45終幕、ラビットアサシン
「へ‥‥?」
ロルバンは半目になっており、顔全体が涙でいっぱいになっていた。もはやどこに目があるのか分からなくなっていた。今はそんなの関係ないけど。
私はコアの方を見て低い声を出した。
「コア、下せ。」
「なんで」
「いいから下せ。」
コアの話したいことを遮ってまで指示をした。コアは舌打ちをしながらトカレフを下ろした。
「クソ野郎が。」
コアはロルバンの額をデコピンした。余計なことをするなと思った。
「おいロルバン。なぜ私たちがこんなにもお前を追い詰めているか分かるか?なぁ、聞いてんのか?」
「やりすぎんじゃねぇぞ〜。」
横からコアが口を挟んできた。今はお前の意見なんかそこら辺の埃よりも興味ない。
「裏切ったことだ。仲間を、戦友を、絆を!!お前は自らの手で放したんだ。」
「俺は、俺はただラビアサの奴らに脅されて」
「お前を仲間だと思っていた奴らに顔負け出来んのかぁ?!!」
部屋が少し揺れた。私の声で。こんなに声量が出るのかと、私の声にはカラオケでいうこぶしが多く含まれていたと思う。そう意識したからな。
「いいか?裏切ったら殺されると思え。殺されない覚悟があるなら何度裏切ったっていい。好きな時に私たちを見捨てればいい。ただしな、今の状況を見ろ。お前はつめが甘すぎるんだよ。絶対殺されないという覚悟が足りないんだよ。」
私はひたすらロルバンの目を見た。死んだ兎のように目が血走っており口からはよだれがダラダラと出ており、もはや制御できない状態になっていた。
私とロルバンでは身長差が20センチもあるのに彼が押されているなんて考えられない。ロルバンも背丈の小さい私を攻撃すればいいのに。こんな小さな体なんだから簡単に殺せるだろ?
「何泣いてんだよぉぉぉ!!!!」
ガチャァァァンン!!!
「なんで、なんで殺してくんないんだよ!早く、死なせてくれ。もう、もうこんな状況に耐えられない。」
ロルバンは私の腕を掴んで思い切り押し倒した。ついに彼は攻撃出たのだ。私の体はロルバンとともに床に強く叩きつけられた。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
荒い息がこちらにまで届いた。息と一緒に邪悪な涙まで私に降り注いだ。私はその度に瞬きをした。
「おいてめぇセレナに何しやがる?!」
コアがトカレフを再び構えた。
その姿を見て私はコアの目を見た。
(殺してはダメ)
そう訴えた。首を振りながらロルバンを庇った。
コアは驚いた顔をしていたが、それと同時に私を睨んだ。
コアは今すぐにでもロルバンを殺したいだろう。目をガン開いてイっちまってるぜ。
なぜならロルバンが私を押し倒したからだ。自分で言うのもなんだが、コアは私のことを命に変えてでも守ってくれてるのだ。
私は目線の先をコアからロルバンに向けた。
「いいか。お前は私たちを裏切る行為をした。当然許されない。けどな、責任を負うということはできるはずだ。責任を負って、逃げずに、最後まで、戦え。」
「なんで‥‥なんでそんなに優しいんだよ。」
「‥‥お前が、仲間だからだ。」
ロルバンはさらに泣き叫んだ。
どうしてこんなことをしたのか。
取り返しのつかないことをしてしまった。
本当に謝りきれない。
と、何度も連呼した。
彼にとって、何らかの事情があってラビットアサシンのスパイをしていたという事実は変わらない。私たちを裏切ったという事実も変わらない。何かしたら責任を負う。許してもらえるまで謝る。
人間には限界がある。謝る側も、許す側も。いつかどちらかが折れて事実を受け入れなきゃいけない。今回折れなきゃいけないのは、私のようだった。
私はロルバンの背中をさすりながら起き上がった。
「お前には、まだやることがあるだろ?」
「ごべん‥‥もう、ごめん。」
ロルバンは周りよりも大人びていて誰よりも策士だった。いつでもki殺し屋のために動いて私たちの立場を守ってくれた。周りをよく見ていて困っているメンバーがいたら肩を貸して一緒に解決策を見つけてくれていた。少し乱暴なところもあったけど、そんなことを忘れさせられるくらい、いいメンバーだった。
「白川春綺は、ラビットアサシンのアジトにいるのか?」
「うん。あそこの最上階にいる。」
「連れて行ってくれ。」
ロルバンは大きく首を縦に振った。何度も何度も振った。もうそろそろ頭が痛くなるんじゃないかと思うほどに。
「よしっ!それじゃあ、ホシを殺しに行こうか。」
私は立ち上がって机の上に置いてあるロルバンの拳銃を手にした。中に残弾が入っているかを確認した。残り5個の弾数が挿入されていた。本来なら6発まで入弾可能なのに、なぜ5発しか入ってないんだ?今はそんなこと聞ける雰囲気じゃないため、私の疑問はかき消された。
「ロルバン、車出してきてくれ。」
私はロルバンに指示を出した。私が彼に指示を出すのは、これが最後になるかもしれないな。なぜなら、ずっと前から死者が出る予感が肌身を離さないからだ。私たちは今から、ホシが所属がする殺し屋ラビットアサシンのアジトに行く。ラビアサのメンバーは全員であったがその内1人は死亡。2人はki殺し屋の病室で隔離されている。その3人はたまたま全員男性。そのため現在ラビアサに残っているメンバーは女性。戦力外にヨナスとニクラスがいるのはこちらにとってかなり有利な状況だった。
現在ラビアサに残っているのは、フーリン、ナハト、クララの3人だ。クララは教景が依頼してきたターゲットでもある。フーリンとナハトはそこまで強くないと思う。私がラビアサのアジトに囚われた時、瞬時にクララの銃を奪うことができた。
『動くな!今すぐ私を解放するか、コイツを見殺しにするか、どちらかにしろ!』
『バケモンかよ‥‥‥!』
フーリンは一時的に私の方に向かって銃口を向けてきたが、動揺して弾道が定まっていなかった。その時撃てば私を殺せたのにも関わらず、彼女はトリガーを引かなかった。
残ったナハトは私が一発蹴りを入れただけで失神して伸びてしまった。
このことから考えて、今のラビットアサシンはかなり衰退化していると思われる。
ガチャン
私とコアとロルバンは部屋を出た。
「私は教景に伝えてくる。二人は先に車庫だしをしてきてくれ。」
「了解。」
コアは返事をした後、ロルバンの腕を掴んで車が停めてある方に歩いて行った。二人は距離を少しずつ近づけながらお互い歩幅を合わせていた。
私が殺し屋に所属する前から二人は仲間として共に活動していた。お互いの歩くスピードなどとっくに把握しているんだろうな。
「はぁ。」
私は一呼吸ついてから反対方向に向かって歩き出した。徐々に歩くスピードを早めて彼の元へ急いだ。
これから何か嫌なことが起きる気がしてならなかった。
あえてエレベーターを使わずに階段を使い下へ降りて行った。最近エレベータの調子が悪いと言う理由もあるが、気分的に階段で行こうと考えていた。
「よいしょ。」
地下二階まで降りると、一本の長い廊下が現れた。廊下に接している部屋がいつかあった。病室1〜5、食品貯蓄部屋、予備武器庫があった。
「1、2、3、4と。」
私は一つずつ指を指しながら病室4の部屋の前まで歩いた。
ここは教景が滞在している部屋だ。
コンコンコン
三度ノックをして部屋の扉を開けた。
「元気かぁ〜。」
私はポケットに手を入れながら部屋に入った。今日は黒スカートに白Tシャツ、灰色のベストを着てその上から赤色のパーカーを着ていた。私の一番お気に入りのコーデだ。
「こんにちわ。」
「元気じゃなさそうだなー。そんなに私と会うのが嫌だったか?」
「そういうわけじゃないけど、何の用でしょうか?」
相変わらず教景は女みたいだった。背丈に恵まれているのにも関わらず常に弱気な姿を見せている。勿体ないと思うけどな。
「いい知らせだ。今から白川春綺を殺しに行く。」
「え?」
「なんだ、嬉しくないのか。金まで払って殺して欲しいんだろ?」
私が思っていた反応とは違った。変に甲高い声を出して喜ぶのかと思っていた。
途端に、教景は見たことのない表情を見せた。目にかかった前髪で目元はよく見えなかったが、歯を思いっきり剥き出してヴァンパイヤのように笑った。
「ついに、ついに‥‥あいつが死ぬ‥!」
「教景?」
ガチャァァンン!!!
「はるき‥‥はるきぃぃぃぃぃ!!!!!」
教景はベッドのそばに置いてあった机を壁に向かって投げた。一瞬にして部屋の中で何度も家具が倒れる音が鳴り響いた。
「おい何やってんだよ?!」
「あの女殺せ、早く殺せ!!!」
教景は人が変わったように怒り狂った。あの女と連呼し、殺せと言った。きっと春綺のことだろう。
私は教景を落ち着かせようと声をかけた。
「落ち着け!」
暴れ狂う教景の体を壁に押さえつけた。
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」
荒い息を上げながら彼の動きが止まった。
「お前の!姉を!今からから殺しに行くんだよ!!」
「なんでだよ、なんで俺がこんなに苦しまなきゃいけねぇんだよ。」
教景は泣き出した。子供のように泣き出した。わーんわーんと。今日はロルバンにも教景にも泣かれてこちらの対応が流石に疲れてきた。
でもこんなことは今夜だけだと思い、踏ん張り自分を奮い立たせた。
「実は、お前も春綺のところへ行くかと誘いに来たんだ。こんなこと例外だが、お前の手で姉を殺した方がいいんじゃないか?これはボスとしての判断だ。」
「‥‥いく、行く。俺があの女を、殺す。」
私は教景の方を見た。
先ほどの顔とは変わり、いつもの教景に戻っていた。しかし違う点が一つだけある。それは、負けないという意思が目力で伝わってきたことだ。今までにはない殺気が伝わってきた。とんでもなかった。
殺し屋のメンバーでさえ、殺気など感じたことなかった。だって殺し屋というのは金のために動いている非政府組織なんだから。
教景からこんなにも殺気を感じるのは、一般人だからだ。人を殺めたことのない人間だから、自分の愛する家族を家族に殺されたから。
「行くぞ。姉を殺しに。」
私と教景は立ち上がった。教景の肩を持ちながら鍵を取り出した。
ガチャン
部屋の扉の鍵をしっかりと閉めた。
「これを、渡しておくぞ。」
私は懐からトカレフを取り出して教景に渡した。
「ここを引けば安全装置が作動する。使用しないときは常に作動しておけ。」
「お前の分は。」
「これがある。仲間の物なんだ。だから何かしら守ってくれると思って。」
「そうか。」
私はロルバンの拳銃を見つめた。
「セレナー!解読できたぞー!ってあれ?」
仕事部屋の鍵がかかっていた。何度ドアノブを捻っても開かなかった。
俺はスマホを取り出してセレナに電話した。
「ただいまおかけになった電話は‥‥もしもし?!」
「おぉびっくりした!セレナ今どこにいる?」
「もうすぐ着くんだけど、医療部隊を配置しといてくれ!アルたちの意識がないんだ!」
「は?アルが?」
「いいから早く林村を呼べ!!」
「わ、分かった!」
セレナの早口言葉で電話が切れた。
そういえば殺害部隊と緊急事態収束部隊はホシの元に行ってるって言ってた。
俺は解読した資料をポケットに無理やりいれた。
トコトコトコトコトコ!!!
「もしもし?林村?アルが重症なんだ!医療部隊を手配してくれ!」
俺は林村に電話をしながらヘリコプターの到着を待った。




