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殺し屋JK、ターゲットは父親でした。  作者: 椿原菜湖
殺し屋JK、ターゲットは父親でした。武蔵野編
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5情報会議



5情報会議


「お久しぶりです。本日もよろしくお願いいたします。多田総に関する情報が集まりつつあります。」

変わらずメイの言葉遣いは抜け目なく美しい。それに対比し、手下のウメは厳しい眼光でこちらを睨みつけている。

今日は多田総を殺害してほしい依頼者、柳小春と東政宗を殺害してほしい依頼者、剣城忠信との情報会議だ。私たちにとっては同じ人間を別々の場所で調べるということだ。

年末近くの霜月、師走の時期に二つの依頼を同時並行するのは中々の重労働だ。睦月と如月は殺し屋自体が休みであり、依頼を受け付けない。だから今年中に依頼を片付けたいところだ。

「俺とウメで聞き込みに行ったよ。」

話を最初に切り出したのはコアだった。


『こんなとこ来て意味あんの?』

『うっせぇな。意味もないのに来るわけ?』

俺とウメは多田総の行方を探るべく、多田の足取りを追っていた。

霜月の終わり、多田総がかつて通っていたトレーニングジム教室に立ち寄った。メイの情報によると、多田とジムのトレーナーである勝地宗輔は飲み仲間だった。連絡先もお互い共有しており、頻繁に連絡を取り合っていた。

『お邪魔しまーす。先日連絡した加藤直之です。』俺はそう言いながら警察手帳を勝地の眼光に写した。勿論これは作り物。俺たちは常に犯罪めいたことをしているのだ。

『あぁ、あの、斉藤さんね。』

『おじいちゃん、加藤さん。』

彼は高齢であり、耳も遠い。腹から出るはずの声も今では灰のようだ。

『勝地さん。多田総さんの、連絡先教えて?』

勝地はあぁと言い千円札を渡してきた。

『勝地さん!これお金!携帯電話から教えて!』勝地は立ち上がり庭の方に出てしまった。

俺とウメは目を合わせてため息をついた。

『あのじじぃ何にも分かんねぇよ。連絡先だけ聞いてまた会お。』ウメの言う通りにするべきだ。このままこうしても埒が開かない。しかし、俺には気になる点がいくつかあった。

無数の穴が開いた障子。

話し言葉の割にはほうれい線のない顔立ち。

気色悪い仏壇。

仏壇に供えてある謎の白い物体。

『勝地さん、今から言う数字を計算していってね。』

『おぉ!面白そうだな。かかってこい!』

俺は勝地の手に計算機を置いた。

『あなたの年齢に3と5と7をそれぞれ割って。その数を教えて。』

ウメは目を丸くして勝地の手の動きと俺の目を交互に見た。

『0と1と1。』

『おっけー。ありがとう!そろそろ普通に喋ったらどうですか?』

俺は勝地の年齢を把握した。この年齢でこの喋り方には違和感を覚える。

『‥‥‥めんどくせぇ!もう言いわ。たっちゃんにも言っておいて、俺らは終わりだって。』

そう言いながら白髪の髪の毛を引っこ抜き本来の髪色をあらわにした。

『ウィッグまで被って。多田について詳しく聞かせてもらおうか。』

勝地の年齢は三十六歳。お爺さんに化けて俺らを騙していた。俺とウメは刑事ではないが刑事並にはなる。

『俺は勝地洋輔。お前の脳内通り三十六だよ。何が聞きたい。多田に関する情報からそれとも俺を逮捕するのか?』

勝地は気味の悪い笑みを浮かべた。

勝地と多田の関係性は先生と生徒ではない。お互い犯罪に手を染める一蓮托生な関係だ。

『お前と多田の関係性だ。どんな仲間なんだ?』勝地は近くにある煙草を咥え吸い始めた。煙草の香ばしい匂いに誘惑される。

『あいつはクソ野郎だよ。俺のことをゴミだとしか思ってない。あいつは人をよく殺してた。その死体の処理やら隠滅やら全部俺がやってたんだよ。』

まさかのびっくり情報。殺しているのは剣城の母親だけなのかと思っていた。

『そっかー。あんたも脅されていた身なんだ。だとしても警察に言わなきゃー。あんたまで罪にかかっちゃうよー。』

『あんたのことはよく分かった。また色々聞かせてもらうから。』

俺は勝地の連絡先を受け取り、玄関口に向かった。すると、勝地が俺の肩に手を置いてきた。

『なぜ逮捕しない?』

あぁそっか。勝地の中で我々は警察なのか。

俺はウメに合図を送った。

(あれを使え。)


カチ


『勝地さん。私たちの言うことをおとなぁしく聞いとけば自由になれるよ。多田からも、私たちからも。』

勝地と多田の過去は知らない。想像するしかないのだ。彼らにしか知らない事情がある。俺たちには話せない言えない知らない方が幸せな事情があるはずだ。

『助けてくれ。俺を、助けてくれ‥!』


コアとウメは勝地と手を組んだ。勝地がもたらす多田の情報は色濃いものだらけだ。

「多田総はかつて、武蔵野市近くの警察学校に通っており、途中で辞めています。その後、裏社会の人間となっています。裏社会で勝地と出会いました。多田が人を殺し、その手伝いをしていたのが勝地というわけです。』

「裏社会の人間ねぇ。俺たちみたいな殺し屋とかやってんのかな〜。人とか殺してるなら。」

表面上、多田総及び勝地洋輔の情報収集はコアとウメ、メイで行っている。東政宗の情報収集は私と剣城で行っている。

依頼者の情報を調べる際には、優先順位が低ければ低いほど、調べる人数が少なくなるのだ。ウメは本職が殺し屋ではないため、参加する日数は極めて少なかった。

「セレナ、剣城って何時に来るの?」ウメとコアが一人の人間のことを情報収集するように、私も剣城と二人三脚で東政宗のことを探るのだ。

つまり、コアと私は同じ動作を二回ずつ行っているのだ。

「七時には来るんじゃない?」

適当に返すとコアははぁーいと言い頬杖をついて目を閉じてしまった。私も夜通し仕事をしていたため疲れが表にで始めた。パソコンを閉じ、覆い被さるように目を閉じた。

そんななか、メイだけはぱっちりと目を開けて自分の作業に打ち込んでいる。この人はどれだけ仕事をすれば気が済むんだと思った。私とコアは仕事中に仮眠を取っているが、メイだけは終始仕事をしていた。私がおやすみと言ってからおはようと言った時にも机に向かって仕事をしていた。少しは休めばと言っても休んだと一点張りをするばかりだ。


コンコン


殺害部隊専用の仕事部屋の扉が叩かれた。その瞬間、部屋にいた全員が気配を消したように動きを止めた。三人の中で一番小柄な私がトカレフを持って足音立てずに扉に向かった。

殺し屋内にいるとはいえ、常に警戒している。

「何だお前か。」

扉を開けた先にいたのは全身びしょ濡れ姿の剣城だった。今日は全国で記録的な大雨。短い髪も鼻下まで伸びており、もはや誰かも認識しづらい見栄えになっていた。

「傘買えばよかった。」

おそらく、そこにいた全員が賛同しただろう。言葉にはしないが。この大雨で傘を使わない奴がどこにいるんだよ。

「東の情報めっちゃ集まったよ。」

剣城はあっそと塩対応だった。同時に嬉しみもなかったように思えた。私はなるべく感情を出さない人間だが、心の中では飛び跳ねるように嬉しいことだった。剣城も私と同じような感情なのだろうか。

「セレナさん、後ろ。」

メイが優しい声でそう言った。素早く振り向いて後ろを見ると、そこにはジョセフが仁王立ちしていた。

「びっくりした。」

私は背後にいるジョセフのことに気づかなかった。いつからこの部屋にいたんだ?

この出来事は殺し屋のメンバーとして欠陥していることだ。

「まだまだだなぁ、セレナは。」私は顔をむすっとし、再び仕事に戻った。

「依頼者の方ですか。確か、剣城忠信さんと柳小春。君は確かメイだよな?死体処理部隊の元サード。」

メイはニコッと笑い頷いた。

一方、剣城はジョセフのことをじーっと見つめていた。

「剣城さんとは初めましてですよね?」

二人は握手を交わした。大きく肉がついた分厚い手と手が握りあっていた。

「あなたがジョセフさんね。よろしく。」

その後の二人に変わった様子はなく、強いて言えばジョセフの手の甲が赤く染まったことだけだった。

「えーそれでは全員集まったので情報会議を始めます。先に東班お願いします。」コアに指示され、私は自席を立った。

「東政宗五十二歳、新情報として東政宗は現役刑事もしくわ元刑事の可能性が高いです。確保する際は万全の準備をした方がいいと思われます。先日伝えた東の通っているガールズバーについて。ロルバンが経営しているgirlだと新たに判明しました。以上。」

私は一礼をし、席に戻った。

「次に多田班。」コアに指示され、メイが席を立った。

「はい。多田総五十二歳、2,009年時には武蔵野市内のアパートに住んでいました。現在は拠点を変え、練馬区もしくわ板橋区付近に住んでいると思われます。多田は身長が高く、180はあります。確保する際は身長の高いロルバンが先頭に立ってくれるとありがたいです。」

メイの聞き取りやすい声明に聞き入ってしまった。

「二人同じ年齢なんだな。」ウメがぽつりと呟いた。

ウメはいい線をいっている。二人が同じ年齢だとか見た目の特徴ご似ているだとか。やはり人をよく見ている。

「結構集まってんじゃん。こんだけあれば確保できそうだな。」コアは両手をポケットに突っ込みながら呟いた。

「十二月の十八日。東は毎週水曜日にgirlに行っています。確保するにはこの日がいいかと。多田の方は東の次にしましょう。」

メイは東班ではないのに東の情報を集めてくれてる。効率も良く正確なものばかりだ。

「了解。俺がまとめておく。引き続き二人の情報収集をしろ。解散!」コアがパチン!と手を叩いた。

私は自分のロッカーにパソコンと資料をしまい鍵をかけた。部屋の中を見回すと剣城とウメの姿がなかった。すでに帰路に着いているのだろう。

「そんじゃあお疲れー。」コアとメイが部屋を後にした。

仕事部屋には私とジョセフの二人だけになっていた。「貝ちゃんまだここにいる?」

「いや、もう帰ろっかな。」

「ペヤング食べない?」

「食べる。」

私は即答をし、仕事部屋に留まった。ジョセフが持ってくるといい私は席に座らせられたと言った方がいいか。


コンコン


数分経った頃、仕事部屋の扉が叩かれた。私は香ばしい匂いにつられて席を立った。

「いやいい匂いすぎるんだが。」そこにはペヤングを二つ持ったジョセフがいた。私の大好物、ペヤングだ。そして二つある。少し辛味のある脂が程よく広がる器から漂う薫香はどうしてもやめられない。

「それな。」

ジョセフはそう言いながらズカズカと部屋の中に入り椅子に腰掛けた。きっと私の無言の視線を感じ取ってくれたのだろう。

「いただきます。」

私も座り、割り箸を真っ二つに割った。

「うっんま。」ジョセフの方に目をやると私のことを録画していた。スマホのカメラのレンズがこちらを見据えていて思わず目を逸らした。

「ちょっと何すんの!」

そう言ってスマホのレンズに手のひらを当てた。

ピロンと切れた音がするとそっと手を離した。一体ジョセフは何がしたいんやら。

「最近かいちゃんの写真いっぱい撮ってる!」

「きっも。」

ペヤングをほおばっていると、ジョセフが喋り出した。

「もし、僕がKi殺し屋を辞めて、逃亡するって言ったら貝ちゃんどうする?」

ジョセフの予想真反対の言葉に絶句した。

「へっ?やめんの?」

必死に脳をフル回転させて抜き出した言葉がこれだ。

「‥‥冗談冗談!僕はずっとKi殺し屋のヘッド。」

冗談か。本当なわけないよね。ジョセフが冗談って言うなら冗談か。怪しい間は気にしないようにした。

いつものジョセフなら冗談なんて言わない。なぜこんなこと言ったんだ?表面的な会話で深い意味はないといっても、彼の心の内では何か思っていることがあるだろう。しかし、彼がそんなこと言いたがらないなら無理にこちらから話を深掘りする意味もない。

「二つの依頼が師走に差し掛かった時に来るなんて面倒臭いな。どちらも片付けられそうか?」

私はペヤングを口含んだままうんと頷いた。ジョセフは何も言わずにペヤングをたいらげ、席を立った。

「貝ちゃん無理しないでね。おやすみ。」

「ふぅ。」

もう少し、仕事をして帰ろう。ロッカーからパソコンを取り出しページを開いた。


仕事が終わり、殺し屋から自宅に向かって帰路を辿っていると、コアから連絡が来た。

「もしもし?」

『あ、もっしー?明日の夜の八時四十分に吉祥寺駅の公園口に来て。』

「おっけー。girl?」

『うん。遅れないでね。またね。』

コアは私より早く電話を切った。

girlとは手下のロルバンが経営しているガールズバーのことだ。

殺し屋に属している多くの人間は別で本職があることがほとんどだ。しかし、各部隊のヘッド、セカンドヘッド、サードヘッドはみな殺し屋が本職となっている。

コアからの電話の内容は、明日の二十時四十分に吉祥寺駅公園口に集合し、中野区内にあるロルバンのガールズバーに潜入するという連絡内容だ。ここのガールズバーは東政宗の行きつけのガールズバーだと剣城の情報収集により判明している。

東政宗の情報は容易く集まるのに、多田総の情報を集めることは、東政宗の情報収集と対比しているかのごとく、まったく集まらない。

しかし、東の情報を集めればその情報は多田の情報となる。問題ない。

コアとメイのダッグは良いものかと思っていたが、そうでもなかったようだ。言葉より行動を見る私からしたら、コアの仕事の効率が悪く見える。メイは良いとして一人が駄目だったらあとも駄目になるように、一人のせいで物事の進みが悪くなっているのだろう。

明日にでも東を殺害すればメイも睡眠をとることができる。明日は私とって今年最後の仕事となるだろう。




『お前、いくつ?』

『十五。』

こいつと出会ったのは二十年も前。

『着いてこいクソガキ。』

『痛ってぇ!引っ張んじゃねぇよ!ジジイ!』


パシン!


『てめぇ今の言葉言ったら次、命ねぇぞ?』

「うっせぇよ!』

コイツは大きな二重目に涙を溜めていた。コイツの周りには煙草を吸っている連中や怪しい白い粉をちらつかせている奴もいた。しかし、コイツだけは異彩を放っている。

殺し屋に誘ったのはコイツが初めてだったな。

『お前、いくつ?』

『今年で三十五っすよ。』

『そっか。お前に話したいことがある。』

『なんすか?』

『俺、もうすぐ殺されるかもしれねぇんだわ。セレナ達に。』

『こないだ言ってたやつっすか。』

『あぁ。いつもの偽名を使って手を討て。』

『洋輔頑張ります!』

『冗談は聞いてない。』

コイツは僕に一礼をして部屋を出た。


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