52襲来④
「瀬戸、風華......?」
「そうです!フーリンです!」
どういうことだ?つい数秒前まで上から銃声が聞こえてた。それはフーリンが愛用している長距離銃の銃声と同じだ、と、敵ながら仲間であるロルバンに教えてもらった。
そのため、私たちはフーリンが遠くから銃を撃っていると思い込んでいた。
しかし今、目の前には背後から近づいてきていたと思われるフーリンがいた。
彼女静かに背後に立っていた。背後に人が立ち、気配を感じるということ、これは私の唯一の弱点だ。
ラビットアサシンのNo.3の女。女にして遠距離銃を軽々と扱う。特別背丈に恵まれたわけでもなさそうなのに。
フーリンはゆっくりと歩いてこちらに近づいてきた。
「本当は、あそこの階段上からお前たちを撃ち殺す計画だった。」
彼女は黒いロングコートを羽織っていた。腰の位置あたりにポケットがついていたが、なぜか白い糸で縫われていた。
「ちょっと、腹割って話したくて。」
パァン!
私は彼女に銃口を向けた。
「くっ。」
トリガーを引いてフーリンを撃った。そして彼女は小さな悲鳴をあげた。左の二の腕から、ポタポタと血が流れ出た。
ロルバンの血に加えて、コンクリート製でできた床が更に血に染まっていった。もはやどれが誰の血なのかが分からなくなっていた。
私は躊躇なく敵を撃った。
「貝ちゃん、そんな簡単に人撃っちゃダメでしょ。」
「お前がその名を言うな。」
フーリンは笑いながら右手で腕を押さえた。そして鋭い目つきで彼女を睨みつけた。
「腹割って話す?なに言ってんだ。」
「はは。ロルバンから聞いてた通りの子だね。」
「ロルバンとどんな関係だ。」
「う〜ん.....なかま?で合ってるのかなー。」
カチッ
「おっとごめんね。」
私は銃口を少し傾けて脅した。しかし彼女は少しの怖がりも見せなかった。腕を押したまま絶対に視線を逸らさずに。気味の悪い女だ。
「なかま?何ふざけたこと言ったんだ。」
私は敵に怯むことなくロルバンのトカレフを構え続けた。決して弾道をズらさず、右目を閉じていつでも撃てる体制に入った。
「私は、この通り何も武器を持っていない。君を攻撃する気なんてないよ。」
穏やかな口調は誰かに似ていた。見た目に反して女性らしいかけ言葉で落ち着く。
「なぜお前はここに来た?」
「なぜって、君が私のこと殺そうとしたからでしょ?それに、逆にこっちが聞きたいよ。なんでここにいるの?ってね。」
フーリンは少し顔を傾けて口角を上げて笑っていた。背筋が凍るような恐怖と圧。私は彼女を見るに耐え難かった。
「ここの人に用があってね。」
「う〜ん、ここの人って誰かな?もしかして今回の依頼のターゲットとか?!あっはっは!それは面白いね!春綺ちゃんの言ってた通りだ!」
春綺?いま、はるきって言ったな。彼女の口からクララの存在を確認できた。しかも怪しまれずに。これは有利なチャンスだ。
クララがホシだということはあえて明かさずに彼女を囮にしてクララの元に連れて行くか。
それとも、クララがホシということを伝えて情報を得るか。
彼女の態度、顔つき、テンション感からして過度のアルコールを摂取しているだろう。こちら一歩近づいた時、鼻が麻痺するほどきつい臭いがした。思わず鼻の穴を塞ぎたくなる。
「お前、酒入ってるだろ。臭いがきついぞ。」
私が鼻をつまむとフーリンは自分の身体中の匂いを嗅いだ。
「うわ〜ほんとだ〜!ごめんね。」
また笑ってるこの女。
目の前で銃を向けられ、かつ一度撃たれているのにこの笑いざま。平常人間ではないことは確かだった。
私は一呼吸おいて、彼女に近づいた。
「ほんとのことを言うとね、君たちの仲間のクララに用があってね。彼女の元まで連れて行って欲しいんだ。」
「な〜んで?春綺ちゃんに話したいことがあるなら私が良いように言っておくよ!」
私はさらに前に進み銃口を彼女の二の腕に押し付けた。私が撃ち怪我をさせた箇所だ。
フーリンは少し苦しそうに笑った。
「痛い痛いっ!」
「いい加減にしねぇと撃ち殺すぞ?」
「いいよぉ。でも、春綺ちゃんの場所は教えられないよ?」
「敵に殺されるくらいなら、私がお前を殺す。」
パァン!
フーリンは最後まで笑いながらその場にしゃがんだ。私は目の前の人間を躊躇いなく殺せる人間だ。
「君の....その...銃って..ロルバンくんの、ものだ、ね。ははっ。君の仲間は...うら、やましい、なぁ。」
「なにいってんだお前?」
「君は、仲間を重んじる。裏切り者のロルバンでさえも、仲間として見てる。ラビットアサシン、いや、私は君のようなチームに憧れていたのかもな。」
バタン!
黒のロングコートが地面の血塗りを隠すようにした。
フーリンはロルバンに寄りかかるように寝転んだ。
そのまま何も言わずに静かに目を閉じようとした。
「てめぇ、クララの居場所を言え。」
私もしゃがみ彼女の胸ぐらを掴んで聞いた。彼女はハッとしたような表情を見せた。いま、彼女は死に際に立とうとしていた。
「さい、じょうかいのへや....クララを...殺して、くれよ、な———」
完全に瞼が閉じた。ロルバンと顔を横並びにして、二人で仲良く黄泉の国へ行った。
『セレナ?大丈夫か?』
無線機から声がした。
「フーリンは、殺した。」
『は?』
「このまま最上階に行く。詳細は後で話すから階段途中で合流しよう。」
『......了解。』
コアは少し勿体ぶりながら了解と言った。
私は無線機を腰の位置に戻し、立ち上がった。
『君のようなチームに憧れていたのかもな。』
脳裏に焼きつくこの言葉。
私は、瀬戸風華という人物のありとあらゆることを知っているわけではない。身近にいた人間でもないし家族でもない。
それは彼女から見てもそうだ。
私という存在感は”敵”ということにすぎない。
そんな彼女がいま、私のことを羨ましがった。
私はトカレフの残弾を確認した。
「2発。」
再び弾を戻して安全装置を外した。
血の臭いが頬を撫でる。
私はその場から離れて最上階に向けて走り出した。




