51襲来③
「ロル?おい、ロル?」
私はロルの頭を揺らした。それと同時に何度も声をかけた。しかし、彼の指先はビクとも動かない。
ダン!ダン!
こちらに向かって銃弾が撃ち込まれた。咄嗟に自分の体をロルバンの頭に被せた。
今は単発。ここ直近で連射がない。弾切れなのか、ただ単に弾を温存しているのか。
「くっそ.....。」
ロルバンを自分の体に寄せてさらに壁際に近づいた。柱に寄り掛からせるようにロルバンを移動させた。私は彼の体の前に座って、撃たれないように覆い被さった。
そして再び彼の肩を叩いた。
「ロル....死ぬなよ?」
ロルバンの瞳孔はとっくの前に閉じていた。徐々に唇の色も無色を帯びていた。少しずつ、握っている手が冷えていく。
彼が目を閉じておよそ5分。息が止まり手先が冷たくなるには十分な時間だった。
私は自分の息が荒れているのが分かる。長距離走を走り切った後くらい。
目の前にいるのは自分の組織を裏切った仲間だというのに、なぜこんなにも心が苦しく締め付けられるのか。
「ロル.....。」
私は彼の胸に泣きついた。心音は全くしない。
心臓の動きは、完全に停止していた。
彼の大きな体からは、止めどなく血が流れ出てきていた。
ロルバンは縦寸があり、その分力もあったため自力で止血できるという特殊能力的なものがあった。しかし今はそんなこと、もう遅かった。
私は彼の胸から少し距離を取った。そして腰に巻きついている無線機を手に取りコアと緊収たちと無線を繋いだ。
「こちらセレナ。たった今、ロルバンが死にました。」
鼻を啜りながら、彼の死を告げた。
しばらくの間沈黙が流れた。その間にも、遠くから銃声音が聞こえてくる。きっとオーディンたちが監視カメラを破壊しているんだろう。来た道を覚えていられるように。
私はもう返答はこないと判断して、無線機を元の位置に戻した。
そして、一呼吸おいて彼の口元に自分の耳を近づけた。最終確認、のつもりだった。
彼の口元にサッと自分の髪の毛が晴れた瞬間、時が止まったような感覚がした。銃声すら、鼓膜に届かなかった。
この感覚は、味わったことある。仲間を失うというこの気持ち。
今でも肌身で覚えてる。
目の前で、彼女が死んだあの瞬間を。
対象は違うけれど、起こる現象全てが同じだった。
「ありがとう。」
私は彼の頬を優しく撫でた。湿った汗が手のひらについた。それに重なるように、自身の涙も零れ落ちた。
ダン!ダン!ダン!
続けて銃弾が撃たれた。
私は頭を守りながら地面に倒れ込んだ。
ここからどう挽回していく?
ロルバンが言うにフーリンは遠距離の攻撃が強い。裏を返せば近距離の攻撃は不得意になる。
私とコアは近距離でどちらかを囮にして殺すという技が得意。これを生かさればいいのだが、彼女の元までかなりの距離がある。まだまともに姿を見れていない。
音がする位置的に階段上にある小さな空間にでも隠れてるんだろう。
クララの元に行くには最低でも彼女の攻撃を交わしてさらに殺して行くしかない。
どうする?こちらの犠牲を増やさないまま敵を殺す方法.....
ダメだ、思いつかない。ロルバンが死んでから頭脳がうまく働いていない。戦略が思いつかないどころか、何をどうすればいいのかも分からなくなってきた。
『セレナ?』
無線機からコアの声がした。
「どうした。」
『階段上までのルートを考えよう。』
「うん。」
私は一度深いため息をついた。
『おそらくフーリンは俺たちが思っているより遠くにいると思う。遠距離銃ってのは音が肌に響くから近くに敵がいると思われがちだ。俺たちの目的はフーリンの居場所を捉えて殺すこと。彼女に近づくためにも階段を登らなければならない。』
「じゃあどうすれば。」
『あえて銃声が鳴っているときに同時に飛び出るんだ。』
コアの予想を上回る回答に、私は黙り込んでしまった。コアの”どうした”という声で我に返った。
「無理だろ。どちらかが撃たれたらどうすんだ。」
『一番近況で撃たれたのは単発。その前は連射。彼女の弾の補充速度的に弾を温存しておくためにあえて交互に使っているのかもしれない。だから次に来るのはきっと連射だ。』
「連射は撃たれる可能性が高い。銃口を左右に動かすだけで撃てる場所が広範囲になる。だから私たちが動き出すタイミングは....」
『次銃声が鳴った次の単発のタイミングだ。』
「この作戦はうまくいくか分からない。かなりの賭けだけど、やってみる価値は大いにある。」
『こちらに勝算はほぼない。』
「殺し屋は勝算じゃない。戦略に抜かりがないかだ。」
『さすが貝ちゃん。それじゃ、また会おう。』
コアはそう言い残して無線機を切った。私も腰の位置に戻して少し前に出た。
まずは敵の位置を確認。そして耳を澄まし、銃声を聞いて飛び出すタイミングを逃さない。
何も抜かりはないか。私は作戦を回顧した。
「ふぅ。」
居場所が悟られないように小さな息を吐いた。
この狭苦しい場所で長時間息を殺すのはかなりの体力を使う。少しくらいの息なんてバレやしない。
私はフーリンがトリガーを引くのを待った。
集中しろ。全身の力を耳に引き寄せるんだ。
ダダダダダダダダ!!!!
きた。
コアの予測通り、単発の次は連射で撃たれた。
そして、しばらくして銃声が鳴り止んだ。
次に来るのは単発弾。このタイミングで一気に奇襲をかける。ここを逃したら次はない。
私はロルバンのトカレフを握りしめて構えた。
..........
カチッ
「み〜つけたっ!あっはっはっは!藤沢、貝ちゃんだよねっ?!」
後ろを見ると、そこには見たことのある女がいた。背が小さく気弱そうな人。これは.....
「そんな顔しないでよ〜。私のこと、階段にいると思ったでしょ?そんな訳ないじゃん!」
彼女は不吉な笑みを浮かべながら私に近づいてきた。恐ろしいことに、彼女の手にはなんの武器も持っていなかった。




