらため息をついた。
「本当は、お酒なんか入ってない。ここまでずっと、このテンション感を維持するための演技だった。」
「は?」
さっきとはまるで人が変わったように喋り出した。
「訳あって、わざとバカ明るくしてたんだ。」
「どういうことだ。」
私は彼女から一歩下がった。足元に隠してあるナハトが捨てた拳銃をいつでも手に取れるように腰を低くした。
「実を言うとね、私たちラビットアサシンの当主は勝地洋輔だった。だけど、実際作ったのは春綺ちゃんみたいなものだから、彼女が実権を握っていた。ここは春綺ちゃんによる独裁政治状態だった。」
「何が言いたい。」
「フッ。私だって、もともとはフィリピンで企業を立ち上げようとしていた一般人だったんだ。けどそこでリストラにあって当時の立場を失った。途方に暮れていた私をスカウトしたのが、当時グループのメンバーを探していた春綺ちゃんだった。」
カチッ
「てめぇ、死にたいのか?」
私は足元に隠し持っていた拳銃を構えた。正直これは時間稼ぎにしか思えなかったからだ。
「お互い武器は捨てるって約束じゃん。しかもそれ私のだし。」
ナハトは苦笑いを浮かべた。気味の悪い表情が徐々に常人のような顔に戻っていった。人間味のある笑いをそっと浮かべいた。
「クララの元に連れて行け。」
「フーリン...私も、もう限界なのかも。」
ナハトは首を傾げ上を見上げた。灰色の汚れた天井しか見えない。彼女には一体何が見えているのか。
そして視線をこちらに戻した後、一歩、二歩とこちらに近づきついには銃口が額に当たるほどの距離まで詰めてきた。
「フーリンも、同じような選択をしたのかな。」
ナハトは何も言わないまま、一粒の涙を流した。頬につたる美しく透明な雫のような涙に見惚れてしまう。
「フーリンも、同じようなことを言っていた。」
私は何かを察した。そして続けてこう言った。
「”私は君のようなチームに憧れていたのかもな”」
「そんなこと、フーリンが言ったのか?」
「うん。はっきりと。最後まで笑ってたよ。」
「ハハ。フーリンらしいね。」
女性らしい笑い声と笑顔が彼女にはピッタリだ。無理して作る自分像なんかよりも、理想像なんかよりも、一番に笑って何も包み隠さないその姿こそが誰よりも輝いていた。
「君たちはなぜ、敵である私を殺さない。」
最後に、私はナハトに問いかけた。
ナハトは驚いたように目を見開いた後、少し目を薄めてこう言った。
「藤沢貝という女は、『才女であり頂点である。』ロルバンなよくこの異名を口にしていた。もちろんロルバンのことは知り尽くしているよね。」
私は頷いた。
「彼が異様に君のことを良く話すから一体どんな子かと思ったよ。身長が高くて険しい顔をしている子なのかと、思い違いをしていた。いざ蓋を開けてみればただの女の子。いい意味で裏切られたよ。」
「あなたたちは一体、何者なんだ?」
「私たち?確かに、考えたことなかったなぁ。私って、春綺から見てどんな人なん.....」
パァン!
「?!.....」
ドサッ
ナハトが言いかけたその瞬間、彼女の頭が吹っ飛びこちらに血飛沫が飛んできた。
ナハトは私の体に寄りかかるようにしてその場に倒れた。
私は衝撃のあまり、体が硬直した。
銃声がした方に目を向けた。それもゆっくりと。
「はぁ、はぁ、はぁ....!お前が、教景のっ!」
そこには、白川春綺がいた。
バン!
私はすぐさま彼女めがけてトリガーを引いた。
「クッ....この塵カス野郎どもがぁぁぁ!」
クララは撃たれた箇所である脇腹を抑えながらこちらに向かって走ってきた。
「しねぇぇぇぇぇ!!!!!」
見えなかった。彼女の手にはさきの尖った鋭い刃物があったのを。
私はそれを避けようとしたが、体が反応しなかった。
もうだめだ、刺される、と思った。
私は覚悟して下を向いた。
「え?」
痛みは何も感じなかった。
なぜなら、目の前には.....
「のり、かげ?」
バタン!
私の目の前には、クララの刃物によって刺された教景がいた。
??????次回、全てが明らかになります。??????




